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(本屋のエッセー:4)月は本当に綺麗だった、という話

2022.9.13

月は本当に綺麗だった、という話

 2022年、9月10日は中秋の名月だった。年に一度のお月見の日。思い立ったら吉日。当本屋カフェでは『お月見酒場』と題して夜間特別営業した。本来の目的は、月が出た出た、年に一度の特別な満月を皆で愛でようというものだったが、思いの外お客さま皆様、酒場よろしく、ほろ酔いで楽しんでいただけたようで、月並みな表現だが私も良い宵の時間を過ごせました。
 かの夏目漱石が、”I love you.”を「ア・イ・シ・テ・ル。」と直訳した生徒に「日本人が素でそんなこというわけねーだろ、奥ゆかしい日本人はたぶんこんなふうだぜ、とでも言っときなさい。」といったのが『月が綺麗ですね。』とは有名なフレーズで、(本当にそう教えたのかどうかは定かでないらしいが)伝説である。
 「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」も正岡子規の有名な俳句であるが、これを詠まれて「夕方」を言わずもがな連想するのも日本人だけと聞いた。「秋」「オレンジ」「切ない」「芋・栗・かぼちゃ」を連想するのだろう。秋はとてもいい。
 さて、私が若干22歳の初・就職先での「君の感想などどうでもいい。事実は事実としてレポートしなさい。」という上司のアドヴァイス。その時分は、確かに、私の感じたことなど糞ほどもの、聞くに堪えないと納得したものだが、今こうやって自由にあーでもないこーでもないとのたまっているのも、その御方は知る由もないだろうが、人間なんて白黒ハッキリ付けられるものでもないし、グレーゾーンのままゆるゆると、心の赴くままに、徒然と書き記すだけであります。今宵のなんでもない月にも、本当に綺麗だ、綺麗ですね、と乾杯して物思いに耽る秋の夜長なのでした。
(終)

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