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Behind Design 「ANTCICADA#2 誰かにとっての『意味』を編集するデザイン フォント編」

301のクリエイティブ制作の裏側をお伝えするシリーズ第1弾は、レストラン「ANTCICADA」のクリエイティブについて。「ANTCICADA」は、地球少年として活動する篠原祐太氏を中心とするチームが、昆虫食をはじめとする地球上のあらゆる生き物の可能性を追求するレストラン。今年秋にOPEN予定です。301はこのレストランのVIとコンセプトメイキングを担当しています。

今回は、「ANTCICADA」のクリエイティブを牽引したデザイナーの宮崎悠にインタビューし、フォントへのこだわりを聞いています。

ーーフォントを制作するにあたり、こだわったポイントはありますか?

宮崎 ANTCICADAのフォントは、フォントとしての機能だけではなく、ビジュアルにもなる。だからあえて、虫のフォルムを生かすことを優先して、いびつさを残した。普通はフォントを作ろうと思ったら、同じような太さに見えるように揃え、いびつなものを排除してバランスを良いものにする作業が必要で。例えば、「O」の右上の部分は黒が溜まっているように見えたり、「D」が「C」に比べて線が細かったりとか。本来はそういう部分は調整するところを、ビジュアルとしての美しさや虫としてのリアルなパーツを優先して制作した。個々のフォントがそれぞれの美しさを主張しつつ不安定に並んでいる、それこそが生物の多様性を受け入れる、篠原さんのフラットな姿勢に結び付くのではと思って。


ーーこれは全部、違う種類の虫なんですよね。「これはなんの虫?」というようなコミュニケーションに繋がるのも想像できます。

宮崎  フォントと合わせていろんな26種類、数字も合わせると更に増えて36種類の虫の手や足を使ってる。それは多様性ということを表現することに徹底したから、同じ虫の系統が数種類いるということはあるけど、基本的には同じ虫からパーツを拾うということはしなかった。

ーー普段見慣れない虫を、見続けることにはちょっと苦労もあったかな?と思うのですが、、(笑)。制作自体で大変だったこととかはありますか?

宮崎 特にないかな(笑)。美しい虫を探していって、虫に詳しくなったのは予想外だったけど(笑)。ただ制作する時に注意したことは、虫のパーツとアルファベットを合わせる部分で、虫の形を歪めないために、コラージュのように貼り付ける意識すること。例えば「S」のフォントと虫の接続部、ぬるっと繋げることもできるんだけど、「S」の中腹くらいからタガメの爪になってるのね。これをならして滑らかにタガメの爪へ繋げることもできるんだけど、あえてそういう接合部分はわかるようにした。他のフォントでも注意していて。「J」だって繋げようと思えば、スッと繋げることはできるんだけど、あえてポコっとした接合部とか、ニュアンスを残す、とかね。

ーーそれは多様性を大事にするという観点から?

宮崎 それだけじゃなくて、「篠原くんの目から見える虫の美しさを表現する」という大コンセプトも忘れてない。虫のありのままの美しさを見せていく、そう考えると虫のパーツとアルファベットが滑らかにつながるように、足や触覚の形を変形させることはしない方が良くて、わざとまとめるようなことはしないようにしたんだよね。

ーー301のデザインコンセプト「シンプルで奥深い、ちょっとユーモアがあること」という部分に重なると思ったのですが。

宮崎 そうだね、シンプルに表現するためにはいろんな方向があるけど、301が考える「シンプルなこと」とはその人にとって意味があるものを正しく、簡潔に出してあげるということ。虫の本来の形を無視して、可愛くデフォルメしたり、単純に表現したりするという意味合いの「シンプル」もあるかもしれない。そうではなく、虫の美しい手足、触覚をそのまま伝えるという意識が奥深いものに繋がる。更にユーモアとして、人と人とか繋がるように活用して欲しいからフォントにひとつひとつ違う虫を入れ込んで、会話が生まれたら良いなと。

ーーANTCICADAのクリエイティブは、301の考え方と一致しているからこそできたものなんですね。

宮崎 うん。特に篠原くんの思いというのは、とても301と相性がよかった。彼は自分を飾ろうとしないから。だから、ビジュアルとしてはカッコ良く仕上がってるんだけど、それは結果としてであって、方向性自体は、篠原くんが思っている虫の美しさをクリエイティブにそのまま出そうというところから出発しているんだよね。もちろん価値観をひっくり返す上でのカッコよさは必要なんだけど、それは飾ってまで出すものじゃない。

それに、「誰かがカッコいいと思っているものは、きっとカッコいいに違いない」という思いが個人的にすごくある。「人に伝わらない」ということは究極的にはなくて、伝わってないということは単にその人の感性と同じように感受してもらうための編集が足りてないからで、物事はきちんと整理して、翻訳してあげれば、きっと他の人にも伝わると思う。だから篠原くんがカッコ良いと思っているのであれば、それを編集したら、みんなに伝わるんじゃないかというのがコアコンセプトにあるかな。

続く
次回はショップカードデザインの裏側です。

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