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エッセイ:愛すべき別府湾

 海を見て育ってきた。
 生まれも育ちも大分県。そのなかでも海沿いの地域なので、海はいつでもそばにあった。別大国道を走ったり、日豊本線の電車にのんびり乗っていれば、わざわざ見に行かなくとも海を見ることができる。
 私にとっての海とは、別府湾だ。
 大分県の、北に国東くにさき半島、南に佐賀関さがのせき半島という独特の地形により、みごとな『湾』となっている。そんな地形のため、別府湾はどこから眺めてもたいてい視界に陸が見える。
 だから私は、「ただただ広い海」「ひたすらに続く水平線」というものは見たことがない。『海』と言われて想像するのは、いつだってあのまるい別府湾なのだ。そして私は、海が、別府湾が好きだ。
 

 海にまつわる記憶を振り返ってみた。

 小学校低学年くらいの時、祖父と朝市に行ったことがある。早起きして、祖父の車に乗って、港へ向かった。競りをやっていたかもしれないが、そのあたりの記憶は無い。私は魚を買う祖父を待ちながら、野良猫を探したり、回転焼きの屋台を見つけて祖父にねだる計画を立てたりした後、海を眺めていた。小さな船と船との間で、キラキラと波が揺れていた。
 朝の風。魚のにおい。潮の香り。頭の片隅に回転焼き。
 きっと、それ以前にも海には行ったことがあると思うのだが、鮮明に覚えているなかでいちばん古い海の記憶は、この朝市だ。

 それ以降も、海にはよく訪れた。
 いつだったか、高校生か大学生くらいの時に、ひとりでふらりと別府市の餅ヶ浜もちがはまに行ったことがある。日射しの強い、初夏の頃。
 なぜそこに行こうと思ったのか。どうやって行ったのか。そういったことは覚えていないのに、ひとり、ぼんやりと海を眺めて物思いにふけっていたことはよく覚えているのだ。

餅ヶ浜 向こうに見えるのは高崎山

 

餅ヶ浜 向こうは日出方面?


 よく訪れるのは、西大分にあるかんたん港園こうえんだ。西大分駅から近いし、なんなら大分駅からでも歩いて行ける距離にある。景色も綺麗だし、網羅できていないがカフェも充実していて、社会人になってからはかなり気に入っている場所だ。
 疲れた時、ストレスが溜まった時、よくわからないけれどいろいろ嫌になった時。カフェでコーヒーをテイクアウトして、ぼんやり海を眺めている。何かが解決するわけではないが、それだけで穏やかになれる気がする。

 そういえば、私の海の思い出は、泳いだとか、大勢で遊んだとかいうものではなく、「ひとりで眺めていた」というものばかりだ。
 果てしなく続くでもない、向こうに陸が見える別府湾が、私には合っているのだろう。ひたすら広がっているのではなく、遠くに世界がきちんと見えるから、安心して眺めていられたのかもしれない。


かんたん港園 赤と白の灯台が好き


かんたん港園 浮き輪?かわいい。


 私は、海を見て育ってきた。
 広く、遠くまで続く海…、ではなく、向こうに山や町が見える、別府湾を。

 また、海を見に行こう。
 いろんなことに疲れたら、別府湾を見に行こう。





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