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ショートショート:師走ちゃん

 お坊さんが走り回るくらい忙しいから、師走。12月とは忙しい時期らしい。
「きみも忙しいの?」
 どこからか声がする。辺りを見渡すと、いた。俺の狭いワンルームの小さなベッドに腰かけて、にやにやしながらこちらを見ている。
 ああ、いつの間にやって来たのか。
 俺の不快な気持ちなどおかまいなし、というように、そいつはベッドでくつろいでいる。

「ねえねえ、忙しいの?」
「いいや、全然。忙しくないね」
 俺は忙しくない。突っぱねるように言うと、そいつは立ち上がり、俺の顔をのぞきこんできた。
「本当?本当に忙しくないの?」
「本当さ。忙しさなんて俺には関係ないね」
「ほんとかなあ~?」
 そう言いながら背中で腕を組み、くねくねしながら俺の回りを歩いている。うっとおしい。

 そいつのことは、よく知らない。
 わかっているのはいつも12月になるとやって来ること。それから、とんでもないお節介であることくらいだ。
「ねえねえ、本当に大丈夫?」
 ほら、始まった。

「本当に何にも予定ないの?」
「もうすぐクリスマスだけど、どうするの?」
「年末は?帰省するの?」
「そういえば、デパートの年末セール行くの?」
「また連絡するって言ってた友だちは?どうなったの?」
「大掃除いつにする?」
「カーペットのシミ、そのままにしとく?」
「忘年会あるの?」
「サークルの飲み、言い出さなくて良いの?」

 ああ、次から次に、うるさい!

 俺の回りをくねくね動きながら、ずっとこんな調子だ。うるさい、うるさい。
 こうやって、平穏に過ごしたい俺のことを邪魔してくる。

 そして、最後には必ずこう言うんだ。

「本当にやり残したことはない?」

 俺は何も答えなかった。
 
 そいつはいつも、12月になるとどこからともなくやって来る。
 何者なのか、詳しいことはわからない。
 ただ、平穏に過ごしたい俺の心を惑わそうとしてくるだけの存在。

 俺はそいつを、「師走ちゃん」と呼んでいる。




※フィクションです。
 ここ最近、心がざわざわしているのはきっと師走ちゃんのせい。

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