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ショートショート:夜光おみくじ

ぼくは家を飛び出した。

ママの花瓶を割っちゃった。ばれたらどうしよう。

もう暗かったけど、近くの神社に走った。

神社は暗くて、誰もいなかった。初詣のときは、夜でも明るくて人がいっぱいいたのに。

「いらっしゃい」
声がした。
誰かいる。よかった、ぼくだけじゃないみたい。

「こんばんは」
そこにいたのは、着物のお姉さん。
「どうしたの?ひとり?」
「うん」
「夜光おみくじでもする?今夜だけの、特別なおみくじ」

お姉さんは木の箱を見せた。
「いいの?」
「もちろん」

木の箱から取り出したおみくじは、ぼんやり光っていた。

『家族と仲良くすると大吉。素直になりましょう』

そのとき、おーい、とぼくを呼ぶ声がした。
「パパ、ママ!」

「もう、探したんだから!」
ママがぎゅっとぼくを抱き締めた。

「さあ、帰ろう」
パパが言った。

ぼくは、ふたりと手を繋いで帰った。

「ごめんね」
とつぶやくと、パパが黙って、ぼくの頭をなでた。

お姉さんと夜光おみくじは、いつの間にか消えていた。



(410字)




※フィクションです。
 たはらかに(田原にか)様の企画『毎週ショートショートnote』に参加いたしました。
 今年のおみくじは「小吉」でした。





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