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白夜の憧憬

白夜の憧憬

白夜のあの場所へ戻りたくて
戻りたくて戻りたくて
焦がれた涙は枕に染み込む

それは 遠慮がちに一瞬差し出された
小さな手に垣間見える場所
アイコンタクトとは別の手段で
世界を共有する術の存在すら不確かで
でも模索する指先に垣間見える場所

白夜に緑のオーロラ状の電磁波が
妖艶に降り注ぐ場所

それは風と草原の音に並んで座って目を閉じて
耳を傾ける時とオーバーラップする場所
その手で、街路樹の赤い花を
友好と尊敬の証として髪につけてくれる
その手に感じる場所

飛行機の音で機体を判別でき
体を揺らしながらレクチャーする
そういう片割れのたくさんいる場所

夏の夜空がみたくて思わず砂場に寝転んだら
何も言わずに横に寝転んで空を見上げてくれる
そういう仲間のたくさんいる場所

手を取り合って輪になって
不揃いで美しい色相環を
キャッキャと騒ぎながらつくる子供たちの
たくさんいる場所

手をつないでただ黙って
街の喧騒や街中の湖や
遠くの国や目の前の結婚式のパレードや
行き交う牛や楽隊の奏でる民族音楽や
そこから派生したシタールの曲を
口ずさめる人の隣にいる場所

先に旅立ってしまった一人を想い
彼女の安寧と万物に遍く還元された存在を
頼もしくも羨ましくも思い
また彼女の闘いに敬意を贈る


憧憬は目を閉じる程激しく
そこに戻りたいと幾ら願っても遠く
目眩のする程の遠さにただ涙を流す

百年の孤独
わたしはこの世界で 果たしてどう生きていったら良いのだろう?

05DEC2020
-satomi


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 同類だなぁ、と感じる人に会うと、ほっとするのです。

 コミュニケーションに戸惑いがあり、でもそれを社会化されたやり方で繕うことを身に付けていない。武装していない。だから、その違いが際立って、傍目からは見える。でも本人は意も介さない。恵まれた同類。

 もしくは、洗練されたやり方を学習した通りに繰り返し乗り切っている友人。その合間に、でも、繕い損ねてそこにあるほつれから、地が垣間見えて、それが一瞬光を受けてこちらの目に刺さる。

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 高機能自閉症――自身がそのカテゴリに当てはまり、それを乗り越え「こちらのことば」で表現し得たドナ・ウィリアムズの著作で、知った言葉。彼女の世界には、そうした人達と出会ったときに「社会的な、学習されたコミュニケーション」の仮面の裏に、そうした人独自の音や色が織りなす世界を見る瞬間、それを悟る場面がいくつか出てくる。そうして、彼女は自分も持つそれを共有し得る人間をこの地球上に見つけ、歓喜する。

 全てはスペクトラム状のグレースケール。私はドナ程の際立った感覚やそれと対を成す困り感はない。けれども、そのスケールが端から端まであったとしたら、中ほどではなく、どちらかの極に比較的迫ったあたりにいるんだろうな、と感じる。

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 「同類」に「会った」のは旅の途中が多かった。なぜか「同類」でない人と家族を作ってしまったわたしは、だからそこで過ごす時間が多い分、孤独で寂しいと感じる。実際、彼は異国人だが、そういう特性的な面でも異星人どうしの結婚みたいだ、と常々思っているし、むしろそれはファミリージョークにもなっている。

 「会った」とカギかっこ付きにしたのは、その人との対話の精度を心が通う程度持てたかが、問題だから。一緒に爬虫類やヒコーキの話ができる人が、多かったな。特に第二、第三言語どうしでお互いの外国語である英語を使うと、「人間」として知り合うのが簡単だ。社会通念やジョーシキ抜きにして。だからASDグレーだったりする人はぜひ英語を。

 旅に出たいな。固定されないで、毎日を旅にしたい。

 

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