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#2 「LIFE SPAN」 老化を食い止めるために自分自身でできること

前回の投稿では#1『LIFE SPAN』前半として、老化と若返りの第一人者である著者が実践している内容、問題提起をまとめました。後半では、具体的に私たちが老化を食い止めるためにすべきアクションについて書いていきます。

間違いなく確実な方法 ー 食べる量を減らす

私は約25年にわたって老化を研究し、何千本という科学論文を読んできました。そんな私にできるアドバイスが一つあるとすれば「食事の量や回数を減らせ」です。長く健康を保ち、寿命を最大限に延ばしたいなら、それが今すぐ実行できて、しかも確実な方法です。

厳しい食事制限をすると、生涯にわたる効果が得られる。これを初めて科学的に探究する取り組みが始まったのは、第一次世界大戦の末期、幼児期にエサを制限されたために発育の遅れたメスのラットが、たっぷりと食べて育ったメスのラットよりはるかに長く生きたことでした。

ただの段ボールを20%含むエサをラットに与えると(摂取8割減)、一般的な実験用のエサを食べたラットより大幅に長生きすることを示しました。その後80年にわたって数々の研究が行われ、栄養失調にならない程度にカロリーを制限すれば、あらゆる生物の長寿につながると繰り返し実証されてきました。

1978年における研究。100歳以上の住民が多いことで知られる沖縄では、児童の摂取する総カロリーが、本土の児童の3分の2に満たなかった。成人においても同様で、本土の成人より約20%も低かった。沖縄の人々は長生きだけでなく、健康寿命もまた長く、しかも脳血管系疾患、悪性腫瘍、心臓病が非常に少ないこともわかりました。

1980年代からアカゲザルを用いた研究では、アカゲザルは遺伝的にヒトのいとこにあたり、それまでに知られていた最大寿命は40歳。ところがこの研究でカロリー制限をした20頭のうち、6頭がその年齢に達しました。人間でいえばだいたい120歳とのことです。さらに、一生カロリー制限を続けなくても、一部のサルについては、30%のカロリー制限を始めたのが中年になってからだったのに、それでも十分だったのでした。

カロリー制限で長寿効果を得るのに「年齢の上限」のようなものはなく、人間なら分子レベルで見て下り坂にさしかかる40歳を過ぎたあたりには始めるのがよさそうです。

動物実験でサーチュイン(生殖とDNA修復を調節している長寿遺伝子)のプログラムを働かせる鍵は、カロリー制限を通して体を「ぎりぎりの状態」に保つことです。つまり、体の健康な機能を保てるくらいの食物は与えながらも、けっしてそれ以上にはしない。それによって細胞の防御機能を高め、環境が厳しいときにも生命を維持し、病気や体の劣化を防ぎ、老化を遅らせるのです。

間欠式断食

新しい画期的な健康増進法として注目されているのが「間欠式断食」で、これは普段の食事量は変えないものの、食事を抜く期間を周期的に差し挟むというものです。絶えず空腹でいるわけではなく、一定の時間だけ体を飢えさせる。それによってサバイバル回路が機能しやすい環境にするのです。

現時点で人気のある方法には、朝食を抜いて遅い昼食をとる『16:8ダイエット』(リーンゲインズダイエット)や、週に2日はカロリーを75%に減らす『5:2ダイエット』、週に2~3日一切食物を摂らない『イート・ストップ・イート法』があります。

ここまでは食べる頻度と量を制限することのみ紹介してきましたが、何を口に入れるかによっても、やはり結果は違ってきます。

肉や乳製品の摂取量を減らす

人体の成分を構成するタンパク質の細かい分子であるアミノ酸は、とくに体内で作り出せない9つの必須アミノ酸がなければ、細胞は酵素を生成することができません。この酵素こそが生命に欠かせないものであり、生命活動の源となっています。

肉類にはこの9つの必須アミノ酸が全て含まれていて手軽なエネルギー源ではある一方、相当な代償を伴います。動物性たんぱく質にマイナスの面があることはほとんど議論の余地がなく、心血管系疾患による死亡率とがんの発症率がともに高まることが数々の研究で報告されています。加工した赤身肉に関しては何百という研究で指摘されており、結腸・直腸がん、すい臓がん、前立腺がんとの関連が確認されています。

赤身肉に含まれるカルニチンが、腸内細菌によって変換されるとトリメチルアミンーNーオキシド(TMAO)になり、これが心臓病の原因になる化学物質として疑われています。

動物性たんぱく質の代わりにもっと植物性タンパク質を摂れば、全死因死亡率が著しく下がることが複数の研究によって示されています。

植物からでは概してアミノ酸を取り込める量が限られますが、健康で長生きするという観点からすればそれがかえって幸いします。というのも、体内でアミノ酸全般が欠乏していたり、どれか一つのアミノ酸が不足した状態は、サバイバル回路を作動させるのにちょうどいいストレスになるからです。

筋肉を作る上でも活性化させるべきといわれるmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)という酵素を、あまりはたらかせないようにします。それによって、細胞は分裂に使うエネルギーを減らしてオートファジー(自食作用)に振り向け、一からタンパク質を合成するのではなく、損傷したタンパク質を再利用するようになります。あえて細胞の盛んな活動を抑えて厳しい時期を乗り切ろうとすることが、結局は健康寿命を延ばす上で役に立つのです。

とくに、抑えるのは必須アミノ酸の一つであるメチオニンです。牛肉、仔羊肉、鳥類の肉、豚肉、卵にはメチオニンが豊富に含まれる一方で、植物性タンパク質ではおしなべてメチオニンが少ない傾向があります。同じことが、分岐鎖アミノ酸と呼ばれるバリン、ロイシン、イソロイシンにもいえます。

理想の運動強度はどれくらいか

メイヨークリニックの研究チームの調べた結果で、健康を増進する遺伝子を一番多く活性化したのは「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」でした。これを行うと、心拍数や呼吸数が著しく上昇し、高齢の被験者ほどその活性効果は大きなものでした。

HIITなどの運動によって数々の長寿遺伝子がプラスの方向にはたらきます。血液細胞中のテロメアが伸びる、細胞に酸素を運ぶ新しい微細血管ができる、ミトコンドリアの活動が高まって化学エネルギーが増えるといった効果が表れます。簡単にいえば、運動が遺伝子のスイッチを入れ、私たちを細胞レベルで若返らせてくれるのです。

寒さと高温に身をさらす

寒さに身をさらすことによって、脂肪を分解して熱を発生させる細胞である褐色脂肪細胞を活性化することがわかっています。褐色脂肪細胞はミトコンドリアが豊富に含まれており、その量は年齢とともに減少します。夜通し窓を一枚あけておいたり、眠るときに厚い毛布を使わない、寒い中で運動するととりわけ効果が高いようです。

一方、高温に関してはその効果は低温の場合ほどはっきりはしていないものの、酵母を用いた実験では通常より30%長く生きました。2018年のヘルシンキで行われた研究では「サウナを利用する人はそうでない人と比べて、身体機能、活力、社会性および健康状態全般において、著しく優れている」ことが明らかになりました。

いずれにしても、熱的中性圏でばかりではなく、ときどき多少のストレスを与えてホルミシス効果を発揮させることが、長寿への道といえそうです。

タバコや有害な化学物質、放射線は老化を早める

喫煙によって生じるDNA損傷のせいで、DNA修復部隊は激務を強いられます。またタバコの煙に含まれる芳香族アミン類はDNAを傷つける作用をもち、その量は副流煙のほうが主流煙より約50~60%多いのです。

人や車の数が多い都市部では、ただ息を吸い込むだけでDNAを傷つけます。飲み物のボトルやテイクアウト用容器のようなプラスチックには、PCB(ポリ塩化ビニルフェニル)などの化学物質が含まれていることが多く、電子レンジで加熱しようものなら、より一層PCBが放出され、注意が必要です。

溶剤や脱脂材、農薬や油圧作動液などによく用いられている有機ハロゲン化合物もゲノムにダメージを与えかねません。

亜硝酸ナトリウムで処理された食品(一部のビール、塩漬けや燻製などの保存処理をした肉のほとんど、とくに加熱したベーコンなど)中には、Nーニトロソ化合物が生成されこれが強力な発がん性を持つことが確認されてきました。さらにニトロソ化合物にはDNAを切断する力があります

放射線も忘れてはいけません。紫外線やX線、ガンマ線や屋内ラドン(肺がんの原因としては喫煙に次いで2番目に多い)。こうした自然放射線や人工放射線はどれもDNAをさらに損傷させて修復部隊を働かせるおそれがあります。

まとめ

昨年の全米ベストセラー本『LIFE SPAN』を2回にわたってかいつまんでいきました。洋書の翻訳なのでどうしても読みづらく難解な部分もあり、伝わりにくい部分もあったかもしれません。

この記事は、本書の半分までのみ取り扱っています。それ以降は老化を治療する薬(メトホルミン、レスベラトロール、NMNなど)の話、テクノロジーの進化に伴う各個人に対する医療研究が進んでいる話などが盛り込まれていました。

これらはあくまで「若返り」に関する研究図書なので、効率よく筋肉をつけたり、ケガのリスクを排除した文面ではないのではありません。その点を踏まえた上でまとめると

・食べるカロリーを減らす
・間欠式断食をする
・肉や乳製品の摂取量を減らす
・HIITを行う
・寒い状況とサウナに身をさらす
・タバコを吸わない

要は、若返りには「適度に体にストレスを与えること」でサバイバル回路を機能させ長寿遺伝子を活性化させることといえます。

長文をお読みいただきありがとうございました。


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