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「シナプス」から発信される微弱物質

「戸塚ヨットスクール事件」から39年経った

と書いても、ほとんど心当たりがない、という社会人多数というご時世で、その年に生まれた世代は、当然のことながら39歳になって、職場会社では、それなりの役職になっていることだろう。

なぜ「ヨットスクール」事件なのか、というのを説明する必要があるが、世相的に違和感があるので、そこそこにしておこう。

今でこそ「脳科学」全般について情報が流布されているので、事細かに述べる必要もないが、当時のヨットスクールでは、その「脳」がもたらす人間意識を意図的にグレードアップする、という狙いで、そのヨットスクール教室で行った、というのがそもそもの事件だった。
一口にいってスパルタ的に、「軟弱な精神を鍛える」をモットーにして、主事者戸塚が遂行したカリキュラムだった。そこで死亡者を出したことで、社会的に問題となった事件だった。

では、今日的にそれら「軟弱な精神を鍛える」に対する方法論はなにかといったら、ソフト分野では医療カウンセラーとか訊くがハード面では無いような気がする。まして今どヨットから海に放り出して、「さあ泳いで戻ってこい」何んてことをしたとしたら立派な殺人罪となる。

戸塚ヨットスクール事件

※ドーパミン は神経伝達物質で、アドレナリン・ノルアドレナリンの前駆体です。 簡単に言うとすると、「快感や多幸感を得る」、「意欲を作ったり感じたりする」、「運動調節に関連する」といった機能を担う脳内ホルモンのひとつです。 パーキンソン病はドーパミンの不足によって起こりやすくなります。
中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、ノルアドレナリンの前駆体でもある。運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる。セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンを総称してモノアミン神経伝達物質と呼ぶ。 ウィキペディア

戸塚ヨットスクール事件は、1983年までに愛知県知多郡美浜町のヨットスクール「戸塚ヨットスクール」内で発生、発覚して社会問題に発展した一連の事件。 戸塚宏により設立された戸塚ヨットスクールは、当初は「戸塚宏ジュニアヨットスクール」の名称で、ヨットの技術を教える教室だった。
戸塚ヨットスクール株式会社(とつかヨットスクール)は、愛知県知多郡美浜町のヨットスクール(フリースクール)である。校名は創始者の戸塚宏の名字からで、名称に「戸塚」とあることから横浜市戸塚区にあると誤解されることがある。
1976年、戸塚宏により「オリンピックで通用するような一流のヨットマンを育てる」という理想の下で設立される。
教育方針は校長の戸塚宏が提唱する「脳幹論」と称するものに基づいている。この「脳幹論」とは、「青少年の問題行動は、脳幹の機能低下により引き起こされる」という持論に基づき、「アトピーや喘息、出勤・登校拒否、引きこもり、癌なども、脳幹を鍛えることによって克服できる」と説くものである。

しかし、それらの主張を裏付ける医学的根拠はなんら存在せず、第三者による客観的・科学的な検証も不十分である。当然、戸塚は医師・医学博士ではなく、医学の研究に携わったこともない。

戸塚は、ヨットやウィンドサーフィンを通じて大自然の中で原始的な状況に直面せざるを得ない状況を作りだし、彼らに直面させることで脳幹に刺激を与え、戸塚が衰えたと考えるその機能を回復させるというもので、薬物やカウンセリング、周囲の思いやりというようなものだけでは治らない者もあり、教育荒廃は決して解決しないとの考えに基づく。

戸塚の支援者である石原慎太郎は、この理論はオーストリアの動物行動学者であるコンラート・ローレンツが唱えたものであるとしている。
「人間が与えられた『生きる力』を100%開花させることに全力を注ぐ」ことをうたい、「基礎精神力を養う」ことを目的に、現在はウィンドサーフィンを使ったトレーニングを行っている。
校内には寮が併設されており、登校拒否、引きこもり、家庭内暴力、非行などの問題を抱えた生徒は合宿が原則となっている。また、入校に際しての年齢制限はなく、4歳から80歳まで受け入れるとしている。

指導としての体罰は否定せず、「体罰を使えば期間を短縮できる」が、現状では「使いたいのですがなかなか使えない」としている。合宿中は月曜の休み以外は毎日ウィンドサーフィンによる訓練が行われるが、嫌なことから逃避する癖の付いた大半の生徒は、様々な口実や時には巧みな嘘で逃げようとし、ほとんどの生徒が脱走を試みるという。この事実をあらかじめ想定し、対応しないと生徒の嘘に幻惑され帰宅を許してしまい失敗すると説く。このため、家族には戸塚を信頼し、必ず指示に従うよう求める。
戸塚1970年代末から1980年代にかけて、スパルタ式と呼ばれる独自の指導により、不登校や引きこもりや家庭内暴力などの数多くの非行少年を矯正させたという触れ込みで、戸塚ヨットスクールはマスメディアに登場し話題となる。当時は校内暴力が社会問題化していたため、問題行動を繰り返す青少年の矯正を行えると自称した同スクールが注目されたものであった。
ヨットスクール事件しかし、訓練中に生徒が死亡したり行方不明になったりした、いわゆる「戸塚ヨットスクール事件」が明るみに出た結果、1983年に傷害致死の疑いで捜査が行われ、校長の戸塚以下関係者15名が逮捕、起訴された。

長年に及ぶ裁判の末、戸塚およびコーチらは有罪判決を受けた。校長の戸塚は懲役6年の実刑で服役した後、2006年4月29日に静岡刑務所を出所し、スクールの現場に復帰した。

戸塚は、2014年11月28日・29日に開催された「第27回日本総合病院精神医学会総会」において、「私の脳幹論」と題する講演を行った。
この中で戸塚は、「脳幹論」と「本能論」について、「脳の構造が、脳幹部・辺縁系・新皮質と三段だから、やっぱり精神も3つに分かれますね」「脳幹部で処理された情報が辺縁系へ来て、そこでまた細かく処理される」ことが「本能」「本能論」とは「理性の目標を本能と一にする」ことであり、「本能と目的を違(たが)えてつくった理性は悪」と説明し、「恐怖の使い方が進歩するか落ちこぼれるかの境目」「恐怖を安定に持っていくトレーニングをする」ことで、子どもに「進歩の能力」が身につく「人にとって一番大きい恐怖というのは、生きるか死ぬかの時に発生する恐怖であるから、そのときに「生きよう」とする、そういう能力をつけてやればいい」などと述べ、体罰によって訓練生へ恐怖を植え付けることの正当性を主張した。

また、「幻覚がある場合、トレーニングをすれば統合失調症の場合は悪くなっていくから、それで判断でき、そのときに初めて、精神病として扱えばいい」と述べ、精神疾患の診断と治療よりも戸塚の提唱する「トレーニング」が優先し、それによって症状が悪くなってから医療を受ければいいと主張した。
以下割愛

画像 筑波大学 脳の神経細胞が行う掛け算の仕組みを解明(Nature Index: Research highlights 2022年1月) - TSUKUBA JOURNAL

筑波大学


2022年06月01日 記事

「脳内ホルモン」とはなに?

「脳内ホルモン」が存在しないとは、驚いた! 脳科学者が指摘する便利な「カタカナ言葉」の弊害 2022年5月31日 20時45分All About

「脳内ホルモン」といったものは存在しない…広まった誤り呼称

「脳内ホルモン」という言葉をしばしば見かけます。ある検索ツールで調べてみたところ、「脳内ホルモン」という言葉で38万件もの情報がヒットしました。

「ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、オキシトシンという4つの脳内ホルモンが私たちの感情を決めている」といった解説や、「脳のシステムをコントロールしている神経伝達物質は、またの名を脳内ホルモンと言う」といった説明がされているようです。しかしこれらは脳科学者として見ると、とんでもない間違いです。何となくのイメージで「脳内ホルモン」という誤った言葉が広まってしまったことは、とても残念に思っています。そもそも「ホルモン」と「神経伝達物質」は、全く異なるものです。わかりやすく解説します。

ホルモンとは? 血流を介して全身に送られる分泌物

内分泌とホルモンの定義については、実は多くの人が高校1年の「基礎生物」ですでに学習しています。

私たちの体の中で、分泌物の排出を行う細胞が集合して組織を形成したつくりを「分泌腺」といいます。そして、分泌腺には、外分泌腺と内分泌腺があります。

中略

一方、分泌物が血液中に排出されるのが「内分泌」です。そして、内分泌される分泌物をホルモンと呼びます。つまり、ホルモンは、内分泌腺から直接血中に排出され、血流を介して全身に送られ、必要なところでその作用を発揮する分子のことです。これらは生物を履修した高校生以上なら、全員知っているはずの知識です。これを思い出せば、「脳内ホルモン」といったものが存在しないことは、すぐにわかっていただけるかと思います。

ホルモンの発見と名前の由来…100年以上前に遡る歴史

ではホルモンとは何なのかを理解するために、ホルモンの発見と、どうしてホルモンと呼ばれるようになったのかの歴史をご紹介しましょう。

1900年ごろ、胃から食物が移動してくると、十二指腸内には自動的に膵液が出てくるということがすでに知られていました。しかしなぜそうなるのか、仕組みがわかりません。

それを解き明かすため、イギリスの生理学者W・M・ベイリスとE・H・スターリングは、十二指腸の神経を切断した動物を使って実験を行いました。すると十二指腸の神経がないにも関わらず、同じ現象が起こったので、この反応に神経は関わっていないと考えました。

次に彼らは十二指腸の粘膜をとってすり潰し、ろ過した抽出物を血液中に注射してみました。すると、膵臓から膵液が大量に分泌されたので、十二指腸の粘膜に存在する物質が膵臓に作用するのだろうということが推定されました。

そして、分泌を意味するsecretionに因んで、この物質をセクレチン(secretin)と呼びました。これは1902年のことです。ちなみに、セクレチンは、当初あくまで仮想の物質でしたが、後に、実際に十二指腸粘膜の細胞中に存在し、刺激によって分泌されて膵液分泌を促すことが解明されました。

スターリングらは、「血中に分泌され、遠く離れたところの組織や器官へ運ばれて、微量で作用する物質」はセクレチン以外にもあるだろうと考え、それらをまとめて「ホルモン」と呼ぶことを提案しました。

当初は「化学的伝令」と呼んでいたようですが、ギリシャ研究を行っていた古典学者の友人から、「刺激する」「興奮させる」の意を持つ古代ギリシア語の 「ὁρμᾶν(hormān)」を教えてもらい、1905年の講演で「ホルモン」という用語を使ったのが最初です。

意味を曖昧にしてしまう、便利な「カタカナ言葉」の弊害

筆者自身もそうですが、みなさんも新しいカタカナ言葉を使うことは多いと思います。最近では、例えば、「コンプライアンス」。会社などで問題が起きたときに「コンプライアンスを重視します」などと言いますが、その意味をたずねると「よくわからないけど、すごく大事なこと」などと曖昧な回答しかできない人が多いのではないでしょうか。

企業活動におけるコンプライアンスとは、きちんと法律を守り、社会規範に反することなく、公正・公平に業務遂行することを指します。ちなみに、筆者が専門とする薬学の世界でのコンプライアンスとは、処方された薬を指示に従って服用すること、すなわち服薬遵守のことです。どちらにも共通しているのは、「命令・要求されたことを承諾して守る」ことであり、これがコンプライアンスの真意です。

なぜ私たちは、ちゃんと「法令遵守」とか「服薬遵守」と言わないで、コンプライアンスと言いたがるのでしょうか。漢字とその読みで表現したほうが意味は通じやすいはずです。

しかし、逆に言えば、意味が通じやすい方が面倒と感じる面があるのかもしれません。相手に直接的に意味が伝わり過ぎると、余計な心配をしなければならなくなります。

特に私たち日本人は、いい物を買って渡すときにも、「つまらないものですが……」などと分かりにくい表現をしたがります。直接的な表現を避けて、互いに雰囲気を汲み取るというのが好き、もしくは楽なのかもしれません。

それと同じように、「とりあえずコンプライアンスと表現しておけば雰囲気は伝わるだろう」と考えて使っている人が多いのではないでしょうか。実は、多くのカタカナ語は、話し手も聞き手も本当の意味を理解していないのに、適当にごまかして伝えるのに便利な言葉として多用されています。

そして医学知識でも、同じことが起こっていると感じます。その一つが、解説している「ホルモン」です。

ホルモンと神経伝達物質の違い…根本的に「伝え方」が異なる

脳の中のシナプスで神経細胞どうしが会話をするために使っているのは「神経伝達物質」です。神経伝達物質という用語はそんなに難しいものではないのですが、日常生活ではあまり使われませんから、分かりにくく感じる人が多いのかもしれません。

その一方で、「ホルモン」という言葉には、何となく「体の中で分泌されている物質」というイメージがありますね。カタカナ言葉の効果として、自分も相手もあまり知らなくても、雰囲気だけ伝えるのに都合がよかったのでしょう。

そのため「脳内神経伝達物質」という代わりに、「脳内ホルモン」という造語が生まれて広まってしまったものと思われます。

しかし、そもそも「神経伝達物質」と「ホルモン」は全く違うものですから、たとえ便利に思えたとしても、簡単に置き換えて言ってよいものではありません。間違いは間違い。雰囲気が伝わればよいという許容範囲を超えています。改めて、両者の違いを確認しておきましょう。

▼神経伝達物質…素早く1対1で伝える神経伝達物質は、2つの細胞が接近した隙間、すなわちシナプスで分泌されるもので、いくつかの特徴があります。まず、分泌される量が非常に微量です。そのため、細胞から出た神経伝達物質は、すぐ近くまでしか届きません。拡散してすぐに消えてしまうので、遠くには伝わりません。

また、情報の伝達様式は、1対1で、速いです。1つの細胞が出した神経伝達物質は、もう1つの細胞だけにしか届きません。比較的近くに第3、第4の細胞がいたとしても、それらには伝わりません。すぐ近くにしか届かないということは、速く伝わることにつながります。

例えば、人がたくさんいる教室で、隣の友達だけに話したいと思ったらどうしますか? 周囲に聞かれないように、相手の耳元にできるだけ近づいて、ヒソヒソと小声で話しますよね。できるだけ近くで、小さな声で話すという方法によって、1対1で速く伝えることが可能になります。これが、まさに神経伝達物質のやり方です。

▼ホルモン…少し遅くても、多くの対象に伝える一方のホルモンは、上述したように、内分泌腺から出てくるとすぐに血液の中に入ります。血管は全身に張り巡らされていますから、血流にのって、ホルモンは全身に届けられます。なお、このとき細胞から放出されるホルモンの量は、大量です。全身にくまなく届ける必要があるからです。そして、血流にのって遠くまで到達するにはそれなりの時間がかかりますから、スピードは遅い方です。

このようなホルモンの情報伝達様式は、ちょうど筆者が教壇に立って、マイクを使って講義をしているときの状態に似ています。大きめの声を出して、しかもその声をマイクにのせて、教室にいる学生全員に聞こえるように届けるわけです。

二人だけのヒソヒソ話と、大声でマイクを使って演説をする。両者は全然違いますね。また、ホルモンは全身に伝わるものなのに、それを脳内だけで働くとした「脳内ホルモン」という表現は、明らかにおかしいのです。

物質の違いではなく働き方の違い! 神経伝達物質とホルモン

もう一つ、神経伝達物質とホルモンの違いに関して、多くの人が誤解していそうなことがあります。高校の生物では「ドーパミンは神経伝達物質、インスリンはホルモン」のように教えられるかもしれませんが、これは厳密には正しくありません。

神経伝達物質、ホルモンという分類は、物質によって決まっているわけではないのです。
ドーパミンは、神経細胞に含まれる物質ですが、シナプスで極微量が分泌されて1対1の伝達に使われたときに「ドーパミンは神経伝達物質として働いた」と言います。

しかし、まれですが、神経細胞に含まれるドーパミンが大量に放出され、すぐ血液に入って全身にまわり、遠くに離れたたくさんの細胞に作用することもあります。この場合には「ドーパミンはホルモンとして働いた」と言います。つまり、ドーパミンがどのように働いたかによって、神経伝達物質、ホルモンのどちらに属するかが変わるのです。

ですので、もし試験で「ドーパミンは神経伝達物質である」という文章の正誤を判別する問題が出たとすれば、これは正しくもあり誤りでもあり、判別不能の不適切問題になってしまいます。今の日本の高校教育では、この文章は正しいと教えているようですが、筆者自身が大学で試験問題を作るときには、そもそもこのような文章は出していません。

たかが言葉で、そんなに目くじらを立てなくても……。そんな声が聞こえてきそうですが、筆者は一人の科学者として、常にあいまいにせずに、物事の本質をとらえていきたいと思います。脳科学を正しく理解する第一歩として、正確に言葉を使うことにもぜひこだわっていただければと思います。

▼阿部 和穂 プロフィール薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)All About



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