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お客さまと調律師のギャップを埋めたい

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ピアノって、調律って、本当はこうなんです。 ひとことで伝えるのは難しい「ギャップ」を解消する記事をまとめました。
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#ピアノ

新しいピアノには「リリース直後のバグ」がつきもの

「デバッグ」と言う作業、ご存知ですか? ※ちょうどこの投稿の数日後に詳しい動画が出ていました。わかりやすい! これ、新品のピアノの育て方に似てるなと思いました。 身近な「デバッグ」と言うと…やはりゲーム関連でしょうか。ほぼ完成したゲームを発売前に「デバッガー」と呼ばれる人たちがプレイしてみて、ゲームが正常に動くか、バグがないかを確かめます。 レースゲームで壁にぶつかった時すり抜けたりしないか。 格闘ゲームで特定の技を同時に出すとフリーズしないか。 RPGでアイテム

なにかを足すならポジティブな気持ちが理由じゃないと

「このピアノに◯◯を取り付けたいんですが、これってどうですかね? 」 そんな相談を受けることがあります。 いわゆる改造にあたるようなオプションの後付け品はピアノにはそんなに多くはないですが、代表的なものだと「ピアノの消音装置」 他には、取り付けるとアップライトピアノがグランドピアノのタッチに近づくものだったり、真ん中の弱音ペダルの効き具合をグレードアップする製品だったり。どれも大掛かりな改造で、数十万円かかる高額な商品です。 もちろんそれぞれメリットとデメリットがある

調律をたくさんすればピアノが安定する、と言うわけじゃない

ピアノは結構音が狂う楽器です。 ピアノ調律師の仕事はいわゆる「狂った音を合わせる」だけではありませんが、基本の作業であることは間違いないです。 でもその「音の狂い」にもいろいろあります。実はただ調律を繰り返せば良くなるわけではなく、適切なタイミングで調律することや、環境を整えたり、持ち主の方の協力が絶対に必要です。 今回はそのために絶対に共有しておきたいけど、意外と調律師の感覚に留まっていてひとことで説明するのが難しい「ピアノの音の狂いとは?」について言語化したいと思い

ピアノは工業製品であって、工芸品でもあって

工業製品と工芸品。 ユニクロのTシャツと手編みのニット。 コンビニのスイーツと専門店のケーキ。 ニトリの家具と大工さん手作りの家具。 身近なものではそんな違いがわかりやすいかもしれません。 ピアノにはどちらの側面もあって、そのことがピアノと言うものを理解するのに結構大事なんじゃないかと思っています。 と言うのもこのnoteでは「お客さんと調律師のギャップを埋めたい」と言うことを命題のひとつに掲げていますが、そのギャップってピアノを工業製品と捉えているか工芸品と捉えてい

アップライトはグランドピアノの劣化版で、電子ピアノは紛いものか

「ピアノを本気でやるのにアップライトなんてありえない。ましてや電子ピアノなんて…」 こんな主張がピアノ業界には昔から根強くあります。 ここに続くのが 「だから自分はグランドピアノを弾く」 は全然良いと思うんです。でもそれを他人に強要したりマウントをとったり、アップライトや電子ピアノのユーザーが負い目に感じてしまうのは非常に悲しく害のある風潮だなと。 グランドピアノだけが本物のピアノ?歴史的には確かにピアノは元々グランドピアノから始まりました。 その構造を大胆に変え

ピアノの「お見積もり」をやめました

眠っているピアノをまた使いたいというご相談は多いです。 古いピアノも多く、買った当初に数回だけ調律をして10年以上弾いていなかったようなケースもざらです。 使っている方からすると「はたしてこのピアノは直して使えるのか?」「そしてどのくらい費用がかかるのか?」が一番の心配ごとですよね。 実際にたまに、まずはお見積りを...と言うご相談もあるのですが、少し前に「お見積りだけ」のサービスをやめました。 古いピアノは大きくわけて4パターンもちろん古くても使えるピアノはたくさん

ピアノの購入を相談されたときに伝えたい「買ってはいけないピアノ」

400種類以上。 世の中にはたくさんのピアノのモデルがあって、今まで僕自身が調律したことがある数だけでもこれだけありました(ちなみにブランド数は106でした)これ以外に触った事のないピアノがどれだけあるのか想像もつきません。 その数だけピアノにはそれぞれ特徴があって、良いか悪いかは基本的には「弾く人の好み」です。 なので、全てのピアノが素晴らしい!と締めて終わらせたいところなんですが... 中には設計や造りに致命的な問題があり、好みの範疇を超えておすすめできない、はっ

有料
450

ピアノは昔より安全になった。だからこその心配ごとも。

ピアノの鍵盤蓋には2つのタイプがあります。 最近のピアノは蓋から手を離してもバタン!と閉まらずに、ゆっくりと蓋が降りていく「ソフトランディング機構」が標準になっています。ヤマハでは1997年頃のモデルからこのタイプ。これは主にお子さんが指を挟んでしまう事故を防ぐためです。 古いピアノに後付けできる商品もあります。(一部取り付けできないピアノもあります。リンク先の星1の方のピアノはまさに取り付けられないピアノ...) ソフトランディングの鍵盤蓋は押さえつけて無理やり閉める

音が出なけりゃピアノじゃない

ピアノで一番メジャーかつシンプルに最も困る故障。それは、音が出ない。 弾く方からすると、ひとつでも音が出なければピアノとして使えないわけで、一大事です。 鍵盤が下がらない 鍵盤が戻ってこない 鍵盤は動くけど音が出ない 基本的に弾き手側で感じるは症状としてはこの3つのどれか。 でも実は、音が出ない原因となる故障はもっと多岐にわたっています。 パッと思いついただけでも。。。(ここは読み飛ばしてOK) 鍵盤が口棒に引っかかっている 鍵盤のスティック(フロント側)

専門家の見えているものとユーザーの見えているもの

ピアノの故障をお客さまに説明するときに、ピアノの内部を見てもらうことがあります。 ひとつの事象を説明するにも ・何のための部品なのか ・何の素材でできているのか ・本来はどうなっているものなのか ・今はどうなってしまっているのか ・どんな不都合があるのか ・どう直すのか ただでさえ前提条件からの説明が必要で、さらにピアノの中身は複雑なので…なるべくピンポイントに絞って説明しているつもりですが、うまく伝えられてないな〜と思うことがあります。 最近気づいた原因のひとつが、

絶対音感に対するピアノ調律師のホンネ

ピアノ調律師に絶対音感の話をしたときに、なんだか反応が鈍かったことはないでしょうか? これなんと言うか...僕の場合だけかもしれませんが、絶対音感と言うものがあいまいで人によって解釈がかなり違うのでその扱いが難しいんです。 「絶対音感」の振り幅絶対音感を持っている、と聞くと「ピアノの音を聞いて音名を答えられる」「机を叩いた音がドレミに聞こえる」などを連想すると思います。世の中の音の高さがわかる能力、と言うのがざっくりと絶対音感の一般的な解釈です。 でもその「わかる」にも

アナログならではの「はじっこ」と付き合う

ショッピングモールの駐車場の、ちょっと停めづらい柱の横。 本の見開き部分の文字はページがたわんで読みづらかったり。 カフェの窓際の席はちょっと寒いとか。 世の中には色々な「はじっこ」があります。 電車の端の席のような良いはじっこもありますが(主観)…均一であって欲しい楽器にとって、はじっこの存在は少しやっかいです。 鍵盤の「一番下のラ」と「一番上のド」は誰が見てもピアノの端です。あまり使わない鍵盤ですが、やはり両端のこの音は響き的には少し不利な位置。 でも実はピア

メーカーを鵜呑みにしない方が良いこともある

お客さまにピアノに適した環境をお伝えするときは「湿度50%を目安にお願いします」と言っています。 実際にはもちろんピッタリである必要はなくて、45%でも、55%でも、年間を通して一定であれば問題ありません。それでも限度はあって、ずっと40%は低すぎですし、ずっと65%では高すぎます。また許容範囲内でも乱高下は良くないので、今日は45%だけど次の日は55%というのもピアノに負担がかかります。 なのでピアノにとっては湿度が「許容範囲内である」かつ「一定である」ことの2つが重要

掃除機を借りる調律師と持っていく調律師

僕は前者です。 なんのことかと言うと、調律をするときにピアノの中の掃除をするんですが、そのときの掃除機をお客様にご用意頂くか、自分で持っていくかという話です。 これが結構ずっと悩んでいて、どちらが良いのかいまだに決めかねています。 本当はできるだけ自分で持っていきたいんですみなさん快くお貸しいただけるので甘えさせてもらっていますが、調律に必要なものを、どのお宅にもあるからと言う理由でお借りするのは本当はどうなんだろう?と思わなくもないんです。どの現場でも自前の同じ掃除機