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絶対音感に対するピアノ調律師のホンネ

ピアノ調律師に絶対音感の話をしたときに、なんだか反応が鈍かったことはないでしょうか?

これなんと言うか...僕の場合だけかもしれませんが、絶対音感と言うものがあいまいで人によって解釈がかなり違うのでその扱いが難しいんです。

「絶対音感」の振り幅

絶対音感を持っている、と聞くと「ピアノの音を聞いて音名を答えられる」「机を叩いた音がドレミに聞こえる」などを連想すると思います。世の中の音の高さがわかる能力、と言うのがざっくりと絶対音感の一般的な解釈です。

でもその「わかる」にもかなり幅があって…楽器によってはわかる、調号がつかなければわかる、得意な音域ならわかる、体調によってはわかる…など、色々。

また精度の幅も広く、たとえば少し低めのラを聞いたときに「ラ」とだけわかる人、「低めのラ」という事までわかる人。

いろんなレベルの“絶対音感がある”が存在してしまっているんですよね。

車を見た時にメーカーがわかる人、車種がわかる人、年式とグレードまでわかる人、全てが一緒くたにされてる感じです。

そもそもドレミに「絶対」が無い

「ドレミファソラシド」

各音には一応決まった振動数(単位:Hz)と言う数値があります。

ラが440Hzの場合、次のシは493.88Hz 、ドは523.25Hz、1オクターブ上のラは880Hzとなるはずですが、楽器はそのように理論上ピッタリの数値になりません。

それは〈ピアノの構造上のインハーモニシティ〉とか〈弦楽器での完全5度と平均律との使い分け〉とか、色々とややこしいことによるものですが...特にピアノは理論上の振動数からのずれが大きく、正確に(きれいに響くように)調律されたピアノの高音部は理論上の数値より高い振動数になっていますし、アップライトピアノで慣れてる人にはホールのグランドピアノの低音は高く感じると思います

そうなると、同じく絶対音感を持っているAさんとBさん。それぞれの正しいとする「ド」は実はビミョウに違うものなっている可能性が高いです。

絶対音感とは何か?

このように“絶対”と言うにはあまりに色々なことが不確定すぎるんです。

どんな音を聞いても正確な振動数の数値ががわかる、という人がいればそれは完ペキな絶対音感と言えると思います。「絶対振動数感」と言うべきかもしれませんが…そんな人はたぶん存在しません。

誤解を生んでいるのは「絶対」なのが「音自体」では無く、あくまで「その人の音感」だという部分。いわゆる絶対音感を持っていると言うのは「覚えている音の高さの判断が毎回ブレない」と言うことなんだと思います。

この絶対音感の話、もちろん雑談レベルであればこんな風に長々と説明するようなことでも無いのですが、調律をするときにお客さまから絶対音感ありきの要望があった場合に、この認識のずれで困ることがたまーにあるのです。

ちなみにものすごく野暮な話ですが、1問ごとに答えを教えてくれるタイプの絶対音感テスト。前の答えを基準にできるので2問目からは相対音感テストになってる気がします…


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