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お客さまと調律師のギャップを埋めたい

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ピアノって、調律って、本当はこうなんです。 ひとことで伝えるのは難しい「ギャップ」を解消する記事をまとめました。
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#調律

メーカーを鵜呑みにしない方が良いこともある

お客さまにピアノに適した環境をお伝えするときは「湿度50%を目安にお願いします」と言っています。 実際にはもちろんピッタリである必要はなくて、45%でも、55%でも、年間を通して一定であれば問題ありません。それでも限度はあって、ずっと40%は低すぎですし、ずっと65%では高すぎます。また許容範囲内でも乱高下は良くないので、今日は45%だけど次の日は55%というのもピアノに負担がかかります。 なのでピアノにとっては湿度が「許容範囲内である」かつ「一定である」ことの2つが重要

掃除機を借りる調律師と持っていく調律師

僕は前者です。 なんのことかと言うと、調律をするときにピアノの中の掃除をするんですが、そのときの掃除機をお客様にご用意頂くか、自分で持っていくかという話です。 これが結構ずっと悩んでいて、どちらが良いのかいまだに決めかねています。 本当はできるだけ自分で持っていきたいんですみなさん快くお貸しいただけるので甘えさせてもらっていますが、調律に必要なものを、どのお宅にもあるからと言う理由でお借りするのは本当はどうなんだろう?と思わなくもないんです。どの現場でも自前の同じ掃除機

数十年ぶりのピアノ調律は、山に登るかの如し

長年調律をしていないとピアノの音はものすごく下がります。 そうなるとすぐに万全な状態には戻らず、ピアノに負担をかけないためにも何回かに分けて音を上げていく必要があります。 「お客さまと調律師が協力してピアノを良くしていく」をモットーにしているので、進めるイメージをお客さまと共有したい。そのためにいろいろなものに例えてきましたが、最近は「登山」が近いんじゃないかと思っています。 一気に頂上までは登れない音が下がったピアノを1回で正しい音程まで調律しようとするのは、1合目から

ピアノの「コスパ」について考える

楽器について「コストパフォーマンス」をどう考えるかというのはすごく難しいんですが、購入するときに一度は考えないといけない要素だと思います。 コスパを考えるにはピアノのラインナップを整理して考える必要がありますどのメーカーでもたいていグレード分けがされていると思います。単純に大きさ順だったり、○○シリーズとして差別化していたり、メーカーによってはセカンドブランドとして分かれていたり... 大きく分けると価格の安いほうからこんな感じです。 ・廉価グレード ・スタンダードグ

「鍵盤が重い」にもいろいろあります

ピアノの鍵盤の重さって感じ方が人ぞれぞれで、単純に「鍵盤が重い」にも色々あります。 一番想像しやすいのは「鍵盤を下げるための荷重が重い」ですが、その他にも 「鍵盤がスムーズに動かなくて重い」 「鍵盤の上がってくる力が弱くて重い」 「鍵盤に重さのかかるタイミングが重い」 「タッチがバラバラで重い」 「鍵盤にあそびがあって重い」 「鍵盤の手触りが悪くて重い」 「出てくる音が重い」 などなど。 面白いのが、鍵盤の荷重自体はむしろ軽すぎるくらいなのに、そのせいで

海外製のピアノは国産と同じようには扱えない

調律で海外製のピアノに出会うことも結構あります。ヨーロッパ製、アメリカ製、中国製、韓国製いろいろあります。特にヨーロッパ製は憧れのピアノ!というのはなんだかんだ今でもあると思います。ただ共通して言えるのは...日本製のピアノに比べて部品の精度がかなり甘い。 いわゆる高級ピアノでも、同じ工具を同じ規格のはずの部品に使っても「こっちには入るのにこっちは入らない...」などは当たり前、細かい部品の仕上げも意外と粗くてびっくりします。ここに風土とものづくりの考え方の違いが出てるなあ

世の中の多くのピアノは力を出し切っていない

ピアノのメンテナンスは調律だけしておけば完ぺきだと思われがちです。 でも実は調律ってピアノのメンテナンス全体の半分も占めていなくて、世の中のピアノの大半は残りの部分手つかずなことが多いです。 ピアノの全メンテナンスを優先度順に分けるとこんな感じでしょうか。 A【必須な作業】 →弦の断線や音が出ない故障などの修理 B【ほぼ必須な作業】 →音を合わせる調律 ------------ここまではやっていることが多い-------------- C【やったほうが良い作業】→

「調律のピッチ」について考えてみた

ピアノのピッチをいくつで調律するのが良いかという問題があります。国際基準はラの音=440Hzですが、多くのホールでは442Hzだったりヨーロッパではさらに高いピッチが主流だったり、◯◯Hzの響きがカラダに良かったり悪かったり(?)なんて話があったり... もちろんレコーディングや合奏では特定のピッチに合わせる必要がありますが、最近は自宅用、特にソロで弾く場合はあまりとらわれない方が結局良いなと思っています。 と言うのもピッチありきで調律をすると、時にピアノの負担を無視して

「隠れる不具合」について考えてみた

ピアノを弾いていると鍵盤やペダルから異音、雑音がすることがあって、その対処に伺うことも結構あります。 厄介なのが、直しに伺った日に限って症状が出てないことが多いんですよね。なんなんでしょうあの現象は... お客様も申し訳なさそうに「昨日までは確かに異音がしてたんですが...」となりますし、僕も予想を立てて怪しいところに油を注すくらいしかできることがないので、結局解決したのかどうかもわからず申し訳ないまま帰ることに。 最近自宅の庭の電灯の調子が悪くて、たまに激しく点滅して

「ピアノ教室ご紹介の難しさ」について考えてみた

お客様によく「この近くでいいピアノの先生知ってますか?」というご相談を受けます。 これがなかなか難しい質問で、ピアノのレッスンは先生との相性が重要なことを考えると安易にご紹介するのをためらってしまいます。 相性を見極めてご紹介するのがなかなか難しいというのもありますし、下手にご紹介することによって、あまり合わなかったときにもこちらに気を使って断りづらかったりということも心配してしまいます... 情報として、こんなお教室がありますよ〜程度であれば良いのかもしれませんが、そ

「“あたりまえ”の変化」について考えてみた

「ピアノには乾燥しているほうがダメージが大きいんですよ」という話をするとたいていの方が驚かれます。 ピアノ=湿気に弱いというイメージは強いと思いますが、乾燥に弱いというのは8割くらいの方がご存じない気がします。 なので湿気対策は万全でも、乾燥対策は全くされていないピアノがたくさんあります。 現在日本にある多くのピアノは1970年代、80年代の製造で、その頃は環境が今より多湿寄りだったため、メーカーや楽器店も湿気対策は強く啓蒙していましたが、乾燥対策はあまり口うるさく伝え