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ダイバーシティ&インクルージョン経営の憂鬱

フクフクプラスの3期目を迎えるにあたり、noteを始めます。以前のブログから随分と投稿が滞っていましたが、この時期だからこそ再スタートしたいと思います。主に経営、人事、組織改革、職場環境改善に携わるビジネスパーソンを対象に、ダイバーシティ&インクルージョン経営(以下、D&I経営)のヒントをデザインの視点でお届けしたいと思います。

1、ダイバーシティ&インクルージョン経営の憂鬱

D&I経営と言われて久しい。少子高齢化に伴う就労人口の軽減、多様な人財(坂本先生の考えに感銘し、人材ではなく人財と書いている。)を活かす取り組みであるが、現場レベルでは“どう経営に貢献しうるのか?”という問いが相変わらず残っているという。

これは私も長年取り組んでいる福祉の世界とよく似ている。時に福祉は、社会保障はさることながら、そこに留まることを良しとされない。就労継続支援B型事業所は居場所としての社会的意義があるにも関わらず、経済性(=工賃向上)も問われる。社会福祉のプロにその両方を求めるのは酷ではあるが、だからこそ可能性もあると信じたい。

桑沢デザイン研究所の授業「発想ワークショップ」で学生に伝えていることの一つは、“どうインプットを増やすか”である。全くの0からアイデアは生まれない。良質なインプットの蓄積が、やがて有用なアイデアにつながる。

D&I経営における経営者の悩みは、良質な事例のインプット不足が大きな要因ではないか? 結果、ワクワクするイメージが沸かないのである。

2、デザインの役割の広がり

デザインというのも、随分と広義に使われるようになった。2019年度グッドデザイン大賞を古巣の富士フイルムが受賞したが、もはや従来のデザインの職域では語れない時代になった(もしくは多様な職種がデザインとして機能した。)ただデザインする対象がどう変わろうが、キーワードは共感である。“イイね”と感じてもらえるかどうか? そこは今までデザイナーが担ってきた領域であり、それが他の職種への応用が広がっていると見る方がよい。

3、想定外の使い方

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古巣で「写ルンです」のデザインをしていた頃、ユーザーニーズを調べる中で、視覚障害のある人がカメラを使っているという事例を知った。目が見えないのになぜ? と思ったが、どうやら旅行先の様子を家族に伝えるためのコミュニケーションツールとして使っているという。面白い使い方があるものだと感心したが、さらに目の見えない人にとって「写ルンです」が、きわめて都合がよいツールであったことも驚いた。ご存知の通り、全て手動なのだが、それが却って触覚と音で全て操作が完結しえていたのだ。フラッシュなどはご丁寧に、オンにするとボディから突起がでる。さらにパンフォーカスと言って、AFのようなレンズ駆動することなく、即座にシャッターを切ることができる。目の見えない人は被写体にフォーカスを合わせることができないが、「写ルンです」はそもそもその必要すらないのだ。

4、福祉とデザインとの新しい関係性

それまでの私は、日常生活に不自由を感じている人に支援を差し伸べようと考えていた。でも視覚障害のある人による「写ルンです」の使用事例は、逆に教えてもらった気がした。そして、デザインの大きな可能性を示唆しているとも感じた。支援しているつもりで、その実、私は支援されたのだった。そういう関係性が再現できれば、福祉に対する捉え方も変わり、さらには新しいクリエイションの裾野が広がるはずである。

今や障がいのある人を製品開発に取り込むのは、様々な分野で広がっている。インクルーシブデザインでは、障がいのある人をリードユーザーと呼ぶが、ポイントは開発当事者として共に意見を出し合うということだ。ある特例子会社では、障がいのある社員を商品の評価チームとして組成し、開発に貢献しているという。こうした取り組みは、多様な人財をイイね!と共感しうるデザインの視点で融合させた好事例があると思う。

5、ダイバーシティ&インクルージョン経営の未来

D&I経営のインクルージョンの意は、融合である。あえてこの言葉が添えられている意義は多様性による価値創造である。多様な状態に甘んじるのではなく、戦略的に融合し、その上で価値創造することを志向している。経産省が提唱する「Diversity 2.0」は、多様な状態で留まる「Diversity 1.0」へのアンチテーゼとして、価値創造への意識を呼びかけている。

D&I経営するしないに関わらず、リモートワーク、副業、共働きなど働き方の多様化はまったなしの経営課題である。せっかくならば、実りのある取り組みにしたい。マイナスを0にする守りの姿勢ではなく、プラスに転換されるものであってほしい。そのために、デザインの視点で多様性から生まれる事例を共有し、そこからD&Iが経営に資する取り組みを皆さんと共に考えたい。D&Iがしっかりと経営に貢献するものとして定着し、障害あるかなしに関わらず、お互いの違いを認め合い、誰もが自分の可能性を発揮できる会社が生まれることに貢献したい。

フクフクプラス 磯村歩

*トップ画像に掲載しているのは 障がいのある人とデザイン学生によるプロジェクト「シブヤフォント」の「Windows」というパターンです。当社はその運営を担っています。

#シブヤフォント , #ダイバーシティ &インクルーシブ経営, #ダイバーシティ , #インクルーシブデザイン , #COMEDO

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