「消滅可能性自治体」論の考察と「人口減少時代のまちづくり」
4月24日、地元紙をはじめ、各新聞紙上を賑わした「消滅可能性自治体」の件。
10年前に「増田レポート」として発表された、民間組織「日本創成会議」の報告書の改訂版というべきもので、2014年に発表された全国の「消滅可能性自治体」は896自治体だったのに対し、今回の「消滅可能性自治体」は744自治体と150ほど減少した形になります。
岩手県では33の自治体のうち26が「消滅可能性自治体」
我が岩手県では、33ある自治体のうち26が「消滅可能性自治体」とされました。
その中には、県内第2位、第3位の人口数である奥州市、一関市が「消滅可能性自治体」とされたほか、沿岸地域の市町村のすべてが「消滅可能性自治体」と見なされました。
今回の発表では、首都圏や西日本と比較して、岩手を含む東北地域や北海道において、全自治体に閉める「消滅可能性自治体」の割合は高く、北海道では半数以上、東北では8割以上が「消滅可能性自治体」に該当します。
ちなみに「消滅可能性自治体」の割合は、関東地方、中部地方、九州地方では約3割、近畿地方では約4割、中国地方は5割弱ということです。
そもそも「消滅可能性自治体」とは
10年前も感じたことですが、そもそも「消滅可能性自治体」とは何なのでしょう。
「消滅可能性自治体」の考え方について、人口戦略会議の報告書の中では次のように述べられています。
つまり「若年女性人口が急激に減少するとその自治体は存続できず、消滅する可能性が高い」としたもので、10年前の「増田レポート」発表時には、「自治体が消滅する前に地方自治体が早急に少子化対策に取り組むべき」という部分を強調し、各自治体に「警告」していたことを思い出します。
今回の発表では、10年前の「増田レポート」の「警告」に言及しながら、新たな視点で対策を講じるべきとしています。
花巻市の現状分析
以上のことを踏まえて、花巻市の現状分析に入ります。
これは、公表されたデータから岩手県の14市と、今回「消滅可能性自治体」と見なされなかった紫波町、矢巾町、金ヶ崎町を加えた、17市町村の人口推計に基づく「消滅可能性自治体」の一覧となります。
2050年人口(封鎖人口)の欄を見るとすべての市町村で若年女性人口減少率(%)がマイナスとなっています。
これは単純に、社会移動がなかった場合の今後の若年女性の推計値となります。
花巻市は29.8%のマイナスですが、少なくとも岩手県内の他市町村と比較してもそれほど悪い数字ではありません。(それでも3割減少してしまうことには危機感を覚えます)
次に社会移動の推計値を加えた2050年人口(移動想定)を見ると、48.5%のマイナスです。
前回より1.5%ですが減少しています。
マイナス50%を超えると「消滅可能性自治体」となるので、花巻市は「ほぼ消滅可能性自治体」といってもいい状況にあります。
「消滅可能性自治体」分析から見えること
今回発表された「消滅可能性自治体」について、県内市町村のみならず、様々な自治体について調べてみました。
例えば、沖縄地方は2050年人口(封鎖人口)もそれほど減少せず(プラスになっているところも多い)、2050年人口(移動想定)も減少しない「自立持続可能性自治体」と呼ばれる自治体が多いです。
これは、出生率が高く、移住者も多いという沖縄ならではの事情が影響していると思われます。
それでは、各自治体も沖縄のやり方をまねてみたらどうか、という意見もありそうですが、沖縄では「他の都道府県と比較して、親族や地域のコミュニティの結び付きが強く相互扶助の精神(沖縄の言葉で「ゆいまーる」)が今でも残っている」「男系の子孫を重んじるため、男児を産むまで出産を制限しないため、結果的に産む人数が多くなる」(いずれも厚生労働白書[2005])との指摘もあり、封鎖人口が比較的高い数値なのは地域的な理由によるものが大きく、他自治体の参考にならない可能性が大きいです。
また、全国の自治体で「自立持続可能性自治体」と呼ばれている自治体は、三大都市圏(東京、大阪、名古屋)に福岡地方を加えた大都市圏のベッドタウンであるところが多く、これまた北海道、東北地方に当てはめて考えることは難しいと思います。
「消滅可能性自治体」論の陥穽
であれば「どうしたらいいのか」ということになる訳ですが、そもそもこの「消滅可能性自治体」を煽り、地方自治体に人口減少対策を講じるように「警告」する方法は、間違っているという指摘もあります。
まちづくりの専門家で、地方創生や地方経済の状況分析に詳しい木下斉さんは、消滅可能性があるのは地方ではなく自治体であるとし、「人口問題は各市町村で奪い合いをすることではなく、国全体で少子化対策を打つこと」が重要と述べています。
これはそのとおりで、例えば花巻市で言うと、旧市町単位、各集落単位で分析すればすでに数字上で「消滅可能性」のある場所はあるわけで、それを自治体ごとにまとめて数値化し、単に「消滅可能性自治体」と分類したに過ぎません。
昨今の社会移動を見ると、人口の少ない集落→小規模都市→中核都市→大都市へと、川の水が流れるように人が流れていく傾向が見て取れます。
そういうことから考えると、木下さんが言う通り「市町村単位での対策は単なるパイの奪い合い」に過ぎず、出生率の低下も含め、国全体で抜本的な少子化対策をしていくことが求められます。
前回の「増田レポート」以降、地方創生がまことしやかに謳われ、各自治体がこぞって地方創生を争い、国の交付金をもらうための必要条件である「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、地方創生を進めてきた経緯があります。
私もこの戦略策定に絡んだ一人として振り返ってみると、短時間でかなりなボリュームの戦略を策定したにも関わらず、結果、交付金をもらうための戦略になってしまい、交付金の多くが戦略策定に携わったコンサルタントに流れてしまった・・・という苦い経験があります。
花巻市を含め各地方自治体はこういった「消滅可能自治体」論の陥穽(落とし穴)にハマることなく、本当の意味での地域資源を大事にしながら、各市町村に必要な人口減少対策を講じる必要があります。
「人口減少時代のまちづくり」の視点と手法
また、その先には人口減少時代を見据えた「まちづくり」をしていく必要があり、それにはこれまでも繰り返し話してきたような「グランドデザイン」の視点で、「地方公共交通の整備」「公共施設のマネジメント」そして必要であれば「集団移転」などの対策を行っていかなければなりません。
そして、「人口減少時代のまちづくり」のためには、「まずは未来の子どもたちのために、このまちをどうしていけばいいのかを私たち一人ひとりが考え、そして話し合いながら合意形成を図っていく」ことが必要です。
時間はかかるかもしれませんが、そこから始めていかなければ、結果「無責任なまちづくりの構図は続くだけだ」と断言したいと思います。
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