見出し画像

妹は大人の発達障害【はじめに】大人の発達障害に気付くまで~気付いてから②



家族に伝わるまでの3年間


家族の異変に気付いて病院に行き、何かの症状や病気が発覚することは珍しくありませんが、そのことが「伝わらない」のは『発達障害』ならではなのかなと思いました。

「ならでは」という言い方が正しいかどうかは分かりませんが、なんにしろ妹(以下トンちゃん)が「自閉症スペクトラム」だと家族に伝わり、ちゃんとした支援を探そうと動き出すまでにはかなりの時間を要してしまいました。

私はトンちゃんが病院に行っていたこともあんまり分かっておらず、まあトンちゃんらしく過ごせていればいいのかなと、発覚するまでの期間を楽観的に現実逃避していました。
しかし、前回の 妹は大人の発達障害【はじめに】大人の発達障害に気付くまで~気付いてから① でも書いた通り、仕事は思ったように続かないし、ミニマリスト運動の激化等で家族との喧嘩も絶えませんでした。




「何の病気?どんな障害?」「病院に行くならどこがいいの?」


トンちゃんは病院に行ってないと思っていた(忘れていた?)私は、まず在住している大阪府で「発達障害」を専門としている医療機関がないかどうかを調べました。

当時のLINE


まず、大阪府のHPで「発達障がいに係る医療機関(大阪府発達障がいの診断等にかかる医療機関ネットワーク)」のページを見つけました。
ずらっと医療機関の名前が並んでいて、予約方法や診察対象の年齢等が詳しく書かれています。


そこでまず思ったことは、「診察対象が18才以上」になると、極端に医療機関の件数が少なくなるということです。
確かに、「発達障害」は小さいころからの検診や教育の過程で気付くことが多く、大人になってからの診断となると限られてくるのかなと思います。
トンちゃんの場合、初めての場所や遠い場所は気乗りも続きもしないため、家の近くが条件でしたが、そうなると件数はもっと絞られます。

実際には近くの心療内科・精神科でもきちんと診断してもらえましたが、お医者さん先生との相性やその後の治療・通院を考えると初めに係る医療機関は障害を専門とした所のほうが良かったのかもしれません。

初診は大事です

たくさん調べている間に、発達障がいに関する相談センターがあることを知りました。

「アクトおおさか」は、発達障がいのある方々が、身近な地域で生涯にわたって自分らしく暮らしていけるようなバリアフリーの社会をめざして、発達障がいの理解や支援方法の普及と、一貫した支援体制の構築のための事業を行なっています。
対象は、大阪府内(大阪市・堺市は除く)にお住まいの、自閉症(高機能自閉症も含む)・アスペルガー症候群・LD(学習障害)・ADHD(注意欠陥多動性障害)などの発達障がいのある方々とそのご家族・関係機関/施設です。

http://www.suginokokai.com/facilities/act.html


こういう時欲しいのは漠然とした情報ではなく、「今何をすればいいのか」という道しるべなのです。

病院もどんな病院があるのか分からない、何の支援があるのかも分からない状態だった私は、まずトンちゃんを連れて相談センターに行こうと思い立ちました。




そうして見つけた相談支援センター『やっと伝わった自閉症』


え?


そうです。ここでようやくトンちゃんがすでに自閉症の診断を受けていたことが発覚したのです。すぐに詳しく事情を聞いて、当時病院に同行していたという母にもすぐに連絡を取りました。

聞くと、初診はもう3年ほど前。当時から何か障害があるのではないかと疑っていた母から病院にいこうと勧められたのがきっかけで、3回ほど通院し、検査をしたそうです。


なぜ伝わらなかったのか?

トンちゃんと話をしていて強く思うことは、
「ちゃんと聞かないと詳しく言わない」です。

なまじ社会生活をなんとか送れているおかげか、トンちゃんにも自分で判断したり考えたりすることはできます。しかし、その中で「相談したほうがいいこと」「伝えたほうがいいこと」は全部「言わなくてもいい」に分類されてしまいます。
だからこそこちらの質問能力が問われるわけですが、残念ながらそんな能力は備わっておらず、トンちゃんの言うことをそのまま受け止めて流していました。

診断を受けた当時、トンちゃんは新しい仕事先の研修に行く前でした。自閉症という診断を受けたはいいものの、困っていることは特にないし「別にいいや」という気持ちだったそうです。
なので、一緒に行った母への報告も「自閉症寄りらしい」の一言でした。


そうしてトンちゃんは家族に「別に何もない」人として受け取られることになってしまいました。この3年間のすれ違いは家族にとってもトンちゃんにとっても大きいものです。損失だとか無駄だとかは言葉が強すぎるかもしれませんが、やっぱりもっと早く分かっていればという思いが消えません。


いざ相談センターへ『でも…分からない』

ようやっとトンちゃんへの理解がすこし進んだところで、件の相談センターへ電話をすることにしました。どうやら相談するには電話予約がいるとのことで、トンちゃんに電話してもらうことにしました。

しかし、事は簡単には進みませんでした。電話をしてみると決めた当日、すぐにトンちゃんから電話がかかってきました。

「相談センターな、電話してみたんやけどな…」
「どうしたん」

「うーん、なんか分かれへんかった」
「分かれへんかったってどういうこと?」

「うーん、うーん。電話したんやけどな、相談には審査がいるって。だから今すぐはできひんって。」
「審査?そんなこと書いてなかったけどなあ…」

「うーん…」
「ほんならお姉ちゃんが電話してみるわ」

相談支援センターの方に連絡すると、すぐに分かってくれました。先ほど電話したのですが、もう一度説明してもらってもいいですか?のそのあとは、私にもちょっとわかりにくい説明で電話口のお姉さんが一生懸命説明してくれました。
どうやら相談センターでは機関の紹介を主にやっているらしく、電話相談だけで済むので来所しての相談は詳しい相談内容を聞いてからになるとのことでした。その説明の中に、電話した相談の内容を支援センターの職員が会議をして、来所して相談するかどうか決まるといった説明があり、トンちゃんはここを抜き取って「審査」と言ったようでした。

この時支援センターのお姉さんはたくさん説明してくれました。
「本人の意向がないと相談は受けられない」「障がい者という枠になるので妹さんが受け入れてるかどうかが大事」「何を相談したいかが分かってないとこちらもどうにもできない」

話を聞きながら、私はトンちゃんのことを思い出していました。これじゃあトンちゃんには分からないかもなあと。お姉さんはたくさん詳しく話してくれますが、全部が「簡潔」ではありませんでした。

そして、私たちは「今何をすればいいのか分からない」から相談に行きたいのに、相談内容が決まってないと電話相談の意味がなかったのです。

機関の紹介が主らしいので仕方ないことです。ごめんねお姉さん。

でも説明は分かりにくかった



なんだか思ったより生きていくのって大変なのかも

相談センターのお姉さんと電話した後、私は予定を早めに切り上げて、急いでトンちゃんのいる家に帰りました。
まずはトンちゃんに詳しく事情を聴かなければ。そう思いました。
なんだか私が思っているよりトンちゃんの「認識能力」には難があるんじゃないか、それでずっと苦労してきてるんじゃないか、それをうまく伝えられないからもっと大変な思いをしてるんじゃないか。そんな気持ちでした。

「今からトンちゃんのことについていろいろ聞くけど、しんどくなったり答えたくないって思ったらすぐに言ってな」
「うん」

結構身構えていろいろと質問しましたが、トンちゃんは全部の質問に答えてくれました。お弁当は食べてきていたのですが、トンちゃんは家に誰か来てくれたのが嬉しかったようで簡単なご飯を作ってくれていました。(ちゃんと食べました)

後からトンちゃんも見返せるようにと、聞いたことを詳しくメモにまとめました。

当時のメモ

一応母にすすめられて就活もしていたようですが、セミナーに何回か行って終わってしまったみたいです。しかし、そこでトンちゃんにとって大きな収穫がありました。それがメモ取りです。

先の電話でも薄々思っていましたが、トンちゃんは耳から入る情報を処理するのが苦手なようでした。分かりやすく何回も説明していても伝わらないことがたくさんあります。
どちらかというと、文字に起こしたほうが分かりやすいとのことでした。これはすぐにでも取り入れるべきだと思い、トンちゃんとの重要な会話はすべてメモに残し、トンちゃんが見やすいところに置いておくことになりました。

就活セミナーに行った時に話してくれた人が、毎日一言でもいいから日記をつけるという話に感銘を受けて、自分でも日記を始めたというトンちゃん。ようやった、よう見つけたと褒めに褒め上げました。

「じゃあ、今心配してることとか今日何したかとか、紙に書いてからやったらお姉ちゃんとかお母さんに伝えられる?」
「それやったらたぶんできると思う」

これはとっても大きな変化でした。
これまで「今日何したん?」「どうやった?」系の質問は、「楽しかった」「別に」「うーん」の3択だったトンちゃんが、今日の感想をきちんと伝えてくれたのです。

ちゃんと工夫すれば伝わるんだ。

闇雲の中で1本の蜘蛛の糸を見つけたかのように、解決への道が見えたように感じました。一応今でもメモを習慣化させて、蜘蛛の糸は途切れずにつながっています。

じゃあもっと、トンちゃんに合った支援を探そう。せっかく診断を貰ったんだから、最大限に活かして生きやすくしよう。そんな話をたくさんしました。トンちゃんが分かってくれたかは確かめられませんが、平日に時間を空けてくれることは約束してくれました。


トンちゃんへの理解が少し深まったところで、友人から障がい者向けの相談センターを教えてもらいました。それが、市役所に併設されている「障がい者基幹相談センター」でした。
基幹相談センターは障がい福祉に関する総合的・専門的な相談窓口です。どこに相談に行けばいいか分からない・どんな障がい者福祉があるのか知りたいといった悩みを相談できる場所として設置されています。これだよこれ~。ちゃんとこういう機関があるんだね。と感心しながらまたトンちゃんに電話をお願いしました。今度はちゃんと予約できました。

電話をするときは、必ず「何て電話したらいい?」と連絡が来ます。やっぱり自分から会話を組み立てるのは苦手らしい。

でも電話は自分でしてくれる




いざ、基幹相談センターへ『障がい者手帳取りますか?』

市役所まで歩いていく間、トンちゃんといろんな話をしました。普段トンちゃんと歩くときはなかなか話題がないし続かないしで黙っていることが多かったのですが、トンちゃんはどういうことが苦手なの?とか、ああいう時は大丈夫?とか。聞きたいことはたくさんありました。その中で思ったことは、やっぱりこちらがちゃんと聞けば、トンちゃんはちゃんと答えてくれるのです。

「こういう時はできる」「こういう時はできない」「ああいうことが苦手」「これは大丈夫」たくさんたくさん答えてくれました。「それはなんで嫌だったの?」と聞くと、トンちゃん自身で理由がはっきりしているものと、分からないけどなんとなく嫌なものがありました。きっとトンちゃん自身も自分のことがあんまり分かってないんだろうな、と感じました。

基幹相談センターでは、職員さんが優しく話を聞いてくれました。
今までどういう経歴だったのか、どういうことが苦手なのか、困った経験はないか。トンちゃんは一つ一つ丁寧に話していきます。

全部の説明が終わったときに、職員さんがまた優しく説明してくれました。


「まず、診断をされた病院にまた行って診断書を貰いましょう。その診断書を持って障がい者手帳と自立支援医療の申請に行きましょう。」

文章にすると短い説明ですが、何回も何回も、トンちゃんが理解するまで優しく説明してくれました。「診断書ってお金かかりますか?」「申請はどこでしますか?」「自立支援って歯医者もいけますか?」トンちゃんのどんな質問でも優しく答えてくれました。

ちなみに自立支援医療は精神系の医療機関のみの支援になるので歯医者には適応されません

分かったのかな?


障害者手帳を取ることについて、トンちゃんは抵抗はないとはっきり言いました。そんなこと考えてたんだ。
もちろん診断書だけで、手帳を取らずに支援を受ける選択肢もありましたが、トンちゃんの場合は周りに理解してもらうために必要だと考えました。福祉サービスを受けるためにも必要ですが、同じようにトンちゃんの場合は周りに認知してもらうことも重要だと思ったからです。
自分からうまく言語化できないトンちゃんにとって、いい理由づけになります。

相談の中で就労に関するアドバイスももらいました。
診断書だけでも行ける「就労移行支援」
試験はあるけど月々支給を貰いながら行ける「訓練学校」
トンちゃんは発達障害の部類に入るので、発達障害向けの訓練学校への受験資格があるとのことでした。
最初は乗り気じゃなかったトンちゃんですが、それは「どんなところか分からない」から。また時間を見つけて見学に行こうというと頷いてくれました。

トンちゃんの自閉症発覚から相談の日までの数日間で、家族からトンちゃんへの理解が少しずつですが深まっていきました。相談の間にも、たくさんの苦手を話してくれました。

  • 要約して話すことは難しい(何が大事な話なのか分からない)

  • 耳で聞くより文字のほうが入りやすい

  • 周りがザワザワしていると話が聞こえにくくなる

  • 話が理解できなくてもとりあえず相槌を打つので後から分からなくなる

早く言ってよと言ってしまえばそれまでですが、その説明もままならないからここまで遅くなってしまったのです。自閉症と分かったから受け入れられる特性も、ただのトンちゃんのままでは許容できないことでした。

それってただの言い訳じゃないの?なんでできないの?
何回もトンちゃんに思ってきたことでした。

自閉症というくくりで救われたのは、トンちゃんではなく私たちだったのかなと思います。だって「別に何でもない」トンちゃんでは、なんで出来ないのか分からないから。ただの「わがまま」に見えてしまうから。
いつか成長すればなんとかなるのかな、もうちょっと成長を見守ろうと話していた私と母の過去に、やっと終止符が打たれた瞬間でした。


帰り道…


帰り道、なんだかトンちゃんはうきうきでした。

「手帳もってたら安くなるとこいっぱいあるんやって」

よかったねと相槌を打ちながら、またトンちゃんといっぱい話をします。
トンちゃん自身は何も変わっていませんが、こちらの解像度が格段に上がったことにより、やっぱり違って見えました。今までわがままで融通の利かないトンちゃんのあれこれが、「じゃあしょうがないね」の理由でどんどん溶かされていきます。別に全部許容できるわけじゃないけれど、許せるようになったところもいっぱいあります。

それはやっぱり「トンちゃんの理由を知ったから」

「ざわざわしてて聞こえなかったから」
「どうしたらいいか分からなくなったらパニックになるから」
「パニックになると動けなくなるから」
「嫌なことは忘れられないから」

理由にできないこともたくさんあります。

それでも、少しずづ歩み寄っていけたことが良かったなと感じました。
「メモは続けていこうね」「病院の予約はできる?」「就労移行支援も訓練学校も見学に行こうか」「お母さんにも今日のこと話そうね」「今日のことメモしたらお母さんにも話せる?」トンちゃんは一つ一つ「うん」と言ってくれました。

おそるおそる「今日の相談はどう思った?」と聞いてみたら、「詳しいことがたくさん分かってよかった」と答えてくれました。いつもの3択から抜け出して、どうやらトンちゃんの中に確かな収穫を与えられたようです。


以上、妹の発達障害が分かってから手帳の取得までの出来事でした。


以下分かったこと

  • 聞き方を変えれば答えてくれる

  • メモがあるとちゃんと伝えられる

  • 嫌だの奥に理由があるからそれを聞かなきゃいけない

  • こっちの質問力を高めたほうがいい(具体的に聞く)

  • 耳から入る「説明」は理解しにくい

  • 簡単な「受け答え」ならできる

  • 一日に予定が2つ以上入ると焦ってしまうから嫌

  • 臨機応変に対応するのは苦手


  • 障害について少しでも疑問があるなら、市役所の基幹相談支援センターへ

  • 手続きや申請もついて行ってくれる

  • 手帳を取ると受けれるサービスが増える

  • 何を相談したいか事前に家族で話し合う


長くなってしまいましたが、省いているところもたくさんあるのでいろいろ書いていけたらいいなと思っています。よければお付き合いください。

たくさん書くぞ~




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?