サムネ

【第67回】こうして僕の逃避行は終わりを告げたのである。(上海旅行記 Vol.7)

この記事は【第61回】謎の言葉「イツマッ」を解き明かせ(上海旅行記 Vol.1)から始まる上海旅行記の7回目です。1回目から読むことをおすすめします。


逃避行で2泊3日の弾丸海外旅行を試みた僕。訪れた場所は世界都市上海だった。

しかし、その旅も終わりを迎えようとしていた。

最終日。

名残り惜しき上海

2日間を過ごしたホテルをチェックアウトした僕は、空港へ向けて歩きだした。

あれだけチェックインに苦戦したのにも関わらず出る時は一瞬である。

旅が終わるのが惜しい。ついついカメラを回して、光景を残しておこうとしてしまう。目で見たままは絶対に撮れないのにも関わらず。

ここに住む人々は普段と変わらない生活をしていて、僕がいなくなっても、その日常はきっと続いていくんだろう。そう思うと少し切ない。

普段の国内旅行では絶対にそんなことを考えないのに変なことばかり考えてしまう。自分でも不思議だった。

普段は社会の中でのモブにしか過ぎないと僕は自分自身のことを思っていたけれども、上海にいるときだけは主人公でいられたような気がしていた。

すべてが目新しく、ワクワクする感覚。けれども、それはもうそろそろ終わりでモブに戻っていく感じが嫌だったのかもしれない。

やり残したことがいっぱいある。もっとローカルな店で食事をしてみたかったし、現地の人とも話をしてみたかった。もっと回りたいスポットもあったし、体験したかったアクティビティもある。

また来よう。絶対に、いつか。

空港朝食

朝早く目が覚めてしまったおかげで、想像よりも早く空港に到着してしまった僕は、まだ食べていなかった朝食を取ることにした。

空港の中にはいろいろな飲食店がある。日本の大手牛丼チェーンのすき家もあった。

その中で僕が選んだのは「谷田稲香」という中国のチェーン店。稲という文字が入っている通り米料理が美味しいらしい。

店の外観。早朝ということもあって空いている。

けれども僕が選んだのは肉まんとゆで卵のセット。おそらくモーニング限定メニューで10元、日本円にすると当時のレートで160円ほどだった。

セットには飲み物もついてきた。見た目はホットコーヒーを入れる紙コップだけれども中身は甘く舌触りがふわふわしている。結局中身はわからず仕舞いだったけれどもおそらく豆乳ではないだろうか。

中国の豆乳は甘くて朝食の定番だと中国からの留学生が語っていた記憶がある。彼女は日本の豆乳は不味いと少し怒り気味だったのを思い出した。

肉まんやゆで卵の味は至って普通だったけれども、この豆乳が美味しかった。

イツマッおばさんとの再会

帰りの便に乗る前に借りていたモバイルWi-Fiを返さなければならない。

借りたときと同じ窓口に行くと、あのときのおばさんが受付をやっていた。僕を見つけたときに笑顔になってくれたので、覚えていてくれたんだ、少し嬉しい気持ちになる。

モバイルWi-Fiの機器を渡すと無事一万円が手元に帰ってきた。デポジット制度というものを体験したことが今までほとんどなかったので返ってくるか、いまいち信用していなかったのだけれども、無事返ってきてくれて嬉しい。

小学生のころに使っていた連絡バックのような、チープな入れ物に入っていたのは保管があまりにも雑なんじゃないかと思ったけれども、けれども戻ってきたので、それでいいのだ。

これで僕はネット環境がなくなり外界から遮断されたことになる。下手にウロウロせずに、さっさとチェックインをして搭乗券を手にしてしまおう。

そう思い僕は、利用しているLCC運営会社のチェックインカウンターへと向かったのである。

願わくば、もう一度、あのおばさんのイツマッをもう一度聞きたかった。

上海旅行最後の試練

難なくチェックインを終え搭乗券を手にすることができた。その後、保安検査を終え、出国審査をすると、いよいよ搭乗ゲートにたどり着くいたのだ。

ここが最後の上海を楽しめる場所である。免税店や各種レストラン、お土産屋などが並んでいる。

時間まで買い物をしたりして時間を潰す。さすがに免税店でブランド物を買うほどお金を持っているわけではないのでお土産屋で買い物をした。使い方が下手で中国人民元が少し余ってしまったが記念として持ち帰ることにした。

こうして出国の時間が近づいてきた。そろそろ飛行機に乗らなければならない。

買い物などを楽しんでいたフロアから階段を降りて搭乗口がたくさんあるフロアへ。

先程の階と違って乗車待ちの人がたくさんいた。

ガヤガヤと騒がしく英語のアナウンスが流れたけれどもよくわからない。中国語はもっとわからない。

今回のフライトは飛行機の近くまでバスで移動し、そこから乗るようだったので、定刻通りの少し前に搭乗券に記載されている通りの搭乗口の列に並んだ。

搭乗券を受付をしているCAに見せ、列に並んでいる人が次々とバスに乗り込んでいく。

これまでの旅を回想しながら待っていると、あっという間に僕の番がやってきた。

前の人に従って、僕もまたCAに搭乗券を見せる。

「No!!!!!!」

CAが僕に対して怒る。そして僕は列から追い出された。

は?何が起こった?なんで?どうなってんの?

自分の持っていた搭乗券に記載された番号と搭乗口の番号を照らし合わせるが間違いはない。もちろん利用している会社も間違っていない。行きのときとまったく同じ制服のCAだし間違えようがない。

完全にパニックになってあたりをキョロキョロしていると、僕が並んでいた搭乗口の電子案内板に「香港」の文字が見えた。

え?香港?日本じゃなくて?何がどうなっているの?

更に電子案内板に目を凝らすと、搭乗口が変わった旨の記載があった。

ああ、そうか。先程、中国語と英語でアナウンスがあったのだけれども、搭乗口変更のアナウンスだったんだ。

慌てて変更後の搭乗口へと並び、ギリギリでなんとか飛行機に乗ることができた。よかった。

危ない危ない。電子案内板の表示に気が付かなければ、乗り遅れていたし、CAが適当だったら下手をすれば香港に行っていたかもしれない。

そう思うと背筋が寒くなる。

今回は、最後まで本当に気が抜けない旅だったな…。

こうして僕の旅は終わった。

飛行機の窓から。上海で撮影した最後の写真。

飛行機に乗り込み指定した窓際の座席に座る。

本当にこれで僕の旅は終わり。なんどもその時を意識して寂しくなったけれども、これでホントのホントに終わりだ。

CAが点呼を終えるとアナウンスが流れ、飛行機は飛び上がる。上海行きの便に乗って以来、人生2度めのフライト。かかるGの強さにはまだ慣れない。

行きのときも思ったけれども、LCCだからか高速バスが飛んでいるような感覚になって頭が混乱してしまう。こんなに壁が薄くて大丈夫なのだろうか。

そんな思いを抱きながら窓の外を見ると徐々に小さくなっていく上海の街。日本と違った茶色の川と赤い屋根たちが視界から消えていく。

いつしか僕は涙を流していた────ら物語の主人公みたいでかっこよかったのだけれども、別に涙は流れなくて。

寂しさはまだあるものの、それよりも心の中は多くの充実感、楽しかったという気持ちに満ちていた。

逃避行のようにやってきた上海。実のことをいうと、この旅を終えたあとに懸命に抱えていた問題に立ち向かったのだけれども、結局折れてしまった。

そのことが原因かどうかはわからないのだけれども、その後、体調を崩してしまって、しばらく何も手に付かない状態が続いた。貴重な大学生活の限られた時間を無駄にしてしまったなと振り返ると思う。

では、この逃避行に意味がなかったかと、そうではない。この旅での経験は確かに僕の心の支えになったと思っている。

たぶん、このとき上海に行っていなかったら、もっと折れていたのは早かったと思うし、何なら立ち直りも遅かったのではないかという気もなんとなくしている。いや、そう思うことにした。それをさせてくれたのが、この上海旅行なのだ。

こうして僕の逃避行は終わりを告げたのである。

最後に

こうして僕の上海旅行は終わりました。

ただもう少しだけ上海旅行記を続けようと思います。

紹介しきれなかったエピソードやあとがきのようなものを書きたいなと。

60回代のエッセイ「僕ノート。」は特別編ということに今しました!

あと残り3回。続きます。


>>前の話はこちら:【第66回】ハニートラップin外灘。(上海旅行記 Vol.6)

>>次の話はこちら:Coming Soon!


#エッセイ #僕ノート #上海 #中国 #海外 #海外旅行 #海外旅行記 #大学生




最後まで読んでくださり、ありがとうございました! ご支援いただいたお金はエッセイのネタ集めのための費用か、僕自身の生活費に充てさせていただきます。