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絶対許さなくたっていい・2

同じ感情に留まり続けるのが精神衛生上もっとも良くないことだから、心の健康を保つには、常に己の気を逸らし続けていないといけない。25歳で学んだはずのこと、未だに咀嚼しきれていない。いまいち思考に組み込めていない。翳りがないからといって、いくらでもそこに身を置いてよいわけではないと知った。ただ一ヶ所を変わらず守り続けるだけでは私は生きていかれない。生活を愛しているのに、それだけではどうにも腐る。気を病んだ時に自分の機嫌をとるのはやはり生活で、暮らしそのものに楽しみを見出せるのはとても豊かなことと思うけれど、そうも毎日丁寧に暮らしちゃいられない。そうして持て余す日々が続くと倦怠感を感じる。目に見えるような問題はないとしても、どこか整っていない感じがする。

3年前、4年前の自分と比べたら、信じられないほど穏やかな暮らしが手に入った。闘わなくてよいと、こんなにも日々心を費やさずに済んで、こんなにも退屈なのかとはじめは思った。けれど神経質な私は、すぐどこかから「不快」を見つけてきてしまう。敏感に察知して、どうせ文句言う。平和的解決をするなら、こぼすだけ愚痴をこぼして、こちらの捉え方を工夫することによって状況を飲み込もうと思考を重ねるのだろう。しかし私は、頭回して泣き寝入りを正当化するばかりでは消化不良になる。怒りや不満をなんらかの行動に換えた時にこそ、ものすごく生きた心地がする。こういう時、私の本質は闘争の中にあるのだなと実感する。「全部勝つ」が一年の抱負だったハタチの頃、行動指針は常に「現状に不満があるなら即行動」だった。私はいつも怒りに生かされてきた。
不満のある現実を甘んじて受け入れられるのが大人になるってことだとしたら、私はここ数年でずいぶんと成長しただろう。どれほどウマが合わずとも、この人はこういう人だから仕方ないと思えるようになった。お給料は我慢料だって理解できるようになった。二極思考も多少マシになって、白にも黒にもなれず狭間でもがくことも減った。高い理想を追い求めて闘うの疲れちゃって、生活が満ちてさえいればどうにかなるものだと知った。
けれど、それだけではどうにも満たされないのは、結局のところ、私はそちら側ではないからなのだろう。近頃、どうもなにくそ精神が疼く。そういえば最近とんと出てこないな、暴れさせてないなって、胸に飼ってるヤンキーのこと思い出す。運動不足で身体がなまっているような感覚がある。たっぷりと時間をかけて、枯渇した5歳児の心は満たしきった。きっと回復期が終わろうとしている。転職してまもなく、退屈な仕事に辟易していた頃、整体の先生に「これにもきっと意味があんのよ」と言われたのを思い出す。今は自分に時間を使いなさいっていうお告げなのよって。あれから4年経ったけど、本当だったなあ。

闘うのってとても疲れるけど、今の私なら、防具もなしに正面から斬り込んでいくような無茶はしないだろうから、すり減らすばかりの消耗戦にはならないんじゃないかと思う。それに、「勝ち」にそこまでこだわらない気がする。勝負ごとには相手がいるはずだから、「全部勝つ」ってきっと「全員負かす」ってことでもあった。今私が着火せんとしている闘志は、そういうのとは違う気がする。意地だけですべてどうにかしようとしたりしない。防ぎかわすことも、傷を癒すこともできる。体力が切れる前に休むことを選べる。闘うことそのものがいけないのではなく、今の私にとっての適切な方法があるはず。今の私ならどうやって闘うのか、私は知りたい。この欲求を無視できず、高揚している。
過去に許せなかったものを受け入れられるようになると、生きるのが少しだけ楽になるけど、自分ひとりで理屈こねくりまわして得られる安息なんてたかが知れていて、気が済むまで闘い抜いたからこそ許せるようになったものだってたくさんあるでしょう。家族とのことも、自分とのことも、そう。おまえは自分の筋通していい、私が突き通したポリシーを笑うやつは私の人生に必要のない人間だから切っていい。大なり小なり、絶対に許せないものと対峙し解決する経験を繰り返すことが私の人生には必要だと思った。

しかし、気を逸らし続けるという主題においては、私は決して戦士であってはならない。それを全として争いの中に意義を見出すのではなく、あくまで私の生の一部としてそういう気概があるというだけ。一点に集中すると、じきに気持ちの行き場がなくなり、また腐る。保持したいたった一つの私なんていないから、単一の自分なんてつまらなくて気が滅入る。ある時は戦士、またある時は5歳児。目指すべきはキューティハニーかも。如月ハニーだけじゃない、戦う女はみんな変身するじゃんか。週5で29歳会社員に変身、退勤した瞬間に変身を解いて、また別の私になろう。その方が断然面白い。変身するためのお守りとして、些細な隠しごとが欲しい。職場で禁止されてるのにメッシュ入れたりピアス開けた時みたいな、身に纏えるお守りが欲しい。

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