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外交と内政

軽んじられていると感じるなら私の人生の登場人物に必要ない人間のはずだから迷いなく切っていい、頭の中から存在を消していい。誰だって自分が一番かわいいのに私が私を守るために闘わなくてどうする、私が私を一番に大事にしないと私を一番に大事にしてくれる人がいなくなっちゃうって親友も言ってた。男に対しても女に対してもいつもやってきたはずだ。ビビって顔色窺ってるようでいて、適切な距離感を踏み越える人間に対しては、容赦なく線引きしてきたはず。私を縛っていいのは私の宗教だけなのに、心開く度合いを見誤った。3年くらい前にボロボロになるまで読んだ本の、不安型の愛着障害だと人との距離の取り方が0か100かになりがちで人間関係がうまくいかない、という記述がふと頭を過って、ちょっと落ち込む。新卒1年目の上司、元彼、元彼、同僚。無意味に自責したいわけではないが、明らかに私がハラスメントを引き寄せている。確実に引き合っている。恋愛以外だって十分に起こりうる。

規則破りまくってた頃のこと思い出せ。ポイントで脱色した金髪 お団子に入れ込んで隠してバイトしてたハタチ。そこそこ厳しめの職場で、どこまでやったら怒られるか試してやろうと思ってた24歳、同期に久しぶりに会うたびに「髪明るすぎ」と笑われてた。誕生日に近所の病院でピアス開けたのも24歳。好きな自分を守り、強く生きていくための誓い。結婚指輪以外のアクセサリーは禁止の職場で、髪を下ろしてファーストピアスを隠し抜いた。転職するのに会社辞めた瞬間、美容院行って、左右の耳の後ろひと束だけ色抜いた。最近じゃみんなやってるからつまらないけど、それでもやっぱり可愛いと思う。耳に髪の毛かけるたびに嬉しかったもの。

容易く侵入を許す精神構造を解き明かすのは後にして、今朝はいつもよりキツめの角度で直線的な眉を描き、はっきりとした濃いカラーのリップを選んだ。入浴中も寝る時もつけっぱなしにしていても困らない素材とデザインのピアスを、即決できる程度の価格帯の店で、しかし真剣にひとつを選んで、購入後ソッコー駅のトイレで開封した。特別なことがない限り常に身につけていよう。とにかく私には今「武装」が必要。マジメでいい子の私には、ほんの少し「悪さ」が必要。臆病な私でもでっけー声で言える程度のちっいゃいワル感が必要。ほぼ私服で通勤しているので特に禁止されているわけではないけど、なんとなく避けていたサンダルを明日は解禁しようかな。そう思ったら久しぶりに爪可愛くしたくなってきた。サロンに行かずに意地で自分で全部やるのがポリシーだったけど、最近は手も足も素のまま特別な手入れはしていなかった。ベースコートとトップコートはいいのがあるから、百均でカラーポリッシュだけ買おう。フットは派手なワンカラーでいい。そう思って迷わず赤を選んだ。洗濯が終わるまでの間に塗ってしまおう。あとは、眉の脱色。今日の家事と勉強を終えたら手の爪もやろう。

ロックが聞いて呆れる。取り戻せ。規則破りまくってイキイキしてた頃のこと、何気なくカラオケで歌った裸足の女神が合いすぎてるって言われた時のこと、思い出せ。世界は広いんだってギャルの先輩が何度だって教えてくれる。思い知らされる。すっごいコミュニケーションとるの上手で、誰とでも仲良くやれてるように見えるのに、「あの人とは職場だから仲良くしてるだけで、学生時代に知り合ってたら絶対友達にならない」ってハッキリ言い切るとこ、大好き。私の世界もここだけじゃない。職場以外で人に会う日がそれほど多くないから、すぐ忘れてしまうけど、私の世界はここだけじゃないんだ。仕事は毎日のことだから大きいけれど、でも、時間的割合が多いというだけだよ。あなたが誰と生きているかはあなたの意志によってしか決められない。同僚は友達ではない。友達になったって構わないけど、それだけではないんだ。

自分の世界の外のこと、自分の世界に必要ないひとに対しては、そうしていればいい。武装固めて、境界を踏み越えてきたら斬り倒して、存在忘れたらいい。けど、大事にしたい人に対してはどうすればいい。私の世界の内側にいる人に対してはどうすればいい。結局私が強くいられるのは、世界の外側と対峙するとき、闘うときだけで、内側ではどこまでも弱く、自信がない。傷つけたくない人がそばにいて、自信もって生きられるはずがない。

内側といっても、私の世界は地続きではなくて、いくつもの島がある。ひとつの島にひとりずつ住んでいる。海を越えないと誰にも会えない。人との交わりは異文化交流。どれほど居心地よくっても、自分の島に戻らないと落ち着いて眠れない。自分の暮らしに飽きたら、難しい問題が起こったら、顔が見たくなったら、気合を入れて島を出て、海を越えて、別の島へ遊びに行く。凝り固まった頭が解れる。そしてまたすぐ自分の島へ帰る。安心して遊びにいける島にしか出掛けない。同じ島ばかりしょっちゅう遊びに行ったりしない。特定の島とだけ交流を深めない。どの島もただプカプカと浮かんでいるようでいて、それぞれの島にきちんと文化があり、宗教があり、自治がある。

この例えは今の今初めて具現化したものだけど、付き合っている人に対しては、以前から、「私しかいないはずだった海にふっと現れた」感覚があった。二つのイメージの背景にある世界観は一致していそう。彼の島はたぶん私の島のすぐ隣にあって、他の島よりもずっと近いところで暮らしている。二つの島の間には、橋が架かっている。気合い入れて海を越えなくても、お互いの島を自由に行き来できる。ちょっとしたお裾分けにもすぐに行ける。彼の島で夕日が綺麗に見える日は私の島でも綺麗に見えるだろうし、私の島で火事が起これば、火が移ったり煙が流れたり、彼の島にも影響する。自分の島でトラブルが発生したときは、まずその状態を隣の島に伝えておくこと、自分でできる範囲で解決のために動くこと、自力で解決できそうにないときは助けを求めることが重要。隣の島でトラブルが発生した時はその逆で、隣の島の状態を把握しておくこと、できることは何か考えておくこと、助けを求められた場合は、自分ができる範囲で惜しみなく協力すること。それぞれの島でトラブルが生じた時はきっとそれでいい。

島と島との間で問題が生じることもある。環境、言葉、文化や宗教観の違いでうまくコミュニケーションがとれなかったり、不注意で相手の島のものを壊してしまったり、汚してしまったりすることがある。あくまで別々の島なのに、その島のルールを忘れて、自分の島のルールに則って居座ってしまうことがある。侵入禁止の中枢部まで入ってしまうことがある。「今自分がどっちの島にいるのか」「どっちの島で起こっている問題なのか」「どちらのルールを適用すべき場面なのか」を考えないといけない。

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