勝手にふるえてろを見た深夜2時、裸足で河川敷を走り出したくなった

【勝手にふるえてろ】
という映画を見た。

うわぁぁぁああってなった、
私の脳内全部、見られてるみたいで。
ここまで登場人物に共感した映画は初めてで、
共感どころか、
あれはただ、私だったと思う

頭の中で作り出して
現実に絶望して
消えたくなって
向き合わなきゃって勇気出しても
現れるものは思い描いたものと違って
自暴自棄になって
それでもまだ
どこかで何かを期待してる

あのね、

これ全部頭に“勝手に”って付くんです

“勝手に”喜んで
“勝手に”怒って
“勝手に”哀しんで
“勝手に”楽しんで

そうやって“勝手に”生きてる
友人や恋人や隣人は
関係ない、必要ない
名前なんて覚えない
だって皆自分の世界に存在してる
全部揃ってる
完結してる

江藤良香(よしか)は、おそらくこんな人間だろう。
いや、「こんな人間だ」と自分自身言い聞かせて生きているんだろう。
現実と妄想が入り乱れながらも、彼女自身は決して混同することはない。
現実に生きながらも、妄想の世界をスッと馴染ませることができる。
そうやって生きてきたんだろう。
きっかけはいらない。
カフェのお姉さんも、コンビニの店員さんも、釣りのおじさんも、編み物のおばさんも、駅員さんも、そこにいるだけで、良香の世界の住民になる。
そこはあくまで彼女の世界。
良香が作り出した良香だけの世界。

だから、泣けてきた。

中2からずっと片思いしてたイチは、
彼女の世界の中心にいたイチは、
彼女の名前を覚えていない。
何度も頭に召喚して、
自分だけとの繋がりを信じていたイチは、
江藤良香を知らない。

その時、
何となく目を背けてきていたことが、
何となく逃げていたことが、
何となく怖くて、
何となく悲しいことが、
一気に良香に流れ込んでくる。
この人も、あの人も、
誰も私を知らない。
カフェのお姉さん、コンビニの店員さん、釣りのおじさん、編み物のおばさん、駅員さん、
みんな、私は知らない
みんな、私を知らない

『絶滅すべきでしょうか?』

カフェのお姉さんに問いかけても答えは返ってきません。
だってお姉さんは私を知らない。
この人からもあの人からも、
私は透明なんだ。

『絶滅すべきでしょうか?』

よく考えたら凄い言葉。良香は古代生物が好きだって設定があるから、それと相まって本当ならそこまでの悲壮感を感じさせないようなセリフなんだろう。けど、松岡茉優ちゃんのお芝居が凄すぎて、悲壮感という言葉も当てれないくらいもっと奥深くまで心をえぐられた。死にたいとかっていうよりももっと、グワァってくる言葉。

『生き抜く術を教えてよ』
この言葉はクる。
良香があまりにも生き辛い人間を体現し過ぎてて、さらにクる。
自ら進んで、生き辛い人生を送っているように思える人も、意外と、悩んで戸惑ってるんです。

この辺り、予告で見たときはそんなふうに感じなかったのに、本編を見るとやっぱり感じ方が違うなあと。
あ、ここで言うのもあれだけど、映画の予告って本当にあてにならない。
この映画でもそうでした。
こんなに胸を鷲掴みにされて引っ掻き回される映画だなんて思いませんでした。ただ松岡茉優かわいーぐらいの気分だったのにね…

それで、彼女は違う恋を選びます。
ここで初めて名前を出しますが、本当はもっと冒頭から活躍してます、「二」。
二はね、正直ラスト10分までウザくてしょうがなかった。わりと冒頭で良香に告白したけどその後なかなか返事がもらえない。イチと良香の関係が気になる気になる、んでちょっと邪魔したりする。

正直だいぶイライラして見てた。
退けやコラ!良香とイチ喋らせろや!
とか思いながら。

だけど、イチの世界に自分がいないことを知って、良香は二と付き合うことにする。
経験がない良香にとっては全て初めてのこと、でもそれはバレたくない。
良香ちゃん、プライドが無駄に高い。
けどそれがバレちゃうんです、
(というか既にバレてた)
良香の(ほぼ唯一と言っていい)お友達、くるみちゃん。
くるみちゃんがね、二に教えちゃうんです。
「良香は経験ないから、そういうつもりで付き合って」
みたいなニュアンスで。

そしたらもう…
良香の富士級プライドはズタズタです。
恥ずかしさとかもあるんだろうね。
今まで強く出れてたのに、経験ないってバレたら馬鹿にされちゃうって。
「嫌だ待って、めっちゃ恥ずいじゃん私!」
ってなったんでしょう。

頭はぐちゃぐちゃ。
二に対しても、くるみに対しても、不甲斐なくて恥ずかしい自分に対しても、
言いようのない、ごちゃ混ぜの感情が込み上げてきて、
とんでもない嘘ついたり、言わなくていいこと・言わない方がいいことがどんどん溢れて止まらなくなって、
他人だけじゃなく、自分も傷つけてしまう。
会社には一方的に辞めますって告げて帰ってしまいます。

家に帰ると、現実から逃げるためにあの世界に戻ろうとします。
だけど、世界の象徴だったイチはもう居なくなってた。現実のイチを知ってしまったから。

会社を休んでいる間、
何度かくるみから電話が来ますが、無視してしまいます。
ある時、くるみの残した留守電を聞きます。
くるみはいつも通りでした。
酷いことも言ってしまったのに、いつも通りの優しい話し方。
良香は、自分を大切に思ってくれている存在がいることに気づきます。くるみはずっと、自分を受け入れてくれていた。
良香もようやく動きだす決心をして、二に電話します。そしたら…

着拒されてた。
良香、100%自分が悪いのにキレます。

結局、会社に電話かけて二を呼び出します。
で、二が来るんですが、もうここからは二の好感度が爆上がりです。

まず初めに、良香がめちゃくちゃ可愛いんです。
二が良香のこと気になり出したとあるきっかけがあって、それを再現して待ってるんです。
で、二
二がめっっっっっっちゃいい、本当に。
二からしたらね、酷い話です。
告って待たされてやっと付き合えたと思ったら急に自暴自棄になられて酷いこと言われて、どうすりゃいいんだよ?って。
それでもやっぱり良香が気になるから来てしまったんでしょう。
もう好きしか言えないんです、二。
ここまで振り回されていると、他に言うことないんです、二。
そんな二を前にして、良香は相変わらずです。
「好きなんだったら、私の全部を受け入れろ!」という良香
それに対し、
「好きだからって全部受け入れろは無理だよ〜」とか言いながら、
結局好きしか言えてない二。
「惚れた者負けだな」って言葉が痛い程合ってしまう。

でね、この良香の
「好きなら全部受け入れろ!」っていうのね、めちゃくちゃ二に甘えてると思うんです。他人を自分の世界に入れないように生きてきた良香が、他人に甘えてるんです。
良香には経験がないし、恋愛なんて全然分からないけど、それでも二に強く出たいのはきっと、二のことを信じてるからだと思うんです。だからここまで素直になれるんだと思うんです。だからそんなこと言っちゃう。
結局ね、結局、
江藤良香は、自分を受け入れてくれる人が必要だった。江藤良香の作り出す妄想の世界じゃなくて、現実の中で、彼女を認めて、名前を呼んでくれる存在が必要だった。


ただ、好きと言ってくれる、何度も何度も名前を呼んでくれる二こそが、良香が本当に求めていた人だった。


そういうことだと思います。
自分の世界だけを愛していた良香が、
避け続けていた現実の世界の人々のおかげで、少しだけ変われるような、そんな期待を含んだ終わり方です。
くるみと仲直りできるかな?とか気になるところは残るけど、
二が側に居てくれれば何となく大丈夫なんだろうなあと思います。


話を少し戻しますが、
良香は自分の世界でお友達をたくさん作ってます。
カフェのお姉さん、コンビニの店員さん、釣りのおじさん、編み物のおばさん、駅員さん、
現実の世界では話したことすらありません。話してみたいけど、勇気がなくて出来ません。
映画の中では良香の世界と現実の世界が入り混じって展開されていて、初めは現実にお姉さんやおじさんとお友達かのように描かれています。
それが、イチと会った後、本当は誰とも関わりがないことが映画の中で明らかになります。
きっとここで文字通り震える人がいると思うんです。
えええ…知り合いじゃないんかい…って。
私は震えることが出来ませんでした。。なんとなく気付いてたんです。この人たちみんな、良香の頭の中だけなんだろうなって。
映画の演出というかトリックというか、それで気づいたというのも一理あるんですが、
それよりも何よりも、良香が本当にそっくりそのまま私だったんです。
自分の世界作って自分の都合よく人を配置して物語を作り上げてるのが、完全に私だったんです。
知り合いじゃない、と分かったところで思わず、だよなぁ…と呟いてしまった。
私も頭の中で現実と全く違う世界を描いています。その世界には、こうなればいいのにな、という望みがどこかに含まれていたりします。

だけどこれ、分からなかった方が楽しめたんだろうなと思います。
私も震えたかった。
でも良香に共感できなければ、この映画をここまで楽しむことも出来なかったと考えれば、やっぱ震えなくても良かったかな。


ほとんど触れてないのでイチの話もしときます。良香とイチは同窓会で再会します。
天然でみんなにいじられて、みんなから愛されてたイチ。けど、イチからしたらそうじゃない。
イチの言ってたこと、すごく分かるんです。
「自分の意思超えたらいじめ」って。
それで同級生にめちゃくちゃ距離取ってて、興味も持たなくて、名前も知らない。
でも、そんな中で良香だけが自分を見てないことに腹立ったって。(本当は良香、めちゃめちゃ見てたんだけど、直視できなかっただけなんだけど)

「僕を見て」

その言葉が何年も良香を縛り付けることになるのに…
え、てかイチめっちゃメンドイ奴じゃん…(小声)
酷なのは、
全く気がないイチ→←嬉しくてたまらない良香の構図がもう辛いのなんの。
でも良香喜んじゃうし、喜んでドン底落とされるし
罪な奴でしたね、イチ。


あ、あとね、
役者が突然歌い出すようなジャンルを単にミュージカルと括ってしまっていいのでしょうか。
良香はメロディに乗せて自分の気持ちを歌っていますが、それはミュージカルというにはあまりに幼く、あまりに直球すぎる。
ただただ、歌うしかなかったんだと思います。歌にするしか、自分の気持ちと向き合うことは出来なかったんだと思います。
ミュージカルは、悲しい気持ちも怒りの感情も全部歌にします。
良香の場合、悲しかったり情けなかったりする自分を、歌うことでどこか別視点から見ているように思いました。他の映画でもたまにあるそれに、ミュージカルとは違う呼び名が欲しいなあと思います。


まとめると、本当に良い映画でした。
好きな映画挙げるとしたら間違いなく片手に入る作品。
見終わったのは深夜2時過ぎ、興奮して寝れず、ほぼ徹夜状態でこのレビューを書いてます。
伝わればいいなあ…


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