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中学高校時代に憧れていた友人Hを思い出すお菓子、After Eight。ついに見つけたので、買ってしまったー!出張中の夫のウィスキー勝手にあけて、ほろ酔いでブレブレの写真を撮っている。息子たちは寝ていて、床には洗濯物がいつも通り大量に散らかっている。1枚のAfter Eightをくわえたまま床の上に寝転がる最高の時間。大の字になるって幸せ。

「期間限定でミントオレンジフレーバーが出ている!」と友人が教えてくれたのは1ヶ月くらい前だったと思う。懐かしい買いたい!と思いながら過ごしていたら、近くの高級スーパーの陳列棚で偶然見つけて、思わず声をあげた。オリジナルのAfter Eightを買うのも、相当久しぶりだった。

初めて食べたのは、高校1年の時に同級生と英国に短期留学をした頃だ。わたしのホームステイ先は、同い年の男の子と7歳の女の子のいる4人家族の家だった。ピーナツバターをめちゃくちゃ薄くのばしたほぼパンのサンドだけいつも持たされていて、甘いし飽きるしお腹すくし…と辛かったのをよく覚えている。それぞれのホームステイ先から語学学校に通ってくる友人達との会話の大半はホストファミリーの話で、同じ地区内に滞在していた友人Hともよく一緒にお昼を食べながら話した。

Hは、小顔で、天然パーマの長くて染めていないけれど栗色の髪、淡いきつね色の瞳、すっと長い手足に美しい爪、『装苑』の表紙を飾りそうな美人だった。英国滞在中の私服姿の彼女は、日本での制服姿よりもずっと垢抜けて見えて、いつもその姿を追っていた。彼女のホストファミリーは裕福な家らしかった。とても大きなパントリーがあり、その中から毎日好きなお菓子を選んでいいと言われている、と嬉しそうに話していた。見たことはないけれど、重厚感のある扉を開けると上から下まで美しいパッケージのお菓子が並んでいる様子が浮かんだ。Hが棚の上の方にあるお菓子を選んで手に取る姿は想像しただけで絵になる。彼女がいつも選んで学校に持ってきていたお菓子、それがAfter Eightだった。あの頃のわたしには、何か特別なお菓子な気がして、その中の1枚を貰って食べた日の事が忘れられない。今も、食べながらその日のことを鮮明に思い出す青春の思い出。

滞在していたのは、コッツウォルズ地方の端にあるチェルトナムという街だった。花と緑が美しく、薬効のある鉱泉が発見されて以来、保養地として栄えてきた街でもある。わたしは、学校終わりの帰り道をほとんど一人で過ごしていたような気がする。少し遠回りして、軒先の花壇や、夕日に美しく照らされた芝生広場で遊ぶ子供たちを遠くに眺めながら写真を撮り、アンティークショップに立ち寄っては、器やランプを買った。美しい街だった。歩いて歩いてとにかく歩き回った。

英語はたいして話せるようにならなかったけど、好きなものに無心になって向き合っていた気がする。今思えば、あの時ひとりで好きなように過ごした時間が今の私の礎となっている。かなり遠回りしたけれど、ランドスケープデザインの勉強をする事になったのは、この時の経験も大きい。

Hは、大学卒業後、渡欧し、今もファッションの世界で働いているらしい。あの頃と変わらず、自由で、美しくて、かっこいい。ミントチョコにオレンジを感じながら、懐かしい思い出と共に、真っ暗な中、天井を見上げる。隣から小さな吐息がすーっすーっと、聞こえてくる。

息子たちにも、人生の節目に思い出す素敵な友達ができるといいなあ。会えなくても、どこかで頑張っているのだろうなと想いを馳せるような存在が。ウィスキーがまわって、身体も心の中も熱い夜。


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