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『ようこそ、写真の聖地へ』 〜後編〜

前回に引き続き、”写真弘社”の代表を努める柳澤さんを取材いたしました。
写真家たちとの仕事や銀塩写真に懸ける思いなど、非常に興味深いお話を柳澤さんから伺うことができました。   今回が、この取材の最後の記事です。
”写真弘社” から広がる写真の世界をぜひお楽しみください。

/ 写真家と共に歩んできた軌跡 /


ー ”写真弘社”さんは、現在までにプロの写真家の作品制作に携われていたと思いますが、どのようなものがありましたでしょうか? ー

柳澤さん 「かなり前の話になりますが、世界的に有名な写真家集団マグナム・フォトの展示写真を手掛けたことは、非常に良い経験でした。 コーネル・キャパ、アンドレ・ケルテスと一緒に制作する中で、彼らが自分たちの写真で何を重視しているかを共有できたことは、自分たちのプリントに対する考えがより深まりました。」

写真弘社が手がけた軌跡

ー 世界的に有名な写真家集団マグナム・フォトの制作に携われているなど、本当に貴重なことです。ー

柳澤さん 「写真家との作品づくりは、どれも貴重なものですが、木村伊兵衛先生、細江英公先生、植田正治先生など、多くの写真家の制作に携わったことは、私たちには光栄で幸せなことです。 特に、細江先生との制作では、当時ではかなり難しかった作品を何度も制作しました。 そういうことが、自分達の知識、技術になって、今の”写真弘社”がありますよね。」

/ 銀塩の写真にこだわる理由 /


ー”写真弘社”さんといえば、銀塩写真というイメージが非常にありますが、銀塩にこだわられている理由を教えていただけないでしょうか?」

柳澤さん 「じつは、私の人生の中で一番感動したことがありまして。 あるモノクロの写真展に行った時に一つの作品の前に立って見ている方がいましてね。 かなり長い時間、その方が同じ作品の前に立って見ていらしたので、気になってそばに近寄ってみたら、その写真作品の前で涙を流して泣いていたんですよね。 その時、これこそが ”答えだ” とわかりました。 ”写真は人の心を動かすことができる”のだと。 銀塩の写真は人に感動を及ぼす要素を持っているんですよ。 銀塩の写真は200年の歴史があり、やはり写真に厚みを感じますよね。」

ー銀塩の写真は、厚みがある。  確かに、立体的なものでないのに独特の奥行きを感じますよね。ー

柳澤さん「銀塩の写真は、人の心を動かす力がある。  だかこそ、きちんとプリントをやらなければいけないと思ってます。 ”いつ誰がみて、誰が感動しているかわかないのだから、一枚たりともつまらないものは作るなよ” とスタッフたちに話しています。」

銀塩写真について語る柳澤さん

ー柳澤さんの銀塩への思い、本当に感慨深いです。ー

柳澤さん 「銀塩の写真もそうですが、昔からある技術は残さなければいけないと考えています。 今では、あまり見なられなくなった”セピア調色”という技術がありますが、黄色くなってしまった古い写真にこの技術を使用すると、綺麗に仕上がるんですよね。  昔からある技術には、写真を美しくさせるものが多くあります。  だから、伝えていかなければならないのと、残していくことで、それに必要な材料もなくならないようになりますから」

ーなるほど、そういうことなのですね。ー

柳澤さん 「よくカラー写真とモノクロ写真を比較されたりすることがありまして。 たまに一般の方に”どうしてモノクロ写真は廃れてしまったのですか?”などと聞かれることがありますが、その時は、”モノクロ写真は廃れていません”とお答えしています。 ”写真弘社”では利用者の3割くらいの方が、モノクロを求めて来ています。  写真を何で表現したいのかが重要で廃れているとかではないですよね。」

/ 本物づくりは手が掛かる /

ーモノクロ写真は廃れていない。 それは、僕も同感です。ー

柳澤さん 「昔からある技術もそうですが、昔の機械も簡単に捨てるわけにはいかないんですよね。 やはり、それがないとできないこともありますから。 今、取材していただているこの写真弘社のモノクロ館でも、そういった昔の機械を置いてます。 セーフライトの入手や現像する際に排出される廃液の問題などがあるので、個人で現像するのが難しくなってしまったので、写真家からいただいたものが結構他にもあります。(笑)」

ー確かに機械も一度手放してしまうと、手に入らないですよね。ー

柳澤さん「あと、その機械を使える技術者の問題もありますね。 作家さんのオーダーに応えられるようになるのには、5年から10年はかかるので、技術者の育成も進めていかなけはなりませんからね。」

ー技術者の問題、それも大変ですよね。ー

柳澤さん 「技術者を育てるのは、非常に大変ことですが、それをやらないといけませんよね。 実は、デジタルのプリントも、うちは銀塩プリントの経験者が全てやっていまして。 デジタルプリントを始める際に、当初デジタル専門の者がやっていたのですが、どうもうまくいかなくて。 それで、銀塩の経験者のものに代わってやってもらったところ、非常によくなりましてね。 やっぱり、銀塩プリントの技術者は制作の限界とかいうことを考えないで仕事をする姿勢があるので、質の高いプリントがデジタルでもできるんですよね。」

ーなるほど、それは素晴らしいですね。ー

柳澤さん「銀塩を勉強してきた者は、限界なんて思わないから、”デジタルも銀塩のプリントだと思ってやってくれ”と話してます。 実は、デジタルのインクジェットプリントは、銀塩ではない良さがあって、特に赤色なんてインクジェットは綺麗に出ますね。 逆に銀塩だと難しかったりします。 銀塩、デジタルを技術者がしっかりやっていると、作家の表現したい考えによって、どれでプリントするのが良いかを考えて、的確に提案できるようになりますね。」

ープリントする方法でかなりイメージが変わりますよね。 それを的確に提案できるのは、熟練したプロの知識と経験が必要になりますね。ー

柳澤さん「よく技術者たちとも話ますが、”ものづくりは、本物づくり。  本物作りは、手が掛かかる。” と。 でも、それを諦めたら駄目なんです。 これからも粛々と続けて行きます。」

最後までご覧いただい誠に有難うございます。

こちらの記事をご覧いただき、”写真弘社”さんにご興味がございましたら、ぜひ伺ってみてください。

写真弘社 https://www.shashinkosha.co.jp/index.php


文 : 荒岡 敬
写真 : 小林 浩平

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