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料理のアクは悪徳のアク

みなさんこんにちは、にかです。

ドイツ生活においてはほぼ自炊をしていますが、やっぱりカレーは美味しいですね。今日もカレーを作りました。

で、お料理ど素人の僕は、もちろんちゃんとカレーの箱の裏面に書いてある作り方に忠実に作ります。

すると、こんな文言が。

「アクを取」…あ、あく?アクって、なんなんだ?
いえ、アクの存在自体はもちろん知っています。なんか食べたらまずい汚いやつですよね。それくらいの認識です。

しかしいざカレーを作ってみると、どれがアクでどれがアクじゃないのかさっぱりわからない…!!

そもそもアクってどういう語源なんでしょうか。

アク…悪…?もしかしたらこのアクは、悪徳の事かもしれない、とカレーの鍋を見ながら僕は考えました。
みなさんは、悪徳と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。僕は、とっさにマルキ・ド・サドの大問題作『悪徳の栄え』を思い出しました。これは有名ですし、知っている方も多いと思います。
サディズムの語源にもなったサド(SMのSですね)に、憲法界では有名な『悪徳の栄え事件』としても名高いかと思います。

拾い画です

本作を知らない方のために、あらすじをwikiから引用しましょう。

修道院で敬虔な女性として育てられた主人公のジュリエットは、13歳のときに、道徳や宗教やらの善の概念は無意味だと言うある女性にそそのかされ、以来悪徳と繁栄の生涯を歩むこととなる。作品の全編を通して、神や道徳、悔恨や愛といった概念に対する攻撃的な思索が繰り広げられている。 彼女は自身の快楽を追求するために、家族や友人といった親しい人間までもをありとあらゆる方法で殺すのである。

Wikipedia

考えるだに恐ろしい物語ですね。ちなみに、日本語訳をもちろん僕は持っていますが、本作は1000ページ超えで、読むだけでも疲れます。ぶっちゃけ8割くらいしか読んでません。積読ゼロにしてドイツに来たかったのに...!

で、これとカレーのアクと何の関係があるんだ!と疑問に思うでしょう。さらにここから派生して、とあるとても面白い戯曲が存在するのです。

実は、作者サドは現雑世界でもかなりヤバい人で、結婚していながら複数人の娼婦たちに暴行を加えながら行為に及んだり、奥さんの妹と関係を持ったり、それで何度も牢屋に入ったり、といろいろ事件を起こしています。

人々はもちろん彼を白い目で見ます。まあ下手なことは言えませんが、何をしでかすかわからない怪しげな宗教の教祖みたいな立ち位置の存在だったのではないでしょうか。

サド

そんなサドの奥さんはたまらず離婚を突きつける...!と思いきや、なんと夫のことを愛して止まないのです。
どんなに凶暴であっても、奸悪であっても卑劣であっても、夫サドを牢屋から助けてやりたい、恩赦を願いたい、という一心で妻は行動します。なぜか?

やがてサドは20年の獄中生活を経て、ようやく自由の身となります。
ああ、やっとサドとその夫人は愛し合うことができる…!!

と、思いきや。

サドが自由の身となった瞬間、突然、夫人の心がまるで別人格になってしまいます。「もう2度と、サドとは会わない。」とまさに180度真逆のことを言い出し、生涯二人が再会することはなかったと言います。なぜか?

サド夫人の本心は、もはや誰も知りえません。しかし、そんな彼女の心情を追求し尽くした、実話を元にした演劇があります。

それが、三島由紀夫『サド侯爵夫人』です。

Wikipediaより。

「戦後演劇史上最高傑作の戯曲」とまで評価された本作において、三島はサド夫人の思想を、啄刻をきわめた纏綿たる美文で色鮮やかに描きます。言葉の腕力で猛威を振う本作は、忠烈まさに天地を慟哭せしめる趣きがあると言っても過言ではないでしょう。ところで僕は本作が好きすぎるあまり、全てのセリフを暗誦することができます。

本作の登場人物の一人はこう言います。「悪徳というものは、初めから全て備わっていて、何一つ欠けたもののない自分の領地なのでございます。薪の小屋もあれば風車もある。小川もあれば湖もある。いいえ、そんな平和な眺めばかりではなくて、硫黄の火を吹く谷もあれば荒野もある。獣の住む森もあれば古井戸もある。」

カレーを作りながらアクを眺めていたら、このシーンが如実に浮かんできました。ふとキッチンを俯瞰すると、とても広く感じました。実際、キッチンはとても広いです。
アクを取り出せないぼくは、悪徳という広い領土の中にいるように思えてなりませんでした。

こんなことを考えているうちにも、ぐつぐつカレーの水分は飛んでゆきます。早くアクをとってルーを入れないといけないのに...!!ぐつぐつぐつ…炎の勢いは止まりません。アクを取れない焦りからか、どんどん勢いが増しているようにも思えます。地獄の炎がちらとこの世に姿を現したはじめですわ…静まり返ったキッチンの至る所から『もっと火を!』という叫び声がぼくの中を駆け巡りました。ああ、その声がこの寮にまで迫ってきたらどうしましょう…「もっと火を!」いいえ、それは清めの火ですわ。ぼくの心の悪徳が今目の前で焼かれただけで、「アク」を取れないという罪が償われたのですわ!「もっと火を!」↓25分20秒

追記
カレーは美味しくできました。

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