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読む THINK 49 ゲストは津田直さん(写真家)2015年2月27日

2015年2月27日(金)に行われた 49回目のTHINKをアーカイブから掘り起こしてお伝えします。

ゲストプロフィール(当時の告知資料より)
THINK_49_津田 直 / Nao Tsuda_写真家
1976年神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。2001年より国内外で多数の展覧会を中心に活動。
2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。主な作品集に『漕』(主水書房)、『SMOKELINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『SAMELAND』(limArt)などがある。
最新の写真集『NAGA』(limArt)を2015年2月に上梓。
大阪芸術大学客員准教授、大阪経済大学客員教授。
http://tsudanao.com

ーー定期購読マガジン THINK BOOK について
THINK BOOK は,読む "THINK" です.Suppose Design Office の谷尻誠が毎月魅力的なゲストを招き「"考える"ことを考える場所」として開催しているイベント"THINK"を読み物として再構成してまとめています. 多彩なゲストとの間で繰り広げられる本音のトークはここでしか聞けないヒントがたくさん詰まっています.過去100回以上に及ぶ記録資料などの掘り起こしを含め,月に2回程度,定期購読マガジンとして掲載します.ぜひ定期購読していただいて,皆さんの日常をTHINK するきっかけにしていただければ幸いです.(谷尻誠,西尾通哲:共同編集)

写真集のためにカメラを作ることから始まった

谷尻誠さん(以下,谷尻):
実は,津田さんとはごく最近お会いした仲なんです.

津田直さん(以下,津田):
そうですね,1ヶ月くらい前ですかね.

谷尻:
写真はよく拝見してたんですけど,たまたま津田さんの展覧会の案内の関係で繋がって.実際会って津田さんのことを知ると,その経験をぜひTHINKでお話いただきたいなと思って今回お越しいただきました.

津田:
トークはいつもあまり内容を決めずにスライドを見てもらった後で少し話を聞いてもらう感じなんで、それで進めさせたもらえたらと思います。

僕はランドスケープ、風景写真と言われるものを撮っています。全てフィルムで撮って、それを展覧会で見せる、ということをやっています。

今日はメインは最近出版した写真集,これはパノラマの比率で撮ってるんですけど,その写真をお見せしたいと思います。

(スライドが始まる)

普通はロクナナという比率で撮るんですけど、これらはアイルランドで撮影しています。カメラを作ることから始めました。アイルランドを撮りたかった理由としては、現在のヨーロッパで主流となっているキリスト教の思想というか概念よりも古い時代に人はどんな世界観の中に生きていたのかという興味に対する答えを探したということですね。100年という時間より1000年単位の時間を超えた写真を撮りたいと思ったときに、アイルランドには、キリスト教に支配される前の4000年くらい昔に人が暮らしていた痕跡がある場所が比較的アクセスしやすく残ってるんですね。そういった場所に自分から入って行って写真を撮りました。

谷尻:
どうしてカメラを作ることから始めようと思ったんですか?

津田:
アイルランドっていう場所が、横に広がりがある場所なんですよね、その風景が。それで、2枚の写真をつなげるという方法もあるんだけど、それでもこのランドスケープは僕のカメラの中には入らない、という感覚が直感的にあったんです。写真を撮る時っていうのは、写真家にとってカメラは自分の身体との関係が大事で、信頼できなかったら間に挟めないんです。撮ることもできない。だから、一回ゼロに戻して考えた時、カメラを作るという方法に行き着いたんですね。新車が1台買えるくらいのお金がかかりましたけど。

カメラマンというと、一般的に「頼まれて撮る」ものだと思ってる人が多いと思うんですけど、僕の場合は、作家としてのスタンスで続けてきていて、頼まれて撮るということがほぼないんです。だから撮りたいものは撮れる反面、いつも赤字からスタートということがあって、今回もそういうことになりましたね。

それで、このカメラについてもう一つ言えるのは、今見てもらっている写真に黒い石が丸く並べてあるのが見えると思うんですけど、これは4000年くらい前に人が集っていた形跡が残っている場所で、その中にポツンと真っ白な石があるとか、こういう風景を、現地に入って自分の足で見つけて撮るということをしています。この写真も、車道がついているところまでは車で行って、その後自転車に乗り換えて進んで行って、さらに自転車も入れないような場所になると歩いて分け入るという、そういう原始的な方法でたどり着くわけですが、このシリーズでは、その場所に居たいと思った時間だけシャッターを開けておこうと思ったんですね。5分居たいなと思ったら5分シャッターを開けておきたいと思ったんです。普通のカメラだと一瞬で撮ろうと思えば撮れるんだけど、それは違う気がして。自分がいた時間をそのまま写し取るということができるようにしましたね。あくまでも、この風景と、自分との向き合い方とか、時間とか、写真の中に自分が与えたいものをどうするかという問題なので、カメラはあまりカメラらしい動きは必要ないというか。

谷尻:
普通に、カメラをカメラらしく使っていた時期もあるんですか?つまり、カメラに任せて撮るみたいなことはあるんですか?

津田:
それこそ、17歳とか、一番初めの時は、いいカメラで被写体を上手く撮ってやろう、という気持ちはあったでしょうね。カメラの方が自分より優れているんじゃないかという幻想があったんです。でもだんだん違うなと分かってきて。あくまで相性というか、自分と被写体との間にある存在がいかに自分の感覚に自然に溶け込むかということの方が大事ですね。信頼関係がないと本当の意味で撮れない、ですね。シャッターは物理的に押せるんだけど、撮れない。

今見てもらっている入江の写真も、この辺りの海を仕切っていた女性の海賊がいたという話がこの辺りに残っていて、それらが船を隠してただろうなと想像しながら撮るんですね。写真を展示するときに、そういう理由や説明を添えることはないんですけど、私たちが樹齢100年の樹を見るときにどうその100年を味わうかということでもあるように、このような岩を見るときにも注意深く観察をするというか、そういう気持ちで撮りますね。

(別の写真に切り替わる)
この写真も、湖に浮かぶ砦なんですけど、元々航空写真で見つけて、現地の地図を確認して行ってみると、山に囲まれた盆地のような場所で。そしてそこは人の所有地で、今度はそのお爺さんが帰ってくるまで待っていて、それで撮影させてほしいとお願いするわけです。ボート漕げるかと言われて、ボート漕ぎますって言って。それでボートでアクセスするルートを教えてもらって乗り込むという。

谷尻:
かなり宝探し的ですね。

津田:
見えないものに対してどう向き合うか、それが見る、ということ。見えないけれども存在するもの。宝探しは日常的ですね。

谷尻:
でも、宝が見つかり続けているという感じですよね、執念深いんですよね。

津田:
疲れたということがないですね、寝たらまた戻るから。たしかに、どこかで絶対撮れる、と信じているものがある。今回のアイルランドもそうですけど、何か絶対撮りたい、というものに突き動かされている感じはあります。

谷尻:
なぜ、津田さんはそんなふうに思えるようになったんですかね?つまり、今はすでに作家としての自分の方法論みたいなものが確立されているのは分かるんですが、どうしてそうなったのかというか、どこでそういう考え方が培われたのかが知りたいですね。

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