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瀬戸内(せとうち)未来共創プロジェクトのプレローンチの振り返り

せとうち未来共創プロジェクトは,ひとことで言えば何ですか?と言われた時,実社会の課題に学校の枠組みを超えて協働して取り組む学びのコミュニティです,と言うことにしています.

背景は,ざっとこんな感じです.学校,ここでは高等教育機関,特に専門学校はスペシャリストを育成するという創成期における社会からの要請でバブル期から21世紀の最初の10年くらいまである意味で順調にその役割を担ってきたんですね.ただ,だんだんとこのままで良いのかな?という漠然とした小さな違和感が頭をもたげて来るようになってきたわけです.それは,学校の持続可能性という問題で現れます.社会はどんどん変化していきますからね,ずっと同じやり方では必ず廃れます.持続可能性を高めるためには,社会の変化にちゃんとアジャストしていく必要があるんですよね.

今考えると,1990年代後半に普及し始めたインターネットが大きな分岐点だったんだろうと思います.あるいは,自分の所属する学校法人も40年前に専門学校を立ち上げた理由は台頭してきたコンピューターのオペレーターの供給不足に応えてのものだったといいますから,創業時から実はコンピューターが及ぼす社会の変化と共に隣り合わせてきた産業なのかもしれません(専修学校制度の成立は1976年に遡る).

そしてスマートフォンが普及し,コロナウィルスが予期せずもたらしたマルチバースが現前し,今では生成AIが席捲していますよね.さらに世界情勢としてはヨーロッパと中東で戦争が日常と並行し,政治がどうなるかによって(この文脈では日本よりアメリカの大統領選の方がはるかに重要だ)本当に先行きが不透明な時代にすでに突入してしまっているんですよね.まさにVUCA(名前を付けることでそういう風に見えてしまうという問題があるわけですが)の時代です.しかし,そんな中で誤解を恐れずに言えば平和に孤立化した日本は経済だけでなく社会スタンダード(ここではサスティナビリティや人権,デジタル化を含めた文化や政治的な成熟度)にも歴然としたギャップが生まれ始めています.

あれ,話がすこし大きくなり過ぎましたね.では学校に話を戻すと,ここで言いたいのは,学校という,そんな日本の中でさらにある意味保守性が保持され続けて社会と隔たれてきた組織である「学校」が抱える現代社会とのギャップは相当なものだと考えられます.それは,中学や高校などの謎校則に見られる生活指導的なものが話題になりがちですが,本質的なことで言えば,その学習内容など学習のフレーム(例えば国語,数学,などの「科目」的なものを含みます)が今の方法がベストか?と社会から問われているという構図があると思います.

こと既存の専門学校の多くの教育課程はこの40年もの時間をかけて,社会のデマンドに合わせてニッチに細分化してきたことで成長を保ってきたわけで,その見返りとして業界との繋がりが生む高い就職率が存在意義だったわけです.

だけど,学校を発展させるためにはより多くの学生が必要であり,途中からデマンドによる教育課程開発ではなく,ニーズを探る教育課程開発にシフトしてきて,当たりはずれを競合する状態になっているわけです.18歳人口の減少が大学を巻き込んでその競争に拍車をかけています.彼らが目指すのはまだ誰も見つけていないブルーオーシャンですが,なかなかそんなものはもう存在しなくなっているわけです.

同時に,それぞれの専門課程をより高度に深めていく取り組みが進んでいます.教育課程を通して与えられる効果を他と比べて優位性のあるものにする競争です.同じ「コンピュータ」を学ぶなら,Aという学校とBという学校のどちらが優れているか,というタイプの競争ですね.でも,ある程度しっかりした教育課程と先生がガイドすれば,実際の教育の質の差は,学習者本人の動機や能動性の差と比べれば僅かなものだと言っていいと思います.本人次第ということが分かっていてもなお,客観性で裏を取っておきたいというユーザー心理がこの競争を助長します.

さて,反対に社会の側は,学校にどういう人材を求めているんでしょう.この手のデータは調べるとたくさん出てくるわけですが,簡単に言えば「自主性,自分で考える力,チームワーク」などといった答えが返ってきます.もうひとつ,イノベーションを起こせる人,というリクエストが散見されます.これは,企業活動において新しい成長の種を見付けられる人,という言い換えが可能です.新規事業で会社をさらに発展させたい,というわけです.

そして,いまはオープンイノベーションの時代です.多分野で物事を考え,進めていくことが企業でも学術研究でも「スタンダード」になりつつあります.これを英語では「マルチディシプリナリー multidisciplinary 」と呼びまず.簡単に言えば多様性です.多学術性,多学際性だともっと正確でしょうか.社会を変える新しく面白い取り組みは,いま,こういう多分野での協働から生まれてきています.

そして,これ自体が,実にデモクラティックなアイデアに基づいています.以前は,パワーの強い人が弱い人を虐げて物事を決めてきましたが,デジタルでエンパワーメントされた個人が主役の世界では,そのような物事の進め方は多くの人に受け入れられません.参加するひとりひとりが主体となり得る方法でプロジェクトが動いていきます.こうした動きを顕著に見るには,コロナウィルスの短期間でのワクチン開発や,市民参加型の都市イベントなどに見られます.DAOなどが話題になっているのも中央集権型の組織から自律分散型の組織にシフトしていっていることを物語っています.その背景はテクノロジーです.セキュリティの高い技術が個人を(いい意味で)顔が見える・意見が言えるものにしていることが,世の中全体のうねりを創り出しています.そのうねりの中に,実は,私たちの身近な世界である学校教育も否応なく取り込まれているのです.学習者主体の教育とは,と昨今いわれるのはそのためです.参加する側が主体性と権限を持つ仕組みです.コロナで予期せずスピードアップしたデジタル化がこの変化を加速させたことは記憶に新しいですね.これが進むと,学生をコントロールしてきたこれまで100年以上にわたる主従関係の大転換です,大げさに言えば.その時に,学校が提供できるものは何だろう?これが,このプロジェクトの根本的な背景です.

ここでやっと,このせとうち未来共創プロジェクトが何を仕掛けようとしているかの前提の話が出そろいました.それぞれの専門分野は通常の学校課程の中でを究めながらも,それ以外の分野で起きていることへの好奇心を高め,そこに飛び込み,協働し,多様性の中で学ぶ機会を得ること.それを自分や社会の未来に向けて活用して行くビジョンを描ける場所を提供すること.つまり「実社会の課題に学校の枠組みを超えて協働して取り組む学びのコミュニティ」をつくること,だったわけです.

わたしたちプロジェクトチームは2021年から数か月に一度のミーティングを重ね,2023年5月に海外の先進的な取り組みを進めている学校を視察し,そこでの人脈を活用し構想を具体化し始め,その年の10月に外部ディレクターやサポーターと呼んでいるこの取り組みへの賛同者を迎えてローンチしました.

とにかく学外の方々が関心を持ってくださったのはある程度手ごたえはあったとはいえ,思った以上でした.これまでの人脈含めてや直感的な閃きでこちらが一方的にサポーターになって一緒に育ててくださいとお願いして回ると,多くの人々が賛同してくださいました.おそらく,これが単なるビジネスライクな取り組みではなく学生を中心とした学びの場であり,大人にとっても探求の場になるからだと思います.

2023年10月後半からは,地元である高松商工会議所さまの紹介で,高松タクシー協会さまが抱える課題を考えていくプロジェクトが始まりました.半年間の活動で,webサイトの情報整理や広報展開などを軸にした提案をまとめ,現在も漸次的に引き続きプロジェクトが進んでいます.

2024年度は,わたくしたちの所属している学校法人グループの各校がこれまでに取り組んできた産学連携のプロジェクトを,せとうち未来共創CoLABとして出来る限り協働・共創を意識して多分野連携,学内外の人材連携で進めていけるように方向性をより柔軟かつ多様な参加が出来るものにシフトしました.

アニュアルレポートに掲載した活動記録を転記してこの記事を締めくくりたいと思います.

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2021年
未来穴吹プロジェクトメンバーが活動を開始

2022年
第2期未来穴吹プロジェクトメンバーが活動を継続

2023年5月
メンバーでのロサンゼルス教育機関等視察
当時Microsoft ディレクター(現在は米国ヤマト運輸CIO)の大西正之氏を訪問,意見交換

帰国後,学科横断型のIT等未来教養とリーダー育成の講座の開校準備
未来穴吹メンバーと大西氏とでフレームワークを進める

2023年10月
穴吹学園の運営検討会議で計画発表
大西正之氏を講座のプロジェクトディレクターに迎える
講座名を「瀬戸内未来共創プロジェクト」としてプレローンチ

広報の開始,参加者募集,WEBサイト立ち上げ
外部のサポートメンバーへの呼びかけと参加依頼

17日
大西正之さんを穴吹コンピュータカレッジに迎えて特別授業①

Googleクラスルームを活用して講座内のコミュニティがスタート
高松商工会議所さま,丸亀町商店街組合さま等にプロジェクトの説明
高松商工会議所さまによる仲介で高松タクシー協会さまとの連携が始まる

2023年11月
15日に地域課題セッションとして高松タクシー協会さまとの意見交換
こちらは随時進行していくプロジェクトとしてオンラインで継続

講座メンバーが10名に.法人3地区から参加,外部2名

2023年12月
1日にデザイナー新村則人さんによる公開講座実施②
(瀬戸内デザイングランプリとの協働)

4日にビジネスフレームワークのオンライン授業実施

2024年1月
19日 カレッジ卒業生で建築家・起業家である谷尻誠さんの公開講座③
オンラインでディレクターとコアメンバーでの進捗会議

2024年2月
13日 観光大使/インバウンドアンバサダー JJ Walsh さんの公開講座④

22日 高松タクシー協会に所属するハロータクシーさまを現場見学
振り返りと次年度の展望について継続してディレクターと協議

2024年3月
産学連携センター(現産学・地域連携センター)との連携方針が固まる

2024年4月
2日 受講者による高松タクシー協会さまへの提案発表会兼最終報告会⑤

高松タクシー協会さまは今後もプロジェクト継続を要望
産学・地域連携センターの会議で瀬戸内未来共創を含めた再定義がなされる

(今回の記事は以上です.今後とも  せとうち未来共創CoLAB をよろしくお願いします)





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