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小説、『縄紋』を読んで

6月2日に幻冬舎から真梨幸子さんの小説『縄紋』が発売される。縄文ZINEという雑誌を作っている縁もあり、担当の編集者を通していち早くこの小説を読ませてもらった。


ミステリー小説好きな人ならこう思うだろう。あの『殺人鬼フジコ』の真梨幸子さんが縄文? イヤミス(嫌な気分になるミステリー)の女王がなぜ縄文なのか…、と。
一方で、縄文好きな人ならこう思うはずだ、なぜ縄文じゃなくて『縄紋』?と。
もともと縄文時代という言葉はエドワード・S・モースが大森貝塚で発掘した土器に縄目紋様がつけられていたことから「cord marked pottery」と名付けられ、それが日本語に翻訳され「縄紋」となり、いつしか「縄文」と変わっていく。だから、「縄紋」は原理原則に照らしあわせればより正しい言葉の使い方となる。かつてはかたくなに「縄文時代」ではなく「縄紋時代」との言葉を使い続けていた研究者もいたほどだ。
だから縄文好きがこのタイトルを聞くと、案外渋い言い回しだな、と思う。

すでに罠が仕掛けられているとも知らずに…。

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あとは読んでのお楽しみだ。一筋縄ではいかない、必ず裏切られる。歴史小説が苦手な人も安心して欲しい、舞台は「ほとんど」現代の東京だ。


真梨幸子さんの小説はほとんどの登場人物が不幸になる。殺されたり殺されるよりもひどいな目にあう。こういう人いるよなぁ、嫌いだなぁという人も不幸になるし、この人なんかヤダなぁという人もひどい目にあう。良い人は? と聞かれれば、そもそも好感を持てる人物はあまり登場しない。じゃあなんで読んでるのと言われると返す言葉がないほど確たる理由はない。ただただ読んでしまうのだ。人の嫌な部分や人が不幸になる様子を嫌だ嫌だと言いながら読む。これこそが悪性のエンターテイメントなのだ。『縄紋』以外の作品もおすすめです。

理由はそれだけではない。

僕の作っている縄文ZINEという雑誌の最初からのコンセプトは「縄文時代と現代カルチャーのマリアージュ」だ。縄文時代は一見現代カルチャーの対極にあるわけなので、対比させれば自ずとお互いが際立って、不思議な味わいとなる。もちろんうまくいったりいかなかったりするけれど、合わせることが重要なので結果にはそれほどこだわっていない。
だからこそミステリーというジャンルで縄文をテーマにした作品が「ある」ということがとてもうれしいことだと思っている。

そんな僕個人の考えは置いておいても小説『縄紋』は面白い。ミステリー好きな人にも縄文好きな人にもぜひおすすめしたい。

6月12日には『縄文人に相談だ』の文庫版も発売される。合わせて読んでもらえたら嬉しい。縄文ZINEの合本も好評発売中だ、こちらもどうぞよろしく。


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