Google Earthに未だ存在していても、もう行くことはできない場所
海外旅行が好きだ。
異国の匂い、思わぬところで感じる文化の違い、その土地で生まれる味、気を狂わせる通貨、読めない文字、現地人の感性。
何もかもにワクワクする。アドレナリンがぶわあっと身体中を巡り、その街では当たり前であろう景色でさえも脳に刻みたいと思う。
全てにワクワクする中で、私が海外旅行の際に最も楽しみにしているのは「その国にしかない建築物」だ。
今まで訪れた多くの国には、必ずと言って良いほど美しい建築物があった。
フランスのオペラ座、サントシャペル、モンサンミッシェル。
UAEのシェイクザイードモスク。
イタリアのサンタマリアデルフィオーレ大聖堂。
ウズベキスタンのグリアミール廟…
言い出したら明日になってしまうのでやめておくのだけど、
とにかく「日本には絶対に無い」「大昔に人間が作って今もここにある」という要素が私の心を掻き乱し、魅了していくのだ。
そんな私が、「コロナが終息したら絶対に行きたい」と決めていた場所がある。
それは、ウクライナの首都キーウにある「聖ソフィア大聖堂」だった。
ステイホーム真っ盛りだった2020年5月ごろ。
外に出ることでしか時間の潰し方を知らなかった私は、部屋の中で何をしたら良いのか分からず手探り状態だった。
そんな中で見つけた一つの趣味が、「様々な国の首都を覚えること」。
ランダムで国名とその土地の写真が出てきて、首都名を答えるだけの単純なゲームアプリをひたすらやっていた。
そのゲームの中で、どうしても覚えられなかった場所の1つのが「ウクライナ→キエフ」だった。
頭に詰め込むだけでは限界があるので、何クソと思い「キエフ」でググってみた。
ウクライナはわかる、それは分かる、ただ首都キエフは知らんし。聞いたことないし。有名じゃないんだからきっと何も無いところなんでしょ…
と失礼な独り言をブツブツと呟きながら、覚えられない自分が悪いだけなのに、因縁の首都名を入力する。
その結果に、私は膝から崩れ落ちた。
何これ????超ステキな写真がわんさか出てくるんですけど?!!??!
西ヨーロッパにもアラブ諸国にも中央アジアにも出向いたことのある私にとって、ウクライナに存在する建築物はとても不思議だった。
キリスト教の教会っぽくもあり、モスクの要素もあり、ロシアっぽい雰囲気もあるけどアジアンな雰囲気も漂う。だけどその全てと違う。
全ての中間のような……全ての要素を兼ね備えてると言った方が正しいのか。
調べてみると、聖ソフィア大聖堂は世界文化遺産にきっちりと登録されているとのこと。なんなら教科書にも載っているとのこと。
私が無知なだけじゃ〜ん!
何も無さそうとか言って本当にごめんなさい。
ウクライナを始め、東欧諸国のキリスト教は「正教」のため、西ヨーロッパのローマ・カトリック教徒とは異なる文化を引き継いでいるらしい。
どうりで…。宗教画の雰囲気も、私がフランスやイタリアで見たそれらとは全然雰囲気が違っていて色使いも絵のタッチも私が見たことのない物だった。
その後、私の覚えられない首都名を次々にググってみると、
ほとんどが東ヨーロッパ。リトアニア、ブルガリア、ボスニアヘルツェゴビナ…
どこも悔しいくらいに胸を躍らせる建築物がドサドサと出てくる。
私はただ、東ヨーロッパ、主にロシアを囲む諸国に疎かっただけだった。
どんな知り合いもフランスやイタリアやスペインの西ヨーロッパ諸国には行ったことがあると言うけれど、東ヨーロッパへの知識も無ければ行ったことがある人もいない。
こんな素敵な場所があるのに、どうして誰も教えてくれなかったの?!!?
ウクライナに行こう。
未だこの目で見たことのない、世界遺産の東ヨーロッパ建築を見に。
コロナが終息したら、1番に行くんだ。
そう決めてから、あっという間に2年が経った。
私が一番に行くと決めたウクライナは、入国できない状態になってしまった。
忌まわしきコロナは終息どころか続々と広まり、共存しているような世界になったというのに、
少しずつ海外のゲストを入れようとしてくれる国も増えてきて、もうそろそろ海外旅行に行けそうな世の中だというのに、
コロナであろうと無かろうと、ウクライナには足を踏み入れることは出来なくなってしまった。
聖ソフィア大聖堂も、この先残るか分からない。破壊されてしまうかもしれない。
私が憧れたウクライナに存在する建築物の数々が、もう見れないかもしれない。
ウクライナの歴史を感じながら、今ある美しい街並みを見たかった。東ヨーロッパ独特の建築物をたくさん見たかった。
コロナが明けた世界での一番の夢で、一番の楽しみだったウクライナへの旅は、今の私には到底叶えられるものでは無くなってしまった。
そして、今後叶えられるものなのかも分からない。
ただただそれが悲しくて、行きたい場所には早く行くべきだったのだと後悔する。
Google Earthを開けば、まだそこに存在する聖ソフィア大聖堂。
スマホひとつで、世界の美しい建築物は中も外も見ることが簡単にできる。
だけど私にとっては、その場所に出向いて、五感全てで感じないと意味がないのだ。
聖ソフィア大聖堂の存在を、いつかこの目で見れる事を今日も夢見て、
ただこの状況が少しでも良い方向に動く事を祈ることしか出来ない。
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