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イタリアから帰れなくてアラブに行った話(中編)

前編はこちら。

10分かけて飛行機から引っ張り出されたスーツケースを持ってさっき出国審査をしたばかりなのに入国審査をした。

スーツケースを開けてみたらお土産に買った白ワインが割れて私のムートンコートをびしょびしょにしていた。
とにかくワイン臭くなった私のムートンコート…10分で探し出されたスーツケースはそうとう粗末な扱いを受けたらしい。
私たちが乗った方が早かったしワインも割れなかったのに(まだ言う)。

結構なショックだったがそんなことよりとにかく飛行機を取らなければいけなかった。
フィウミチーノのカウンターで取れるチケットはとても割高だし成田行きは1日1便しか無く、次の日も満席とのことだった。

とにかくのんびりな空港のダメWi-Fiを使って安くて早く帰れる飛行機をNが探してくれていた。

日本まで6万円ちょっとの便を見つけたNが「16時間のトランジットでアブダビ乗り継ぎだって…アブダビってどこだ??調べてみるわ……

アラブだって!!!!!」

行ったことの無い国、セレブの国、人生で行くとは思ってもいなかった国。乗り継ぎだとしても、行けるだけでテンションがぶち上がった。でも待って。

「シリアが死ぬほど近い…」

テンション急降下だった。
半年前に予約を取って時間を使って調べてやっとイタリアに来たのにアラブに行くには心の準備が出来なすぎた。しかも時期が時期。シリアが毎日ニュースに出てくる時期だった。
トランジットは16時間、朝6時に到着してその日の22時発だった。
いくら空港内だとしても、飛行機を逃したばかりの悪運漂う2人が無事16時間過ごせるか。

そうは言ってももうイタリアに残る選択肢はない。「金銭的に考えてもこれに乗るしか無いし、アラブは安全だよ(憶測)」
決断力だけは一丁前なので、私とNはアラブに行く覚悟を決めてチケットを取るためにクレジット番号を入力した。

ただ、決断力がどうのの前に私のカードもNのカードも使えなかった。
これは後からカード会社に連絡して気づいた事だったんだけど、単純に2人して上限越えだった(これもイタリア国内で特急電車や飛行機を間違えまくったから)

カードが使えないとなるとお金が支払えない。飛行機に乗れない。「親に連絡しよう…」
Wi-FiがダメすぎてLINEも送れなかったので、公衆電話に向かった。海外から電話をかける事も初めてだったし、コインもほとんどない。

Nが受話器から聞こえる英語のアナウンスを聴きながら私の実家に電話をかけると、ママの「もしもし?」の声が聞こえた。1週間ぶりのママの声。希望が見えた。
「ママ?!honoだよ!聞こえる?!」

「………………ガチャン、ツー…ツー…」

切れたんだけど?!!

絶対にママの声だったのに、なぜ??
もう一度かけようとしたけれど、またダメだったら……。コインが無駄になってしまう。

なんでなんで言っていると、聴き慣れた日本語が聞こえた。振り向くと日本人の家族がいた。

自分たちの親より少し歳下くらいであろう夫婦と小学校低学年くらいの男の子が2人。真っ先に声をかけてあったことを全て話すと、とても親切だった。

その家族の旦那さんはその公衆電話に向かってNのお父さんの番号に電話をかけてくれていた。電話代もいいよいいよ、と自分のクレジットを切ってくれていた。

その間当事者の私たちはできることが何もなく情けなくて、奥さんにお礼と謝罪を伝えた。
旦那さんを指差して、「あの人英語ぺらぺらだからいいのよ、頼ってね」と言った。
私もNも結婚するならああいう人にしよう、と一瞬で思った。

旦那さんは受話器を置くと

「この電話壊れてる。」

と言った。あちらの声は聞こえるけど、こちら側の声は届かないらしかった。

いい加減にしてイタリア(泣)

壊れてるなら修理するとかあるじゃん。貼り紙貼るとかあるじゃん…?
使えないのにコインだけは吸い込まれていったのね…。

もはや呆れていたし、状況が状況過ぎて長々と突っ込んではいられなかった。

違う公衆電話でかけるとあっという間にNのお父さんにつながった。
日本時間で言えばそろそろ寝る時間だったからお父さんの機嫌が悪かったことと、飛行機に乗り遅れたことでNの就活の面接に間に合わないということで一悶着あったけれど無事にクレジット番号を聞けて、
画面には「チケットの購入完了」の画面が表示された。

とにかく安心した。
フライトまで残り4時間ほど。

私たちは日本人家族に一生分のお礼を言って、エディハド航空のチェックインカウンターまで向かった。

ところが、チェックインは出来なかった。

「予約できていない。席が取れていない。」と突き返されてしまった。
確認メールを見せるけど、「でも予約できてない」の一点張りだった。
チェックインカウンターの方には反映されていなかった。

早くチェックインしなくてはまたフライト代だけ取られてイタリアに置き去りだ。
私たちは焦った。

後編に続く

#日記 #コラム #エッセイ #旅行 #イタリア #アラブ

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