私の手汗まで愛してよ
中学生の頃、私はとにかく自分に自信が無かった。
少しでも変な行動や目立つ行動をすれば大変な目に遭うだろう。
多感な年頃の男女が交わる空間での毎日の気疲れは半端じゃなかったように思う。よく乗り越えたな、と。
中学生の頃の私の悩みの一つに、「手汗が半端ない」というのがあった。
友達の肌に手が掠りそうになればハラハラしたし、
冬には寒さと乾燥にに屈せず手がじっとりしていて、手袋なんて不快でしか無い。
吹奏楽部でフルートを吹いていた私にとって手汗はかなりの強敵で、
スピーディーな指づかいを邪魔されたことは数知れず、指を滑らせるのは日常茶飯事だった。
楽器の側面に私の手汗がほんのり滲んでいるのがすごく恥ずかしかった。
当時の私にはちゃんと片思いの相手もいて、彼との行末の妄想にまで手汗という難題が邪魔をしてきた。
彼と両思いになりたい気持ちがあるのに、彼と手を繋ぐことが怖すぎた。
手を繋いだら絶対に手汗に引かれて、嫌われるオチがしっかりと浮かんだ。
この手のままじゃ誰とも付き合えないと思ったら、すごく自分の手が恨めしく思った。
幸い同じ悩みを持った友人がいて、どうしたら良いんだろうと相談したら
「手の汗腺を手術で減らすことは出来るみたい。でもそこで出ない汗が別のところから出るらしいよ、脇とか背中とか。」と言われ絶望した。
じゃあ手汗のがマシかもと思った。
何にせよ、自分の身体から出る汗という生理現象のせいで無い自信が更に無くなり、片思い相手へのアプローチのブレーキまでかけている。
最低な悩みだった。
専門学校を卒業して、いわゆる“大人”になった私は中学の頃から一変して、そこそこ自信を持っている人になっていた。
その頃には手汗は「人よりちょっと多め」な程度になっており、すでに付き合った相手と手を繋いだ経験も済ませてしまったせいで手汗の悩みはすっかり忘れていた。
新卒で入った会社でアパレルショップの店員として働いていた時期に至っては、手汗は役に立った。
スタッフの中で1番に手が潤っていた私は、新品のビニールショッパーをスピーディに開けることに長けていて、とてもありがたがられた。
「いや〜手汗バンザイですね!」とか言って、むしろラッキーくらいに感じていたし、
もはや27歳の今となっては手汗が恋しい。
何故なら手汗を全然かかない。
スーパーでレジ袋をスムーズに開けられない。どこに行ったの私の手汗は???
あんなにコンプレックスに感じて自信を削り取られていたのに、今の彼に対しては
私の手汗まで愛してよ!??
とまで思っている。怖過ぎる。
何が言いたいかって、今のどうしようもない悩みは意外と数年後には無くなっているものかもしれないってこと。
良い方向にも悪い方向にも“性格”“環境”“体質”は変わりゆくもので、悩みはコロコロと変わっていく。
私はどうしても何か悩みがあれば解決したくて、ジタバタしてしまう。
ググってみようとか、こうしたら良くなるかもとか、病院に行けばとか、それはもう大暴れする。
けれどどうしようもないことなんてたくさんあって、自分の些細な行動じゃ微動だにしない事実もたくさんある。悲しいほどに。
見方を変えようとか、お金をかけて解決するとか、方法があるものなら良いけど
どうしようもないことで悩んでいる時の辛さというのは、一瞬逃げても気づけば覆い被されていたりして、心をどんどんすり減らしていく。
でも大丈夫。時が解決してくれることはある。
そういうことがたくさんある。
それを知ってるだけで、「一旦違うことするか…」って気持ちを切り替えるきっかけにもなる。
あの時の私は手汗が嫌で、何度も何度も手を洗った。
手を洗ってリセットして忘れて、でもまた手汗が滲んで悲しい気持ちになった。
そんな自分のことも気づけば忘れるくらいに忙しくなる。違う悩みでいっぱいになって、またジタバタする。その頃には手汗の悩みなんて無くなってる。
その繰り返し。ただ手汗で悩む人の気持ちに寄り添える私になっただけ。
「根拠が無くても、とにかく大丈夫だよ」って、いま悩める自分にも誰かにも伝えたい。
少しずつ自信を積み重ねて強くなれば、「私の悩みまで愛して包み込んでよ!?」って思えるくらいにきっと逞しくなれる。
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