鯨より大きくなった猫
「猫って大きいの?小さいの?」
小さな女の子が、そんな問いかけをお母さんに尋ねているのを猫はいつものようにお昼寝をしながら聞いていました。
「猫?」う〜んとお母さんは少し考えて、人間からすると小さいんじゃないかしらねと言いました。子供の女の子よりもお母さんの方が大きいです。だから大人であるお母さんから見たら猫は小さな生き物に違いありません。もちろん女の子から見ても小さな生き物であることには変わりませんでした。
猫は、小さい頃からの飼い猫だったので、他の動物を知りません。他の猫にも会った事がないので、自分が大きいのか小さいのかはわかりませんでした。
ある日、猫はお母さんに連れられて、健康診断にために動物病院に来ていました。しばらく待合室で待っていると、前に診察してもらっていた猫が飼い主に抱かれて部屋から出てきました。
猫はその時、はじめて自分以外の猫を見ました。
まだちいさな白い子猫です。
猫はその子猫を見て、あの猫よりは、自分の方が大きいな、と思いました。
動物病院の帰りの車の中で、カラスを見かけました。その時も、あのカラスよりは自分の方が大きいと思いました。
ある日、女の子が猫の隣で絵本を読んでいた時のこと。その絵本には虎やキリン、ゾウなどの動物が描かれているのを見ました。
その絵本の中には猫も描かれていましたが、他の動物に比べるとやけに小さいのです。虎やキリンやゾウなどと比べると足もとサイズです。
それを見た猫は自分が小さいということを、とても強く感じるようになりました。
それから毎晩、猫は大きくなれますようにと心を込めて星に願ってから眠るようにしたのです。すると、猫の大きさは日に日に大きくなっていったのです。
標準サイズを超えて大きく成長する猫に、家族は困惑しました。
いつの間にか、虎の大きさを超えるようなサイズになっていたからです。どうしたらいいのかわからなくなった家族はおびえているように見え、
猫は家を出ました。
そして、荒野へと旅に出ることにしたのです。最初にまず虎に会いに行きました。ですが、実際に会ってみると猫には虎がなんだか小さな生き物に感じました。猫は気分を良くして、もっともっと大きくなりたいと毎日心から星にお祈りをしました。お祈りをするたびに、猫はどんどん大きくなっていきます。それならいっそ、今度はキリンやゾウにも会いにいってみよう。猫は自分の大きさが、他のどの動物よりも勝っていると感じたかったのです。そうすると、気分が良くなるからでした。キリンやゾウにも直接会いにいきました。すると、やっぱり一番大きいのは猫の方でした。
大きいと思っていた動物たちよりも大きくなっていたのです。いつの間にか最初に追い越したいと思った動物は全て抜いてしまいました。そこで考えます。地球で一番大きな動物はなんなのだろう?猫は物知りなフクロウに聞いてみました。「この世で一番大きな動物は何だい?」フクロウは「それは、シロナガスクジラだね。海に住んでいるんだよ。体調は33メートルもあるんだ」と教えてくれました。猫は、それがどのくらい大きいのかわかりませんでしたが、そのクジラよりも大きくなれると思ったのです。
そして地球上で一番大きいクジラに会いにいった猫は、とうとうクジラより大きくなりました。念願の大きさになれて大満足です。ですが、念願のどんな動物よりも大きな猫になったという喜びはつかの間に消え去っていきました。地球上で一番大きくなってしまったのでもう目指すものはありません。また大きな猫をきみ悪がってか、恐れてなのか、誰も猫に近づこうとはしませんでした。
猫は孤独の中でひとりさまよいました。次第にどこかにいく気もしなくなっていきました。どこにいったらいいのかもわからないのです。そして当てもなく迷っていると、ちいさな生き物を発見しました。それは、かつての猫と同じくらいの大きさの白猫でした。白猫はとてものんきな寝顔で気持ちよさそうにお昼寝をしています。その満ち足りた顔をみていた猫は、悟りました。自分は一番大事なことを見逃していたのです。そして、最後のお願いを星に祈りました。(お星様、どうか私を元の大きさに戻してください)
翌朝、目が覚めた猫ががっかりしたのはいうまでもありません。いつも願いを叶えてくれていた星は、最後の願いだけは叶えてくれませんでした。
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