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ギリシャ・ミコノス島の鮮烈レシピ

2022年6月、ギリシャのミコノス島で驚きの料理に出会いました。

子羊のモツの炭火炙り焼きです。

心臓、肝、胃、腎臓、横隔膜ほかの内臓をさばき腸に詰めて巻き固め、炭火でじっくりと回し焼いた一品。

腸を入れ物に使う食べ物の代表格としては、ミンチ肉を詰めて熟成させるサラミがありますが、完成するとサラミの皮になる腸は普通は食べません。

ところが子羊モツの炙り焼きは、サラミとは違って中身を詰めて巻きつけた腸自体も美味しく食べることができます。

肉とは違う食感と香り、そしてなによりも各部がこんがりと焼けた腸にからまって、絶妙な味わいを演出していました。

筆者はレバ(肝)の味が苦手です。日本で食べるレバニラ炒めも、レバ抜きで、と頼むほどです。

だが子羊モツの炙り焼きに含まれているレバは、えぐみが他の具材で抑えられていてほとんど気になりませんでした。

地中海域の旅では筆者はヤギ・羊肉料理を食べ歩いています。

その旅では言うまでもなく魚介料理をはじめ牛、豚、鶏などの当たり前の肉料理も楽しみます。

その合間に日本ではあまりなじみのない、だが世界ではよく食べられているヤギ・羊肉レシピを敢えて探し求めるのです。

ヤギ&羊肉は地中海域ではごく普通の食材です。珍味とは呼べません。それでも旅人の筆者らにとっては少し珍しい。

珍しさに魅かれて食べるうちに、その美味さにのめり込みました。今ではイタリア国内を含む旅先のレストランでは、メニューを手にするとすぐにヤギ・羊肉料理の項を探します。

10年以上も前に始まったその習慣は、筆者に付き合ってくれる妻が次第に「ヤギ・羊肉料理好き」になったことでますます深まりました。妻はかつてはヤギ・羊肉料理が嫌いな人だったのです。

筆者がこだわるヤギ・羊肉料理は、もともとは成獣の肉ではなく、子ヤギと子羊肉のレシピのことでした。

ヤギや羊の肉には独特の臭いがあります。それは成獣になるほど強くなります。

そのために両者の肉は幼獣のものが好まれ成獣のそれは避けられます。北部イタリアなどでは成獣の肉はほとんど市場に出回りません。

しかし南イタリアを含む南部の地中海沿岸では、成獣のヤギ・羊肉も食されます。その場合は独特の強烈な臭いが消されて風味へと昇華し、深みのある肉の味だけが生かされているケースがほとんどです。

筆者はこれまでにイタリアのサルデーニャ島、スペインのカナリア諸島、トルコのイスタンブールなどで絶品のヤギ・羊の成獣肉料理に出会いました。

子ヤギと子羊の場合は、地中海域のあらゆる国で優れたレシピがあります。

2022年現在、食べた子ヤギ・子羊レシピのベスト3は、敢えて言えば:

1.ギリシャのロードス島の山中の食堂の一品

2.クロアチア国境に近いボスニア・ヘルツェゴビナのレストランの丸焼き肉

3.イタリア、ギリシャの島々、またその他の地域の多くのレストランのレシピ

という具合いです。

要するに子ヤギ・子羊肉はどこでもよく食べられ、その結果レシピが発達してバラエティに富み、味も多彩になったということです。

長くトルコの支配下にあったギリシャの島々のヤギ&羊肉膳は特に奥が深い。

イスラム教徒のトルコ人は豚を食べません。代わりに羊やヤギを多く食べます。トルコ人の食習慣はギリシャの島々にも定着しました。

それは以前から根付いていたギリシャ独自のヤギ&羊肉文化と融合して、より奥深い味を生み出していきました。

ギリシャのヤギ&羊肉料理は、欧州ではいわば本場のレシピ。従って当たりはずれはほとんどありません。ほぼすべての店の膳が美味しい、と感じます。

その中でもミコノス島で今回食べた子羊モツの炙り焼きは、素材のユニークさもさることながら、モツの各部位が絶妙のバランスで融合して感動的なまでの味の良さでした。

ヤギ・羊肉料理は、既述のようにギリシャの島々からイタリアのサルデーニャ島、トルコや北アフリカなどで多くの素晴らしいレシピが存在します。しかし筆者はモツ料理には出会ったことがありませんでした。

2018年、サルデーニャ島のレストランでモツ焼き及びモツのパスタソースを味わいました。めざましいレシピでしたが、それは豚と子牛の内臓でヤギや羊のそれではなかったのです。

子羊の腸に内臓各部を詰めてからめて炙り焼き、深い滋味を作り出すミコノス島の店の手法は見事でした。

そこにはシェフの創造性と多くの努力と試行錯誤の歴史がぎゅうぎゅうに詰まっています。

意外性のある美味いレシピに出会う喜びの真諦は、味もさることながら、料理人の独創性に触れる感動なのです。

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