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反撃能力を宣言する日本が、反撃を明言せずに支持を得るウクライナから学ぶべきこと


 
先月、自衛隊に反撃能力(敵基地攻撃能力)を認め、防衛費を増額する防衛方針が公表された 。これだけ攻められても決してロシア国民への反撃を明言することなく、防衛に集中して国際社会の支持を得るウクライナを見ると、日本が隣国の国土への反撃能力の保有を宣言することは合理的なのか。

1 ウクライナはミサイルではなくサイバー防衛やインフラ防衛で自国を守ってきた

ロシアのウクライナに対する最初の攻撃は、ミサイルでも戦車でもなく、2022年1月のサイバー攻撃であったことを忘れてはならない
 ウクライナは、ロシアの攻撃に対応するために、前もって、サイバー防衛に力を入れ、情報戦に備え、国土にシェルターを作るなどインフラを含めた国土の防衛に備えてきた。

 一方の日本では、近年、国外からのサイバー攻撃で度々経済活動が止まっており、北朝鮮のミサイルアラートが鳴り響いても、国民には指示されたとおりに身を守るシェルターも、周辺の海が戦場になり輸入を絶たれた後の国内での食糧自給率の確保もない。
 相手国を攻撃するミサイルに多額の税金を注ぎ込むよりも前に備えるべきことがある。

2 ウクライナがこれだけ攻撃されてもロシア国内に「反撃」しない理由


 「反撃能力」は、ウクライナに置き換えると、ロシア国内を攻撃する能力である。ところが、ウクライナは、これだけ攻め込まれたのに、ロシア国内を公式には「反撃」していない。
 先月、ロシア国内でウクライナによるドローン攻撃が生じたと報道されたときも、ゼレンスキー大統領は、ウクライナの攻撃だとは認めようとしなかった(その前の橋の崩落も喜んではいるが、自国の攻撃だと認めていない)。
これは、ゼレンスキー大統領が、「ウクライナがロシアを反撃した」と認めれば、戦闘がエスカレーションすること、そして、ウクライナが国際社会の支援を失うことを、よく理解しているためだ
 この事実からしても、日本が、現実的に攻撃されたときに「反撃」することは難しいことがわかる。ウクライナのように攻撃を受けてすら、「反撃」しようものなら、国際社会の支持を失い、攻撃の事実を攻撃国にいいように使われるだろう。

3 実際に起こったミサイル発射の誤判断

 11月ポーランドにミサイルが着弾し市民二人が亡くなった。当初、ロシアからのミサイルと報道されポーランドとNATOの参戦が取り沙汰された。だがその数日後に、ウクライナから飛んできたミサイルだったと報道された。
 他国から飛んできたミサイルにより市民2名が亡くなっているのだから、ポーランドには十分に自衛の理由がある。だが、すぐにミサイルで反撃していたら…
 日本はこれまでミサイルで攻撃を受けてもミサイル発射国の国内には攻撃できなかった。だが、反撃能力が許容されてしまうと、ミサイル発射に関する情報操作や判断ミスで戦争が引き起こされてしまうことも起こりえる。

4 反撃宣言は、日本攻撃の正当化に利用される


 ロシアは、ロシア施設の攻撃の後、ウクライナ市民に対する攻撃を強めている。プーチン大統領は、非難の強い、市民の生死を左右する冬季の発電所への攻撃を、自国への攻撃の「報復」と主張することで正当化しようとしている。自衛のための攻撃であっても、「反撃」は、さらなる攻撃の正当化に利用されることを見逃してはならない。
 
 さらに、今回、日本が宣言しようとしている他国への「反撃能力」は、これまで使われていた「敵基地攻撃能力」よりも広い。隣国の国民に対して、

「基地に限らずあなたがたを攻撃するための武器を設置しています」

と言っているに近い。このように宣言すれば、隣国は、日本は我々を攻撃する武器を備える国に変わったから防衛が必要と自国民に信じさせることができる。そうなれば、隣国国民は、日本の攻撃に備えた防衛力強化に賛成するだろう。

 隣国が武器を買えば、さらに日本が買い、日本が買えば、さらに隣国が買い… 抑止力を目的に武器を買う場合、その購入に上限はない。日本国民は、増税で第三国に武器代を支払い続けつつ、本来食料自給や子ども、国土保全に振り向けるべき予算を切り詰めることになる(そしてそこまでして買ったミサイルがどこまで国民生活を守ってくれるかわからない)。

 もちろん、日本にとって防衛は必要で、防衛費として他国に多額の税金を払っているのは今も同じである。

 しかし、他の国土を攻撃する武器は持たないという宣言から、攻撃できるという宣言に変更することは、ウクライナですら行っていない攻撃の事前宣言であり、別の危険を伴う。
 相手国の攻撃のための武器を保有しているとあらかじめ日本自身が宣言すれば、隣国は、「自衛」と称して自国内や国際社会の批判をかわしながら、日本国内の武器がある場所を攻撃しやすくなるためだ。
日本国民は、反撃能力を持たない今より危険にさらされないだろうか。

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