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コロナで足が遠のいた常連客をつなぎとめる方法

今年はコロナで山登りに行けない。そして山小屋にも。夏がくる度にあれほど熱狂して通っていた山の世界を忘れ始めた頃に、それは届いた。

ポストに投函されたふるさと納税の見慣れた封筒。去年の災害で登山道が崩れたときに寄付したんだったっけ。年末に必要な証明書だけ取り出そうと封筒を開けると、中から小さな物がころがりおちた。山を花で縁取ったデザインのバッジ。

いつもは読まずに捨てるお礼の手紙には、寄付へのお礼と、コロナで開催できなくなった開山祭で配布する予定だったバッジと書かれていた。手紙には寄付で修理された登山道の写真が印刷され、この状況で厳しくなる今年もぜひ支援をお願いしたいことと、今後送付予定のお礼の品が記載されていた。

バッジと写真を見ながら、私の記憶は山へ向かった。

あの山小屋はどうしているだろう、山道が修理されてよかった、またいつか行きたい。しばらくは行けないけれど、そのときまで前のままで残っていてほしい…そして来年送付予定の品も気になる。

こうして、この山の町の担当者は、山から足が遠のいているファンの心をつなぎとめることに成功したのである。きっと同じ頃、封筒から転がり出たバッジと懐かしい写真に胸を熱くして、あるいは来年のお礼の品に期待して、今年も寄付を行うことに決めた登山客が全国にいたはずだ。

この体験から考えた、コロナで足が遠のいているファンの心が呼び覚まされる瞬間とは。

たとえそれが小さいものでも、いつもたくさん届く手紙だけではない、日常生活に割り込んで入ってくるサプライジングな何か。

特に、それが、今年コロナでキャンセルになったイベント関連の物だったりすると、もらった側は特別な気持ちになる(開催者にとっては無駄になってしまったものでも、ファンにとってはレアなので)。

さらに思い出を呼び覚ます写真が添えられていたりすると、また行きたい、そのときまで、支援したいという気持ちが強くなる(特に今年はいつもその趣味のためにとっておく予算が浮いている)。

バッジを同封することで84円の郵送費は94円に増え、手間も増えたかもしれない。でもそれをきっかけに、日常生活の中で忘れていた想いを思い出したファンは数十倍の応援を返すようになる。この町の担当者の成功は、他の業界でも参考になりそうだ。