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タツノコからゴンゾ1979~2019

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1979年、19歳でタツノコプロダクションのアニメ技術研究所でキャリアをスタートし、フリー、マッドハウスでの6年間と20年のゴンゾ時代のエピソードの数々をイラストを添えて。
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記事一覧

『あとひとつ』

テレビ朝日『神様に選ばれた試合 田中将大日本最後の15球』を見て、2013年、あの”熱い東北の秋”の記憶がよみがえりました。 被災した東北に元気を届けようとする楽天イーグルス三年越しの想いと、常勝を義務づけられている王者読売ジャイアンツのぶつかり合いは、レギュラーシーズン二十四勝無敗の『無敵の大エース』マー君こと田中将大投手をついに打ち崩したジャイアンツが土俵際で踏ん張って最終戦を迎えました。その前日の試合、味方の逆転を信じて最後まで一人で投げ抜いた田中将大投手の球数は百六

『ドルアーガの塔』

「『ドルアーガの塔』というアニメを見たことある人は手を上げて下さい!」「???」「簡単に説明すると、勇者が塔を上る物語です」「(元気よく手を上げる若者)はい!」「おお、見たことある?」「アスナ役の戸松遥さんがすごく可愛いっす!」「え~、それはソードアート・オンラインですね」「・・・」そんな小話が作れるくらい人知れず咲く小さな花。アニメ『ドルアーガの塔』はそんな作品です。 けれどもストーリーテラーとして参加してくださった賀東招二さんの作った温かくて笑えて熱く燃えるストーリー。

『青い空と真っ白い雲』

『ブレイブストーリー』の公開が終わってしばらくしてDVDのオーサリング作業に立ち会うことになりました。映画『ブレイブストーリー』は空の青と雲の真っ白な色にとてもこだわった作品でしたので、オーサリングでは細心の注意を払って映画館で見た色彩を再現しようと努めました。フルデジタル化されたアニメ制作では、キャラや背景の色彩チェックはモニターを通して行います。事前に美術スタジオのモニターや色彩デザイナーさんの使用するモニター、スタジオの最終チェック用モニターの色味を色温度やRGB値を計

『手のひらの上で踊る』

「全ての責任は監督が取るものだ」同世代の監督から、とても大切なことを教えられました。信頼するスタッフの仕事に対して結果の善し悪しに関わらず全て監督である自分が責任をとる。それ以降はそういう思いで作品に向き合うことにしました。責任を取るためには自分の耳や目といった感覚を磨くことが大切です。色々なセクションの仕事が解らなければ、いざというときに納得して責任を取ることはできません。そう感じてシナリオや音響にも仕事を広げていきましたが、その後も数多くの失敗とアクシデントを経験すること

『信頼するということ』

監督という仕事は『スタッフを信じて任せる』という部分がとても多い仕事です。エンドテロップを見ればどれだけ大勢のスタッフの協力でフィルムが出来上がっているのかが解ると思います。 それはテレビシリーズも劇場作品でも変わりはありません。それだけ大勢の人が関わっていますから、スタッフ間のコミュニケーションと信頼関係がとても重要で、それがフィルムの質を左右することになります。ですから、数多の監督さんはどうか解りませんが、ボクはスタッフの人柄と技術を信じて仕事を任せるようにしています。

『肥田文さん』

LAST EXILEで初めてご一緒して以降、ほとんどの作品で編集をお願いしているのが肥田文さん。誰からも好かれるとても信頼できる方で、その素敵な外見とは裏腹に性格はとても男前で超イケメンな女性です。 アニメミライ『RYO』の編集が始まる直前、肥田さんに言われました。 「今回の編集は、テレビで行きますか? それとも映画ですか?「・・・」あまりのかっこ良さにしばらく見とれてしまいました「え、映画でお願いします」そう答えるのが精一杯。テレビと映画では視聴者の集中度合いが異なります

『ファーストカット』

今回は編集の話をします。 『ファーストカット』という言葉を聞いたことがありますか? ハリウッドでは編集の発言力がとても強くて、撮影の終わった全てのカットは最初に編集者が単独でラフ編集をします。そこにはキャストに対する遠慮やプロデューサーの政治、監督の思い込みすら入る余地はありません。目の前のフィルムに対して編集者のプライドだけが注がれます。それが『ファーストカット』です。 ボクが今まで関わってきた大勢の編集さんにも様々なタイプの方がいました。中堅の演出の希望など聞く耳を持

『台風とスケッチブック』

もう10年近く前の秋のこと、何年かに一度という大きな台風が関東地方を直撃したことがありました。 強い風と大雨がノルキア(あきる野市)の我が家を襲い、スレート葺きの屋根に大穴が空いて、そこから漏った雨水が屋根裏部屋と二階をびしょ濡れにしました。そのため屋根裏においてあった資料や本、昔書いたコンテのコピーなど、大切に保管していた沢山のモノが被害に遭いました。 台風が去ったある日のこと、後型付けをしていて一冊の古びたスケッチブックを見つけました。汚れてはいましたが幸い雨には濡れず

『私をカラオケに連れてって!』

虫籠のカガステルの少し前に手掛けた『映画フルメタルパニック』。    テレビシリーズ一期を三本の映画に再編集したものですが、その時に本当に久しぶりにアニメーターの堀内修さんとお仕事をする機会に恵まれました。 これは堀内さんと机を並べていた時のお話です。

『白と黒のエクスタシー』

 昔一世を風靡した角川映画の一本に『赤と黒のエクスタシー』という有名なコピーで知られた映画がありました。 広大な草原を、赤と黒の騎馬武者の大群がぶつかり合うスペクタクル。当時そんなCMが、それこそ一日中ブラウン管を賑わせていました。 時は過ぎて2003年。『ラスエグ』のDVDのジャケット絵の中でも、特にカッコ良くてぜひ見てもらいたいのが、純白の軍服に身を包んだヴィンセント・アルツァイと真っ黒なマントを翻すアレックス・ロウが背を向け合う一枚。 まさに『白と黒のエクスタシー』です

『脚本家 神山修一さんの話』

尊敬する脚本家に神山修一さんがいます。 『青の六号』の小説を書かれた縁でラスエグに参加してくれることになった神山さんは温厚な人柄からは想像できないくらい骨太な男を描くのが上手な方で、ラスエグでは郷田ほずみさん演じるヴィンセント・アルツァイを人間味がありながら軍人

『逆三角形な友人』

大ヒットしたアニメ『FREE』の主人公たちのように「オレは逆三角形のかっこいい水泳マンだった」と 過去形で照れながら話してくれた友人の話をします。 名前はうえだひとし。 ラス

『ゆかなさんとタイトルコール』

 この方には本当に頭が上がりません。 前田真宏監督の『青の六号』のヒロイン紀之真弓役としてお目に掛かったのが最初でした。 『青の六号』のダビングの時のこと、浜町にあるスタジオでゆかなさんは朝までずっとダビングにつきあってくれました。役者さんがダビングに立ち会うことはまれですのでとても

『初めてのコンテ』

始めて絵コンテを書いたのは『ミラクルジャイアンツ童夢くん』というテレビシリーズでした。 読売ジャイアンツの本拠地、後楽園球場が取り壊され新しく東京ドームが完成した年に放送された野球アニメです。主人公は魔球を操る小学生の童夢くん。彼の投