『私をカラオケに連れてって!』
虫籠のカガステルの少し前に手掛けた『映画フルメタルパニック』。 テレビシリーズ一期を三本の映画に再編集したものですが、その時に本当に久しぶりにアニメーターの堀内修さんとお仕事をする機会に恵まれました。 これは堀内さんと机を並べていた時のお話です。 寡黙で仕事に妥協のない背中を沢山の後輩たちに見せ続けている真のプロフェッショナル。堀内修さんが中心に座るスタッフルームは、いつもほど良い緊張感に包まれています。彼は仕事中ほとんど席を立ちませんし、人から話しかけられない限り余計なおしゃべりなどせずに、何時間でもひたすら絵を書き続けます。
他人にも厳しい方ですが、その分自分には万倍も厳しく律している姿がちょっと怖くて、いつ見てもカッコイイです。生まれた時が侍の時代であったなら、きっと剣の道を究めて塚原ト伝や宮本武蔵みたいに後世に名前を残していたことでしょう。
堀内さんを初めて知ったのは『新キューティーハニー』でした。キューティーハニーと言えば、ヒロインの変身シーンが若者たちの心を鷲づかみにした永井豪原作の伝説的アニメ。なにしろヒロイン如月ハニーの服がちぎれ飛んですっぽんぽんになってからでないとコスチュームチェンジができないのですから。 この設定を考えた永井豪という方は本当にすごいです。 ワープの時の森雪と双璧のドキドキ設定だと思います。そんな色っぽい絵を書くアニメーターってどんな人?あなただったらどんな姿を想像しますか?
一人暮らしのアパートの部屋は、色っぽいビデオや写真集で埋め尽くされて足の踏み場もない。
友人や恋人が来訪すると、そういったお宝を両手でかき分けてとりあえず座るところを確保。
どんなときでも五官の全てを美少女に向けて、それを仕事に生かし切る。ボクが原画マンだった頃親しかった友人のアニメーターがそういうタイプだったので、きっと堀内さんもと失礼な想像をしていました(笑)
ところが『ゲートキーパーズ』という作品で机を並べることになった堀内修さんは、ボクの友人とは全く違うタイプの方でした。メインアニメーターの重責を担って見せ場の重たいカットを黙々と書き上げていく。最初の頃はちょっと近寄りがたくて中々話ができませんでした。
次の『フルメタルパニック』でキャラクターデザインと総作画監督を務めてくれた事もあって、少しずつ心を開いてくれた気がしましたが、緊張することに変わりはありません。野生のオオカミに怖々近づいて、少しずつ友達になっていく。
子供の頃読んだ『シートン動物記』や『椋鳩十』の書く動物物語の一編みたいです(笑)ほんのわずかですが親しくなった野生のオオカミ・・・いえ、堀内さんは『ラスエグ』でもやっぱり寡黙に沢山の絵を書いてくれました。でも『ラスエグ』のスケジュールでは、堀内さんに総作画監として全ての原画を見てもらうことができなかった。そのことが今でも悔やまれます。
最後に、そんな堀内さんの意外な一面をご紹介します。彼はカラオケが大好きらしく、打ち上げの二次会とかでカラオケに行くと『水を得た魚』のごとく、活き活きと昔のアニメソングや特撮のオープニングを熱唱します。 その姿はとても愛らしくて好感が持てます。決して人になつかない野生のオオカミ『堀内修さん』がちょっとはにかみながら『キューティーハニー』を歌う。
ちょっと幸せな気分になりませんか?
堀内さんと親しくなれる、とっておきの呪文。
『カラオケに行きましょう!』
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