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四行小説

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だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。
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#金木犀

窓の金木犀 // 221008四行小説

 金木犀のマスキングテープを買った。秋になり、その匂いが恋しいものの、この地域の木はまだ花を付けていない。北の方ではもう咲いていると聞くから、殊更恋しくなってしまった。だから目についたこのテープを買ってしまったのだった。
 世の中は季節を少し先取りするから、実は一ヶ月前に雑貨屋で金木犀のヘアオイルを買っていた。世に金木犀の香りのものはあれどどこか本物とは違って買い控えていたのに、そのオイルは記憶の

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星花の散る //211111四行小説

 冷たさが頬に触れ、湿った空気がのどを潤す。黒いアスファルトは濡れていて、街灯に照らされ光が点描で描いたみたいに円に浮かんでいる。
 金木犀の匂いがあまりしないと思ったら、咲いてから時間が経って色が薄くなり夕に降っていた雨に散ったらしい。散った花弁はアスファルトに散らばって、花弁は一等星、街灯は天の川を作り足下には宇宙が広がっていた。

金木犀の香り //211030四行小説

 悠然と街を歩き、その匂いがすれば辺りを見回す。深緑の葉の間から見える小さい花の蕾はまだ開いていないが、どうやら抱いた匂いが漏れているらしい。花は明日にでも開き、満開になるのだろう。花は桜、匂いは梅と言うけれど、そろそろ秋はこの甘い金木犀の香りを季節の代表としてもいいのではなかろうか。

金木犀 //211004四行小説

 空気が違う。好きな匂いが混ざっている。家を出た瞬間に気付くのは、待ち遠しかったその匂い。
 今年も金木犀の甘い季節がやってきた。

空想の香り //210922四行小説

 世では金木犀の話をし始めているから、咲いているところには咲いているのだなぁと思う。この時期の風物詩、金木犀は本州以南の人にとって親しまれる花の一つであろう。
 とはいえまだ自分の住む地域には咲いていない。
 どんなのだったろうかと去年までの匂いを記憶とともに思い出し、あの日の友人と空想の香りを嗅いでいる。