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誰かのためになんて 生きられないと思っていた

働きたくなくて、仕方がなかった。
ずっとずっと、学生でいたかった。
だからと言って、研究に足を踏み入れる元気も勇気も残っていなかった。

おかしなもので、
頑張って合格した高校に入学してすぐに大学受験の勉強が始まるように、
頑張って合格した大学に入学してすぐに就職活動が目の前にやってきていた。
「就活」という名前は公にせずとも、言葉を変え、形を変え、企業・社会・仕事が迫ってきた。
私のいた環境が少し特殊だったのかもしれないと今となっては思うが、入学したときにはもう既に、周りに長期インターンシップなどでベンチャー企業やなんだかよくわからない社会人の大人の人と関わっている同級生がたくさんいた。そういう友人は年々増えていき、また、どんどん濃くなっていった。

このままでは取り残されてしまう。
学生の本業は勉強。学問のために大学に入学した。
最低取得単位数なんて気にせずに、興味のある授業を詰め込んだ。毎週毎週何かの課題に追われていた。少し背伸びして入った大学だったため、ついていくのも必死だった。
サークル活動も欠かせない。自分の中の複数の好奇心を満たす複数のサークルに加入。いろんな活動に参加した。
両親の助けもあって、金銭的な面で困ることはなかったけれど、周りが「今日もバイトで」とか「お金が」とか「学費が」とか言っているのを聞いて、自分のお金で生きてすらいけないのが情けなくなり、義務感からバイトも始めた。
他にも、セミナーとか勉強会とか、自分のためになりそうなものには足を運んだ。自分よりもっと忙しくしている人たちが周りにいたから、あまり忙しいなんて感じたことはなかった。むしろ、何もしていない日があるのが不安だった。

そして、ぷつんと糸が切れるように、なにもできなくなった。なにもしたくなくなった。

働くのが怖くなったのは、このころだった。

レポート課題のために入り浸ることは好きだったけど、そこから何か結論付けるのは苦手だった。ただただ調べてわかるようになる過程だけが好きだった。卒業論文ですら苦しかった。
サークル活動は自分の想いを行動に移せる場だった。年々、自分の想いに自信を持てなくなった。自己満足からの脱し方がわからなくなって、行動することが怖くなった。
なにかを教えるということがずっと好きだと思っていたけれど、アルバイトを通して、教えることそのものが嫌いになりそうで逃げた。

それでも、これから先、生きていくためには、就職をしなければならないという焦りがあった。
いろんな企業が主催するインターンシップに参加をした。参加をしては、私がしたいのはこれじゃないと決意を固めて帰ってきた。疲れ切った私には、正直ありとあらゆる企業の全てが、胡散臭くて仕方がなかった。
誰かのためって、本当にそう思ってる?そう言って、お金がほしいだけじゃないの?
営業は自分でも怪しいと疑っているものを正しいと信じ込んで人に売りつける行為だと思っていたし(ごめんなさい)、本当に正しいかどうかもわからないのに嫌でも他人に何か影響を与えてしまうような仕事は怖かった。だからと言って、なにかを明らかにしたりできるほど手に着いた職はなかった。何もできない自分なのに、心のどこかで、自分にしかできない仕事はないかと高望みもしていた。
仕方ないから、手当たり次第にエントリーボタンを押していった。

そんななかで、ふと、昔訪れた場所の名前を某就活サイトの検索窓に打ち込んだのがきっかけだった。
すごく、好きな場所だった。
どんな仕事か、どんな知識が必要なのか、そんなのはどうでもよくて、ただその空間で息ができるのであれば、働く時間も悪くないのかもしれないと、あまりにも投げやりな決め方だった。
エントリーボタンを押して、選考が進むに連れて、初めてちゃんとその企業と向き合わざるを得なくなり、調べるような、就活だった。今思うと、よく採用してくれたなと思う。

知れば知るほど、好きになった。「利益を上げなければならない」のが仕事ではないということを知った。同時に、盲目的に好きでいてもいけないことも知った。疑いながら仕事をすることこそが大切なことだと肯定されている気分にもなった。
いままでの自分も、変われない自分も受け止めてくれるようなこの仕事を選んだ。

結果、自分も変わった。
利益のためではなく、純粋に、誰かのために何かを思うということが私にもできるのだと知った。
同時に、誰かの望むことを感じようとすればするほど、自分が何をしたいのかも考えられるようになった。

本当はいまだって、業務量についていけなくて毎日必死で、残業しても進捗が見れない自分のスピードの遅さに嫌気がさして、更に落ち込むけれど、
たまに自分がここで働いている理由を思い出しては、自分を鼓舞する。
働くことで、誰かのために、どうすればよりよくなるのかを考えて、行動して、結果生まれた誰かの笑顔で、こんなにも幸せな気持ちになるとは知らなかった。
いつまでこの仕事を続けるかは決めていないし、ふとしたことでばっさりと辞める決断をしそうな気もしている。
それでも、人生を振り返った時にこの時間は間違いなく自分から自分への誇りになる、自信がある。
こんなにも、自分のために生きられると思っていなかった。

#この仕事を選んだわけ

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