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拝啓 トゥールーズ・ロートレック様。

手紙のようなタイトルですが。大好きな画家で、ムーランルージュのポスターなどで有名なアンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックは生まれながらにして両足が短く、身長は低く子供くらいの背丈だったそうです。

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新しい朝が今朝もやってきて窓を開けたら燦々と陽光が私の机に差していました。

まぶし、おはよう、ちゃーちゃん。猫に挨拶。返事はしっぽをピーン、にゃああぁーん。

見慣れない風景、そしてベランダから落下事故を防ぐためにマンションのベランダには極力、愛猫は出さないように気を配るようにしていますのでちゃーちゃんは不満そうで最近は机の上から外をみているようです。

振り返れば今年はつらい宣告を2つもされて私は荒れてすさみました。腐り、毒も吐き、娘にもR氏にも当たり散らし、二人には本当に嫌な思いをさせたはずです。

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一つ目。    

自閉症スペクトラム。大人で見つかった発達障害。ASDにわずかにADHDが混在していると診断されました。妙な納得と共に過去、周りに馴染めず、新しい環境に順応も遅く、マイペース過ぎてそれは時に我が儘なマイナス点と評価されたり、小学生の頃は興味ないことには関わらず、好きな教科だけ集中と呼ぶより執着していたようでした。それは大人になっても変わらず、相変わらず数字なら1、と3に固執していて基本的には黒い服を好み、自分の興味をそそることには夜を徹してでも語れるのに、わずかな生活音や蛍光灯の明かりが苦手でまぶしく、常にサングラスを探してかけていたら安心する、みたいな。
この私の気質はおそらく亡くなった父はわかっていたのではないでしょうか、と思うのですが。

   パパ。車の窓にお月様がずっとついてくるよ?なぜ?

 パパ。宇宙の向こう側には何があるの。宇宙ってどこが端っこなの。

いつもいつも私は父を質問責めにしていました。父は大抵はいろいろ教えてはくれてはいましたが、時には「おまえは女の子だから。そんなこと考えちゃいけない」と悲しい顔をしていたのです。

なぜ?女の子は考えちゃいけないの?どうして?

どうやら私はそのまま大人になってしまったようです。
空気を読むのは苦手かもしれません。ひとりでしゃべり続けていたりしていたかもしれません。
ASDの女性はドメスティックバイオレンス被害に遇う傾向があると聞きました。納得しました。R氏には「障害者と暮らすのは嫌に決まっている」と言われ、傷つきました。
彼は貴女が嫌とか言ってないよ?手がかかるから障害者の家族がいたら本音は心の底ではみんな嫌だ、って思うんじゃないかな?って言いましたが、冷酷だな、ってそのときは冷めた目で彼を見ました。なんてひどいことをいうの?さよならしようか、って泣きました。だけど、やっぱり彼と仲直りしました。

離れてわかる愛もあるんです。恋人同士が必ずしも一つ屋根の下に暮らして、よりも、たまには互いにひとりになればわかることもあるはずなんですね。

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扉絵に使わせていただいたポスターを描いたアンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックは私の持つ障害とは違いますが、彼は知的で素敵な紳士であった、とききます。明るくて優しく、ただ、生まれつき脚が極端に短いために好奇の目で見られてイヤな思いもしたのではないかな、とか思うのですが、躍動感に溢れた作品をたくさん残していますよね。デカダンスな世界を愛し、笑顔の下に苦悩を抱え、強い酒に溺れ、その奔放な恋ゆえに梅毒を罹患。彼は若くして亡くなりましたがモンマルトルでの生活ではロートレックは幸せだったのではないでしょうか。

私は今、彼、R氏のうちを離れてマンションでひとりの生活をしていますが、まずは心のリフレッシュをして養生しながら毎日過ごしています。

マンションの玄関にはロートレックのポスターを飾ってあります。ここは私だけの小さなお城です。泣くのも笑うのも自由な自分だけの、自分のための癒しの空間の入り口にロートレックの小さなポスターを、と…。

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障害って聞こえが悪いと思われる方も多いかもしれませんが、私はそうは思いません。個性的な性格なだけだ、って思えるようになってもきました。

ここでは誰もが私をそっとしておいてくれますし、誰も私が何者なのか、なんて考えている暇なんてない場所なんです。

よく、人様に迷惑をかけてはならない、って言われてきましたが。 迷惑をかけてない人なんかこの世にひとりもいないはずなんです。

誰もが誰かを扶けていて、扶けられていることにあまりにもそれが当然になっている日常の中で気がつかないんですよね。
頑張れ!頑張れって言われてきつい思いもしなくていい。私も、これを読んでくれている方も充分、毎日頑張っているのにそれでもまだ頑張れ、は、これ以上どうしたらいいの?って泣きそうになりますよね。みんな、肩の力を抜きましょう。ね?

発達障害って悪くないはずなんです。僻んでしまった時期もありました。へこみましたし、他人をカサンドラ症候群にしちゃったのかと悩んだ日もありました。
今は落ち着き、自分を大切にしてやりたい、って思えるんです。

近くの池に鴨がやってきていました。素直に可愛い、ってじっと眺めていたりしています。どこからきたのかな?なぁんて。どこにだって幸せな一瞬を見つけたら、その日はきっといい一日なんだ、って思うんです。

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二つ目。

……これは真面目に泣きました。
ガン。しかも女性の象徴である乳房を全摘しなければならなくなりました。
かかっていた乳腺外科からの紹介状を持ち、大病院に入院することになりました。心療内科のあるところで、ブレストケアナースの数も多く、かかっていた乳腺外科よりもそこの方がゆーさんのメンタルを支えるには適しているから、と理事長先生が優しく諭してくださいましたが、やはり私は告知された時は号泣して荒れました。

なぜ、なぜ私が。どうして。切らなくてはならないの?愛しいパーツですでに30代で一度、しこりを摘出したのに。あのときはもう取り出したから大丈夫だろう、って言われていたのに……。なぜ私が。

泣いてばかりもいられません。検査、検査、のスケジュール。しかも病院は遠くて通院はなかなか困難で正直、くたびれました。

小さな私のお城。別宅(実家のつもり)のマンションは仕事するのに便利なように借りたのですが、そこは私の「泣き部屋」になっていました。
仕事もうまく行かず、賃貸物件、しかもペット可のマンションは贅沢かもしれませんが、今では借りていて良かった、って思いながらこれを書いています。

まだ痛みます。退院からまだ一月経っていませんし、二ヶ所の傷跡は生々しい縫い糸が見えてとても醜い。
私はこっそりと入院前に両の乳房の写真を自分でスマホの自撮りで撮影しました。緑色のサテンとチュールのナイトドレスの肩紐を外して。真夜中にです。何枚か撮影して気にいったのを一枚、保存しました。さよならおっぱい、って思いながら。眺めていたら、娘の断乳を思い出してまた泣きました。このおっぱいがあの子の拠り所で一歳九ヶ月まで飲ませていたんだな、っていとおしい右の乳房に「お疲れ様」と話しかけて労いました。人様から聞かれたら笑われちゃうな、って思いながら。
入院。そして翌日、手術でした。あぁ、noteに書いたな、おっぱいのことを。

7月4日にあげた記事ですね。丸い柔らかな白い二つの丘。

そう。     二つの丘はおっぱいのことです…。


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麻酔が始まり、私は眠りました。目が覚めたら頭がふらふらしました。声が聞こえて首を傾けたら娘が待っていました。

ママ、これを。

預けていた小さなテディベアと一昨年、やはり乳ガンで虹を渡った愛猫の首輪を娘が私の手に握らせてくれました。

         私、生きなければ!

そしてまた意識が落ちました。

泣きながらなんてもう嫌だ、って思いながら平静を装いましたし、なによりうちに帰りたいと思う心と裏腹に、いつもいつも毎日一緒にお風呂に入っているR氏に見られたくなくて悩みました。

痛い。ブラトップ着たら見た目はわかりませんが押さえたら空洞です。

日常生活は気をつけなければなりません。体操しながら、動かしながら右を庇いすぎないように。
退院してから情緒は安定はしませんでした。
ひっそり暮らしてなるべく人に会いたくない、って思いましたし、やはり着替えたりお風呂の前に鏡を見たら涙が滲みました。
R氏には見せず、当たり散らしましたが彼は言いました。

病気は仕方ないし、貴女が傷つくのも仕方ない、わかってるのよ、これでも。

わかってない!わかってないわ!!…悪態をつき、今はマンションでひとりで生活していますが、なんとなく過ごす毎日に秋を感じて、陽は短くなってきたけど朝日の見える部屋でカーテンを開けたら毎日お日さまが私を照らしてくれています。

       おはよう。起きた?

砂丘みたいに乾いた心に毎日明るい朝日が登るんです。

体の傷はだんだん痛みはひいてはきました。新しい今日が始まるんですね。毎日毎日新しい朝が私を包んでいるのに私は光に気がつかずにいたようです。

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毎日を大切に生きて行こう。私の物語は私が作るのだから。
アスペで片っ方おっぱいなくなったけど。

私が私であるために毎日を大切に生きて人生を紡ぐ時間を、今を生きて笑って過ごしていこう、ってこの窓から降り注ぐ朝の光に私の新しい世界が、今日が始まるんです。

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プティ・ヴィジュー、トゥールーズ・ロートレック様。赤い風車もきれいだけれど。

この朝日の眩しい曙をあなたに見せたいよ。

夜の世界に輝いたロートレック様。風車越しに朝の光を見たこともあるかしら。

そして親愛なるnoteの皆さんにも見せたいよ。この窓から見える太陽を。この新しい光から私の、そしてこれを読んでくれたあなたに新しい世界が、あなたの今日の物語が始まるんだから。

                  ゆー。

#第3回THE_NEW_COOL_NOTER賞10月に参加させていただきました

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・・・2021年11月10日。
扉絵の変更と本文の一部を加筆訂正させていただきました。

             姫崎ゆー。

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