中国史を勉強しはじめるための小説は何がおすすめ? 答えはわずか1シリーズだけです!
こちらの話の続きとなります。
三国志・中国史に妙な縁があった方や、もっと知りたくなった方へ
前回、家族・会社・学校で三国志・中国史の話をしたがる人がいた場合で、その人の話を理解したいと思った、少しは興味を持った方への書籍(漫画)を紹介しました。
さて、その仮定の上で、さらに二つ仮定を重ねましょう。
一つ目は、その人の話に、横山光輝先生の漫画の話をもとについていった場合です。その人が、私が思った以上にディープに通常の歴史好きを越えていた場合で、さらなる高い話のレベルをあなたに要求してきた場合を仮定します。
ご愁傷さまです(笑)。
私も子供の頃、父が日本の戦国時代の話が好きで、同じような目に遭いました(笑)
そこまでの人はそう多くはないですが、仕方はないので、漫画より上、比較的、易しい中国史の歴史小説を読むことをお勧めします。
ただし、この場合、その方が読んでいる小説か漫画を把握して、そちらを先に読みましょう(ゲームの場合はプレイしましょう)。amちゃん様がご指摘された通り、
“中国やそれ以外の歴史を語りたい人は何か影響を受けた創作物があり、影響された創作物のイメージに沿った会話ができる人を求めています。”
今回は、その小説か漫画が手に入りにくい場合、あるいはその人が好きなものが難しく、読むのが困難な場合、代わりになる最もよい候補を今回はお伝えします。
二つ目は、横山光輝先生の漫画より、さらに中国史を詳しく知りたいけれど、歴史書やその解説書は難しく、まずは、小説から読みたい場合です。
そういった方々へおすすめできる小説があります。
それも、たった一シリーズ、上の方と同じシリーズです。
なぜ、たくさんの作品、小説家がいるのに、一シリーズだけなのかは後で説明します。10年以上前は私もかなり歴史小説を読んでいます。その私が、あえて一シリーズだけしか勧めない理由はちゃんとあります。
そういった方へ、私がおすすめするのは、陳舜臣「小説十八史略」だけ!
前置きが長くなりましたが、それでは、「中国史に詳しくなるために、横山光輝漫画の次に読むべきと考えるたった一シリーズの小説」を紹介します。
陳舜臣『小説十八史略』 全6巻
電子書籍になっておらず、いまだ、紙の書籍しかないのは残念ですが、中国でも新品でもいいので購入して、あるいは図書館に昔のシリーズが置いていることは多いので借りて読みましょう。
小説も比較的、読みやすい、平易な文章で書かれていますし、同じ時代ではかなり登場人物も絞られて説明されているので分かりやすいです。
あまり分厚くない小説、6巻で終わるのも魅力です。横山光輝先生の漫画などをお読みになり、中国史がかなり分かってきている方なら、すいすい読むことができると思います。
時代としては、神話・夏・殷・周・秦・漢・晋・隋・唐・宋・元の神話時代から元のはじめまで網羅します。
ただ、あくまで小説なので、オチになっている「実は~だった」というのは歴史書にある史実とは違います。オチの部分については、史実とは考えないでください。
歴史書に書いてある内容が全て史実というわけではなく、歴史には裏があることがありえると分かっていただけるきっかけになれば、幸いです。
中国史の趣味の世界では、残りの明・清・中華民国・中華人民共和国は、カンフー映画か、浅田次郎先生の小説、中国産のドラマぐらいしか、話題になることはほぼありません。そうなった場合は、それにつきあいましょう。
これで、苦戦する場合は方向を変えて、とりあえず、『キングダム』など色々な漫画を読むか、ネット上の歴史動画をご覧になってください。中国史関係の映画やドラマを見るという方法もあります。
中学生・高校生の頃の私も似たようなものです。
あきらめずに読んでいけば、いずれは分かるようになります
なぜ、他の小説を三国志・中国史の勉強にすすめないの?
ここで疑問をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。
「他に三国志・中国史っていっぱい小説があるんでしょ? 陳舜臣の他の小説はすすめないの? 宮城谷昌光、吉川英治、北方謙三、田中芳樹は有名だし、司馬遼太郎や海音寺潮五郎、井上靖、中島敦、柴田錬三郎も書いているんじゃないの? 浅田次郎とか安能務、塚本青史、他にもいっぱいいるよ」
ご指摘の通りです。
ですが、「中国史を勉強する過程としての小説は『小説・十八史略』だけで充分です」とあえて、お答えいたします。(三国志だけ少し違うので最後に補足します)
これはなぜかと申しますと、「小説は歴史の勉強とは目的が違う」からです。
歴史小説は、
・過去の時代におこった事件について、内容を分かりやすく面白おかしく したものを「読者が楽しむ」
・その時代にいる人物について、歴史書を元にして、魅力的な人物像の活躍を「読者が楽しむ」
・その過去の時代について、様々に説明された知識について、それを得ることを「読者が楽しむ」
という目的があります。ですが、歴史書は読者に「楽しんでもらう」ことを目的とはしていません。
あくまで、歴史小説と歴史書は別物です。
歴史書ですら実際の史実とは別であることが多いのに、歴史小説を基準に考えたら歴史からは遠ざかります。
それゆえ、「三国志・中国史を勉強すること」が目的なら、過程として読む小説は、時代範囲が広く、著名な人物を網羅している『小説十八史略』で充分と申し上げました。
ただ、やはり「歴史をどうしても楽しみながら勉強したい」という方は上記であげた小説家の先生方の小説を読んでもいいと思います。
また、歴史書やその解説書を読んで、「どうしても時代の時系列や事件、人物が頭に入ってこない。小説でイメージを固めてからまた勉強したい」という方も読むことはおすすめします。
ですが、これは上で、歴史の勉強としては、『小説十八史略』で苦戦した場合、動画や漫画、ドラマを勧めた時と、文章の読解力の差はあれども、歴史を理解するための勉強する目的とは少し外れることは、違わないことは認識してください。
以上、私が「三国志・中国史を勉強する過程としての小説は、『小説十八史略』しかすすめない」理由です。
「三国志」についての補足
ただ、上記で述べた通り、「三国志」だけは少し違います。
世間やネットにおける「三国志」は歴史としてだけではなく、中国の明代(17世紀ぐらい)に書かれた『三国志演義』という中国文学の話題も加わります。
これも把握して、史実の「三国志」や歴史書の「(正史)三国志」との違いも理解した方がより好ましいです。
そこで、横山光輝『三国志』で得た知識を補強して、『三国志演義』関係の理解をえるための小説も紹介します・
この場合、よく、吉川英治『三国志』か現代日本語に翻訳された『三国志演義』、漫画の『蒼天航路』が勧められるのですが、どれもこの段階では難しいです。
「『蒼天航路』は漫画なのに?」と思われるかもしれませんが、実は『蒼天航路』は、横山光輝『三国志』・吉川英治『三国志』のどちらかを読み、げ現代日本語に翻訳された『三国志演義』も読んだ読者を想定しています。
雰囲気だけで楽しんでも、勉強にはなりません。
この段階では充分な理解は難しいです。
児童向け『三国志』をお勧めします
そこで私がお勧めするのは、小中学生が読むために書かれたいわゆる児童向け(ジュニア版)『三国志』です。
挿絵もありますし、解説も丁寧、ふりがなも振られています。子供の時はよく飛ばしますが(笑)『三国志』の歴史や『三国志演義』に対する説明も記されています。いずれも、プロの方が書いたものなので、とても分かりやすいです。
このジュニア版『三国志』はどれも、『三国志演義』をベースとしており、近年のものは歴史書の「(正史)三国志」を一部、とりいれているものもあるようです。
私が読んだことがあるのは、こちらになります。
歴史記事を書くための参考にしました。
佐竹 美保 (イラスト)、渡辺 仙州(翻訳) 『三国志』 全5巻
こちらです。挿絵もあり、正史の話も加えられ、『三国志演義』からの現代的な修正もはかられています。
特によかったのは、その時にクローズアップされた人物が登場するページには、簡単な説明がついた人物名つきのイラストが繰り返しを恐れずにかかれていることです。
また、地図も豊富で、歴史に関する「三国志」理解には、吉川英治『三国志』や『三国志演義』よりも優れているかもしれません。
また、5巻目では、全登場人物の詳細な紹介や、官職についても説明され、これまた、「三国志」の基礎理解にはとても役立ちます。
ただ、こちらの書籍は立派であるがゆえに、高価であるのも事実です。そう考えられる方は、他にも児童版『三国志』はありますので、こちらをお読みになったらどうでしょうか?
立ち読みで読みましたが、どちらも分かりやすかった記憶があります。
『三国志』(岩波少年文庫) 全3巻
かつて、 小川環樹という高名な学者が翻訳された『三国志演義』を 武部利男という方が児童書として短くしてまとめたものです。挿絵と口絵の地図はあるようです。
小沢 章友 (著), 山田 章博 (イラスト)『三国志』(講談社青い鳥文庫) 全7巻
講談社青い鳥文庫は1巻のものがありますが、さすがに横山光輝『三国志』を読破しているなら物足りないと思って、こちらを紹介しました。amazonのレビューの評判もよさそうです。全7巻なら読み応えはありそうです。
紹介は、以上となります。
歴史小説は、歴史の勉強とは切り離して楽しむものです
私は歴史に関する漫画・小説・ドラマ・アニメの意義を否定しているわけではありません。また、ネットにおける歴史解説動画はレベルの高いものもたくさんあります。
ですが、歴史に関する漫画・小説・ドラマ・アニメはあくまで「創作」であり、読者・視聴者に楽しんでもらうものという「(知識欲も兼ねた)娯楽」が主目的です。
学習漫画にしても「分かりやすさ」が優先される場合もあります。
それゆえに、私が「中国史を勉強する」なら、小説を読むことは最小限にするべきと考えています。
もちろん、歴史書や歴史解説書が難しい場合、「創作」である漫画・小説・ドラマ・アニメに立ち戻って、時代や事件、人物を頭にいれるために読んだり、見たりすることはとてもお勧めしています。
私としては、立ち戻ったまま、中国史に関する漫画・小説・ドラマ・アニメが好きになり、中国史の勉強のことを忘れていただいたも全然問題ないと考えています。
その方が一緒に話す仲間が増えそうですしね(笑)
ですが、歴史の勉強と、創作は間違いなく別物です。歴史作家は歴史家ではありません。
また、同時に、歴史に関する漫画・小説・ドラマ・アニメは歴史書(中国史では「正史」と呼ばれるものが主です)の下位互換では絶対にありません。
ネットや三国志解説本では、歴史書である『(正史)三国志』に比べて、『三国志演義』を下に見る風習があるようですが、実際はそうではありません。
歴史書と娯楽作品は「どちらがより史実に近いか」というベクトルで比べるものではありません。そういった考え自体を持ち、優劣を決めること自体がおかしな話です。
長くなりましたが、これで、私の紹介は終わります。
ここで紹介する作品をお読みになれば、家庭・職場・学校においてなら、マニアックなレベルでなければ充分対応できますし、動画のコメントや匿名掲示板の書き込みのかなりを理解できるしょう。
あなたは「三国志・中国史」好きの仲間入りを果たしています。
次回はこちらとなります。歴史解説書に入る前に、ウォーミングアップ的に「故事成語」の本をすすめています。
続きがありましたら
続きがありましたら、いよいよ、「中国史通」となるための比較的、理解しやすい中国史解説書の紹介となります。
「中国史(三国志は除く)」、「中国思想」、「中国文化」、「三国志」に分けて、紹介いたします。それぞれ、2回ずつの予定です。
「三国志」は初回が『(正史)三国志』関係、2回目が『三国志演義』関係です。
「中国文学」については、様々なアプローチの仕方があります。私が好きなジャンルが偏っていることもあります上に、中国史との関連は薄いため、ここではとりあげません。
「中国史(三国志は除く)」・「三国志」の1回目で紹介された書籍まで読めば、立派な「中国史通」、「三国志通」です。
また、「中国思想」、「中国文化」の1回目まで読んでいれば、多くの中国史マニア・三国志博士・史学の学部生に比べても、細かい知識はともかく、中国史への総合的理解は上回る可能性は高いです。
「中国史(三国志は除く)」に関する1回目はこちらです。これだけ、読めば、すでに「中国史通」です。
「中国文化」に関する1回目はこちらです。これを読めば、中国史マニア・三国志博士も越える「中国史」全体の深い理解への土台ができあがります。
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