おやすみ私、また来世。 #29 (最終回)
神さんのリツイート
みらいレコーズ@mirairecords・1/4
『CIRCLE ‘18』(5月12・13日開催)に相対性理論出演。
本年の相対性理論のライヴ、レコーディングでのメイン編成は、やくしまるえつこ(vo & dimtakt & etc.)、永井聖一(g)、吉田匡(b)、山口元輝(dr)の4人で、イトケン(key, per & dr)はサポート時の参加となります。
最近、薄っすらと吐き気がし、何か途方も無い力を近くに感じることがある。身体は変調を来しているが、精神は研ぎ澄まされている。
確か君も、いつだったかそんなことを言っていたような気がする。
神さんのリツイート
みらいレコーズ@mirairecords・2/15
相対性理論 出演『CIRCLE ‘18』(会場:福岡・海の中道海浜公園 野外劇場)日割りが発表されました。相対性理論は5月12日(土)の出演です。
神さんのリツイート
コズミックニュース@cosmicnewz・3/14
車椅子の物理学者、スティーヴン・ホーキング博士死去。
ブラックホールや相対性理論に関する画期的な研究で知られた英物理学者スティーヴン・ホーキング博士が3月14日に、イギリスの自宅で息を引き取った。享年76歳。
ホーキング博士が死の二週間前に書き上げた最後の論文は、「この宇宙は無へ向かっている」という内容だということだ。これはヴァンガの残した予言とも一致する。これについて、君はどう思っているだろう?
──とても長い間、僕は君を探し続けていた。あれから、もう六年もの月日が流れていた。この世界には残念ながら時間という概念があり、常に終わりに向かって物事は進んでいる。
君がいなくなったあと、僕はいくつかのアルバイトを掛け持ちして生計を立てていた。小さいながらも出版社で働くようになり、オカルトや音楽関連の記事を書くようにもなった。まさか自分が、君の得意とする分野に本格的に足を踏み入れることになるなんて思ってもみなかった。そして今は、フリーのライターとして活動できるまでになった。そのお蔭で時間に縛られることなく、都合がつけば君を探しに全国各地を巡ることができた。
仕事柄、現世と幽世の狭間について、常に最新の情報が耳に入るようになった。それは荒唐無稽なオカルトと言ってしまえばそれまでかもしれない。それでも君が言っていたように、気の持ちようで世界の捉え方は全く変わる。“そんなこともあるかもしれない”という可能性こそが、隠された真実に辿り着く。
君が創った秘密結社みらい観測クラブの一員でありながら、何処かオカルトに懐疑的だった僕も、君が見ようとしていた光景と、君が知ろうとしていた宇宙の秘密を、ようやく想像できるまでになった。
──霊峰と呼ばれる場所は、度々パワースポットとして、世間に注目されることもあったが、近年は観光地としてだけでなく、インスタ女子や御朱印ガールといった、それまでに訪れることのなかった者たちを多く山に呼び込むようにもなっていた。
古くから山を信仰している者たちにとってみれば、山で無意味に騒がれることは好まないものと一方的に思っていたが、それよりも山が廃れ、人々の記憶から忘れ去られることこそが、山岳信仰をする者にとっては辛いという意見が少なくなかったのを意外に思った。
君が探していたのは、ある意味パワースポットとも言える宇宙と繋がる場所──物理的に、高位次元に一番近い場所なのだろう。僕は全国各地にある、そんな場所を巡っては君を探した。出雲大社、伊勢神宮、諏訪大社、そして高野山──それでも、君のいた痕跡を見つけることはできなかった。もう何度目になるかわからなかったが、こうしてまた神奈備に足を運ぶ。
ありとあらゆる場所で自撮りする女子たちを横目に、ガイドブックには載らない山の奥地へと進む。神様は寛容になった。あれだけ騒がしくしていても、決して罰が当たることはない。
僕は何かに導かれるようにして、道なき森を進んだ。この世に憂いた者たちが彷徨いながらも到達するという、その場所を目指す。
──どれくらいの時間、歩き続けていただろうか?
これまでにない強い気に惹き寄せられる。薄っすらと寒気がし、吐き気がする。身体が変調を来しているが精神は冴えている。いつだったか君が、そんな風になっていたことを思いだす。
近くにとてつもない力を感じる。そこには結界でも張られたかのように、決定的に何かが違う厳かな雰囲気が漂っていた。深い森の中とは思えないほど、やわらかな光が差し込んでいた。人知の及ばない未知の力が宿る、そんな場所であることは確かだった。
気の持ちようかもしれないが、宇宙そのものに触れているような気がした。聖域とも神域とも呼べる空間。
僕は躊躇なく奥へと足を踏み入れる。周囲にはさらさらと木々の葉が擦れる音だけがしていた。
君を強く感じる──。
少し離れた先に、誰かが木陰に腰掛けているのが見えた。いつか見たあの洋服。所々、汚れているようにも見えたが、それは猫のシルエットのついた水色のドレス──君の正装ともいえる服装だった。
ようやく僕は君を探し出した。僕は駆け寄り、君に声を掛ける。しかし名前を呼ぶまでもなかった。そこで目にしたのは、変わり果ててしまった君の姿だった。
在りし日の君の姿はもうない。冬にはウサギみたいな格好をした、猫のような性格の君は、そこにはなかった。
──骨だけになってしまった君は、僕を見てはいなかった。
朽ちて古びた、君の髑髏からは何の感情も読み取ることができない。君が得意げに話す未来の予言や宇宙の神秘を、もう僕は耳にすることはできない。君が口遊むあの歌も、もう聴くことはできない。
樹海で死んだ遺体は、森に住む動物の接触で、バラバラに散ってしまうことを何かで読んだことがある。それでも目の前の遺骸は、君とわかってしまうほど綺麗なものだった。
僕は君が迎えたであろう壮絶な最期を思い、胸が締めつけられる。
ふと視線を外すと、周囲には同じように、何体もの遺骸があることに気がつく。皆木陰にもたれ腰を下ろし、骨だけになっていた。
これだけのことが目の前で起きても、僕の心は平穏だった。それどころか清々しさすら感じていた。それはきっと、この聖域がそうさせていたからだろう。
死期を悟った猫が何処かに姿を消すように、人知れず象の墓があるように、ここはそんな人たちが集まる聖域だった。宇宙の秘密と真実を求めた者が辿り着く場所、そして君が目指していた終着点──現世と幽世の狭間がここだった。
僕はここに辿り着くまでに六年もの月日を要した。すでに何年も前に、ここに到達していた君は、やはり本物だったと言わざるを得ない。気の持ちようで未確認飛行物体を見せ、写真を撮ればオーブを写した君は、尚も先へ進んだ。
まだまだ信心が足りない──君の変わり果てた姿を目の前にして、自然に涙が溢れるくらいには、僕はまだ世俗的だった。
君の精神は、高位の次元へと旅立つことができたのだろうか?
宇宙と繋がることはできたのだろうか?
そして、高度な文明を持つ異星人──神には出会えたのだろうか?
君の夢が叶ったことを喜ばなければならないはずなのに、僕は溢れる涙を抑えることができなかった。骸骨になってしまった君の前で膝をついた僕は、誰もいない深い森の中で泣いた。その嗚咽が、鼓膜を通して頭の中で五月蝿いほど反響していた。
君は僕に何を伝えたかったのだろう──臆病な僕は、身体を捨てた先にある世界を信じきれなかった。それでも今なら少しはわかる。君がこの世界から消えてまで手に入れようとした真実と、知ろうとした宇宙の秘密の一端を──。
人が生きていく上で必要なことは幸福感だと思う。例え貧しくても、その毎日を幸福と思えるのなら、それ以上のことはない。今、宇宙と一体になった君は、しあわせなのだろうか?
きっと君は、別の世界から僕を見下ろしている。来るのが遅すぎなんて、ぼやいていたりするのだろう。今はまだ、君の声すらも聴こえない。それでも僕は、いつか君に追いつく。だからそれまで待っていてほしい。そしてそのときこそ、あのときの返事をして欲しいと思っている。
【終】
※作中リツイートをTwitter みらいレコーズ【公式】@mirairecordsより、引用させていてただきました。
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