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人生の半分以上を過ごした君へ 後半

これは、子どもの頃に一緒だった犬の話です。
もう数年前にさようならしました。ノンフィクションなので、少し長いですが、よろしければお付き合いください。10番目は私があの子に言いたいことです。伝えたくて、書き散らしました。

ちなみに前編はこちら。


1.老化


その子との日々は、あっという間でした。でも、とてもとても長かった。出会った頃に小学生だった私は大学を卒業して、人生の半分以上の時間をその子と過ごしていました。

だから、その子に言いたいのです。

 人生の半分。
 それってね、すごいことなんだよ。
 そうは言っても、君にはわからないかもしれないけど。

 その頃になると、君は足腰が弱ってきて、あまり長いお散歩ができなくなった。
 仕方ないね、もうおじいちゃんだもんね。
 
 お散歩ルートが少し短くなった。

 時間はちょっと延びた。ゆっくりゆっくり、歩くからだ。

 君が、16歳になった夏。
 ちょうど、火事が起きた季節。
 毎年のように庭木を剪定していても、君は寄って来なかった。
 どさりと落ちた枝にびっくりして、鳴き声をひとつ上げただけだった。

ごめんごめん、ちょっと向こうに行ってようね。そう言って場所を移動させたあと、妹と遊ぶ姿がふと痩せたように見えました。

その年の秋ごろ。
食欲が落ちてきて、柔らかいものじゃないと食べなくなりました。
あんな大好きだったおやつのジャーキーもだめ。
でも、犬用の柔らかなササミをほぐすと、手から直接なら食べてくれます。

だから、本当に色んなおやつを試しました。
おイモに、お肉に、柔らかいキャンディに、すぐ崩れる丸いクッキー。レシピを見て、作ったものもありました。シニア用の牛乳を買って、色々と試したものです。

そうやってしばらく試行錯誤していると、そのうち食欲が戻っていきました。しかし、そんな安堵も束の間のことでした。 

2.異変(12月16日)


あれは忘れもしない12月16日の水曜日。

夜になって突然、その子が叫ぶような声を出しました。
何事かと思って駆け付けると、吠えるとも鳴くともつかない声を上げてよたよたと近付いてきました。撫でているうちに落ち着きはしたものの、どうにも様子がおかしい。何度も何度も外に出せと言う。家の中にはいてくれない。

そして翌朝、17日。
様子としては、可もなく不可もない。普通。
昨日のことが嘘のように、けろっとしてご飯を食べました。
今日は食欲があるなぁ、なんて思っていたくらいです。

でも、おかしかった。
仕事に出る前に、いってきますを言うために顔を出すと、その子の身体が右側に少し傾いていました。
転んでしまったようで、右足が震えていた。でも、ケガはなさそう。少し様子を見てから、私は仕事に向かいました。

夕方、家に帰る途中で、家の近くまで来たときに鳴き声がしていました。ぎゃんぎゃんと泣き叫ぶような、異様な鳴き声です。
急いで家に飛び込むと、庭に出ていたその子は立てなくなっていました。でも、抱き起こすと、けろっと動けるのです。

細い後ろ足が引っ掛かったのは、地面のわずかなへこみ。それは本当に小さな、段差なんて呼べないほど些細なへこみでした。
すぐに土を敷いて埋めてみれば、問題なく、そのルートを歩いてくれました。

一度は転んだのだから、別の場所を通ればいいのに。
なんて、撫でながら思いました。

でも、きっと一番びっくりしたのはその子自身のはずです。

12月18日。
いつも通りの何ともないような様子で、朝も夜も、きちんとご飯を食べていました

加齢で足腰が弱くなっているのだろう。
週末になったら獣医さんに診てもらおうねー、という話をしました。

 君は、お医者さんでも喜んで尻尾を振る。
 トリマーさんでもペットホテルさんでも、君はいつも良い子。
 いつでも、みんなに褒められる。
 人懐っこくて良い子ですねって。

 ちょっとおばかさんですけどね。
 なんて笑って、私も嬉しかった。

3.進行(12月19日)

そして、翌19日。

明け方頃から妙な鳴き声が聞こえてきて目を覚ましました。
外はまだ暗く、ほんの薄らと明るいくらい。
聞こえて来るのは、何の声か分からないウォンウォンと響くような声。その時が、うちの子の鳴き声だなんて最初は思えませんでした。
いったい何の鳴き声だろうと耳を澄ませていたけど、不意に思い当たって庭に急いで庭に出ました。

そこで、木と塀の間に身体を突っ込んだ状態で動けなくなっていました。自分から庭に出たのに、自分で家に戻れなくなっていたのです。

足腰が弱くなると、犬は後退ができなくなる。
と、本で読んだことがありました。

 ――ああ、それなんだ。そうなったんだ。

誘導すると、安心した様子で歩いてくれました。
でも、ほどなくして、また呼ばれる。呼ばれる度に見に行くと、転んで動けなくなっていました。

後ろから両手で腰を支えてやれば、なーんだ平気じゃんといった様子で歩く様子を見て、少し悲しくなりました。

動けないことがもどかしくて、私を呼んだのかもしれない。
その子自身もどうすればいいのかがわからなくなって、呼んだのかもしれない。
その日は、本当に何度も何度も呼ばれました。
その度に用事を放り出して、上から腰を持ち上げて身体を支えて歩かせました。

獣医さんに電話をすると、その状態では待合室での待機は難しいかもしれないと言われました。

その日の昼頃には、私が傍にいても急に鳴いて呼ぶようになっていました。まるで私の姿が見えていないかのようです。

――往診の日まで、待ってください。

そう言われました。
仕方ありません。この状態では、本当に移動も難しそうです。

その日の夜。21時くらいに寝てくれたものの、23時過ぎにはまた呼び始めました。

家の中に入れておくと、外に出してくれと騒ぐ。外は寒いから、と、何度も外に出しては家の中に入れて、また外に出してを、一晩中ずっと繰り返しました。

腰を支えて歩かせてあげると、納得したかのように歩きました。
「なぁんだ、歩けるじゃん」みたいな感じです。

でも、この時点で分かっていました。
その子はもう、自力では腰を支えられなくなっていました。

異変が起きてから3日。
後退できなくなってから1日も経っていません。

そのあまりの悪化の早さが、とてもショックでした。

君は一晩中、ずっと呼んできます。
私が傍にいても、撫でていないとわからないようでした。

部屋に入れても、外に出たがる。12月の寒い夜。中腰で何度も庭を散歩させるのは、正直なところ辛かった。けれど、一番辛かったのは、きっと本人だとは思います。

突然のことで、本当にびっくりしたのだろう。

4.夜鳴き(12月20日)

19日土曜から夜鳴きが始まり、私はほとんど付きっきりです。
触っていても、時々私のことがわからないように見えました。

うとうとして撫でる手が止まると、鳴き声に起こされます。
眠たいというよりも、鳴き声にびっくりして心臓に悪かった。

それも呼ぶ声はパニックを起こしているかのような、何とも悲痛な鳴き声で、聞き慣れているその子の声のはずなのに違って聞こえるほどです。

一体どうしてしまったの。

話しかけても返事はなくて、どこかを向いて鳴くばかり。

20日の真夜中になり、やっと寝付いてくれました。
ほとんど寝ずに相手をして迎えた月曜日は、眠気よりも不安感が強く、そして疲労感に苛まれました。

再び獣医さんに電話をすると、睡眠薬を勧められました。

一晩中ずっと吠えている方が体力を消耗してよくない、と。
それで人間の方が参ってしまうと、今度はそれが伝わってまた不安になってしまう、と。

しかし、効果は個体差があり、場合によっては……というリスクもあると聞き、私は「今回は見送ります」と答えました。

そのうち、お願いするかもしれない。でも、今は。今だけは。

夜鳴きの件を電話で知らせると、母は少し驚いたものの年だから仕方がないと諦めていました。

私は母に、「そうだね」と返事をすることができませんでした。

仕方がないのだろうか。
本当に、仕方がないのだろうか。

5.一時緩和(12月21日)


そして、21日の月曜。
声をかけると、夜鳴きは少し落ち着くようになりました。昨日一昨日は触れていなければいけなかったのに、少し改善したかのように思えました。

あの子は何を思っていたのだろう。
今でも、やっぱり知りたいと感じます。

立てなくなっても、歩きたがった。ようよう立って歩き出しても、すぐに右側に傾いて転ぶ。転んでしまったら、もう動けない。

まるで助けてと訴えるように、何度も何度も吠えて鳴いて呼んできました。

右側に立って支えてあげないと、もう前に進むことすらできない。転んだのはたった5日前のことなのに。そう思いました。

仕事中も、様子が気になって仕方がありませんでした。
どうすれば、歩けるようになるのか。そればかりを考えていて、正直、仕事なんて手に付きません。

大好きだった缶詰のドックフードも食べなくなった。おやつのササミも、鼻先に近づけないとわからない様子だった。

一日中ずっと続くような夜鳴きは、土日だけだった。

私が家にいると知っていたからかな。だから呼んでいたのかな。

それでも、平日は仕事に行かなくてはなりません。

場合によっては、ペットシッターやヘルパーなどを頼まなければならないだろうとも考えました。

もし、私が仕事で不在にしている日中もずっと鳴いているようなら、獣医さんの言う通りに薬で落ち着かせた方がいいだろうか。ご近所にも謝らなければならない。と、ぐるぐると考えていました。

腰を支えてさえいれば、歩いてくれる。
歩きたいのなら、歩ける間はずっと支えても良かった。
昼は仕事、夜はお散歩。ほとんど寝ずの時間でした。

それでも、君が元気になるのなら、と、そう思いました。あるいは、そう思いたかったのかもしれません。

6.年越し


大型犬は、一度転ぶと寝たきりになる。そして、寝たきりになったら、もう長くないとも言わています。また、ほとんどの場合、寝たきりになってから一ヶ月程度だと。

不安ばかりが胸に巣食って、どうすればいいのかわからなくなりました。

往診の日が遠い。

夜鳴きに付き添いながら、腹巻きタイプの歩行補助ハーネスを作りました。買いに行くことができなかったから、手作りで即席です。改良しないといけないなーと思いながら装着すると、ほいほい歩いてくれました。

そんな姿を見ると、元気だなぁ、と嬉しくなる。単純なものです。

縫い合わせたクッション枕を頭の下に敷く。
そして、足の間に小さな抱き枕を挟んだ。
更にその上から、すっぽりとブランケットで包む。

そうすると、やっと安心したように眠ってくれるようになりました。

それでも熟睡とまではいかない。ちょっとした刺激でも、あるいは刺激なんてなくても、ふと目を覚ましたらすぐに呼んでくる。

そして、起きたら外に出せと言う。
気持ちがわからなくて、とても辛かった。

ただ、幸いだったのはこれが12月に起きた出来事だったから、です。年末年始のお休みがあったので、少し早めに休みをもらって傍にいることにしました。

何が起こるかわからなくて怖かったけど、後悔はしたくなかった。でも、意外にも年末年始の間は落ち着いてくれていました。一緒に年越しができたのです。

ただ、この頃には、もうほとんど寝たきりの状態でした。
目が覚めても、もう起き上がろうとはしません。全身を使って抱き起こしても、全く四肢に力が入っていないようでした。

歩行補助のハーネスは、改良することもなく使わなくなりました。もう少し使ってほしくて、何とか抱き起こして歩かせようとしても、すぐにうずくまってしまいます。

ここから、初めての寝たきり老犬の介護が始まりました。

7.寝たきり介護


寝たきりになってしまったので、まずは褥瘡(床ずれ)に気を遣いました。数時間おきに体勢を入れ替えてあげる必要がありました。

当たり前ですが、トイレも以前のようにはできません。
なので、大きなペット用のトイレシートを布団のように敷きました。その上に寝てもらって、下半身部分にはハーフサイズを敷いて、排泄の度にそちらのトイレシートをこまめに取り替えるようにしました。

犬の介護なんて、初めてでした。
手探り状態です。

お正月が明けた頃、夜鳴きが再開しました。
私の休みがそろそろ終わることが分かったのだろうか――なんて、思いもしましたが、正解なんてわかりません。


往診の時、獣医さんに言われた言葉は今でもよく覚えています。
肺の音は、とても綺麗。
心音に雑音もない。呼吸もきちんと、鼻でしている。
食欲がなくて低血糖気味ではあるけど、とてもよくしてもらっている。この子は幸せものだね。

往診してもらって助けられたのは、私の方です。
往診を終えた夜、私はバカみたいに大泣きしました。

そんなに元気なのに、どうして立てないの。どうして動けないの。どうして食べられないの。

きっと、本人が一番そう思っていたでしょう。
どうすればいいのかわからなくて、それも悲しくて散々泣きました。

犬は人間の4倍ものスピードで、一日一日を過ごしていく。
今日や明日、人間のたった一日程度で急変してしまう場合も有り得ます。

できる限り仕事の休みをもらっても、そろそろ限界でした。

鳴かないで。きちんと寝て。
吠えないで。ごはんを食べてほしい。

いろんなことを思いました。弱音ばかりでした。

仕事を再開しても寝不足が続いてミスが増えていきます。
正直、途方に暮れました。
いくら調べても、寝たきり状態からすっかり回復したなんて話は出て来ません。
老犬介護のブログも散々読みました。
そして、最後の更新記事を見てはまた泣きました。

寝たままでも食べられるようにふやかしたおやつをあげたら、少しだけ食べてくれました。

8.お別れ(1月18日)

久し振りにぽかぽかと晴れた日のことです。
ひなたぼっこをしながらマッサージをしてあげると、気持ちよさそうに眠るから嬉しかったことをよく覚えています。

ただ眠っているだけの姿が、とても愛おしかった。

寝たきりになってから、ちょうど一ヶ月。
珍しく、ちらちらと雪が降った夜。
湯たんぽを取替えて、寝返りを打たせて、トイレシートを交換して一緒に眠りました。いつも通りでした。本当に、いつも通りのはずでした。

翌朝。1月18日。

あっという間でした。それは、あまりにも突然で、どうすれば良いのかもわかりませんでした。

眠ったままの姿で動かなくなっていました。
そっと触れば小さく引っ掻いてくれた爪も、頭を撫でたら動いていた垂れ耳も、全く動きません。灰色がかった肉球も、もうすっかり硬くなっていました。

その日は仕事でした。でも、君を置いて行きたくなかった。
そもそも涙が止まらなくて仕事なんて無理でした。
どうしようもなく泣いてしまって、止めようとしてもバカみたいにボロボロと涙が出て、意味もわからないくらいにたくさん泣きました。

あの子はちょっと泣き真似をしただけで様子を見に戻って来るような子だったから、あまり泣かない方がいいとは思いました。でも、だめでした。

子どもの頃、泣いている私の後ろをポテポテとついて歩いてくれた姿を思い出しました。
私が泣き真似をしたらどんなに元気よく脱走中でも戻って来てくれたのは、もしかしたらそういうことだったんじゃないかって。

ペット用のトイレシートもシニア用の缶詰もたくさん残っています。これからまだまだ、ずっと面倒を見るつもりでした。
夏の誕生日までは無理だとしても、もっともっと一緒にいたかった。少し暖かい日は起こしてあげれば、自力で少しは立てるようになってきたから、春までは、なんて思っていた。

いや、立てなくてもいい。歩けなくてもいい。もっと一緒にいて欲しかった。

確かに夜鳴きは、辛かった。眠れない日も辛かった。仕事中も眠たくてしんどかった。
それでも私が面倒を見るからと、ペットシッターもヘルパーも、病院に預けるのもやめました。
私が色々としてあげたかったから。
それが、あの子のためになったのかどうか。自信はありません。

あの子が起きなくなった日の夜。
夜間も窓口業務をしている市役所の支所まで足を運びました
仕事帰りの人達が、列を成していて、その中に並んでぐすぐすと泣いていた私は、ひどく滑稽だったかもしれません。
あんなに涙が止まらないというのは、初めての経験でした。

死亡した届けを出すなんて、したくない。
本当は誰かに代わってほしかった。
あまりにも辛くて、まだ認めたくない。

名前。誕生日。死亡日。犬種。場所。
簡素な項目が並ぶ紙の上にずらずらと、そして淡々と書き続ける。

書いている間に涙が出てきて、受付の人に慰められてしまうくらい。何の涙かわからないくらい、ずっと出てきてしまうのです。

 

9.虹の橋へ


旅立ちの日。
その身体は、いつもとは違う匂いがしていました。

抱き上げても、もふもふとした柔らかな毛並みの感触はない。
すっかり痩せていた。後ろ足なんて、本当に細くて頼りない。
いつもお出掛けの時に乗っていたワゴンではなくて、その日はセダンで移動した。セダンは初体験だったから、落ち着かなかったかもしれないね。最後の最後にごめん。

火葬手続きの間、涙は引っ込んでいた。
預けて、さようならをして、
それから家に帰ると、あの子の匂いが残っていました。

元気だった頃と同じ匂い。
そのうち、消えてしまうのだろう。そう思うと、また涙が出た。涙腺が壊れたのかもしれないってくらい、ずっと出てきてしまいます。

可愛い子でしょ

10.人生の半分以上を過ごした君へ


 君のこと、獣医さんからは老衰だと言われたよ。
 病気は何も持っていない。ケガもしていない。

 君は、本当に幸せだったのだろうか。
 ありがとうも、ごめんなさいも、
 私の中には、まだたくさん残っている。
 お散歩をサボった日もあった。おやつを切らした日もあった。

 剪定中、まるで作業に参加しているような顔をしていた君がいない。
 お風呂だよと呼べば、慌てて逃げていた君を追いかけることもない。
 庭に下りてきたセミを追いかける姿も、リードを咥えて持ってくる姿もない。

 庭を駆け回る足音も、落ち葉を探る音も、野良猫に驚く鳴き声も、今はもう聞こえない。

 ちょっとしたことだ。些細な音だった。
 だからこそ、日常の一部だったのだ。
 それがなくなってしまったことが、無性に寂しい。

 この一ヶ月、ずっと呼んでいたじゃないか。
 真夜中、ずっと鳴いていたじゃないか。
 いきなりやめないでほしい。
 空耳で、まだ呼ばれているような気がするから。
 文句を言って、君のもっちりとした頬を両手で挟んでやりたい。

 君のお気に入りだったブランケットも、クッションも枕も毛布もある。
 お風呂用具もブラッシングセットも爪きりも、リードも首輪も残っている。
 なのに、どうしてそこに君だけがいないのか。
 君のために買ったおやつが、まだたくさん残っているのに。
 戻るというのなら、いつでもいい。また鳴いても騒いでも構わない。トイレだって、できなくていい。
 君のものが、たくさん家に残っている。

 それでも、君がいない。

 君は、本当に怖がりだった。特に猫は苦手だった。
 そのくせ、人見知りをしない懐っこさがあった。
 君は本当に、とても可愛い子だった。

 最後の寝顔も可愛かった。
 本当に眠っているようで、撫でてあげれば起きそうだった。

 君たちは虹の橋で待っていてくれるという話を聞いたことがある。
 もしも、そこに君がいるのなら、もう少し待っていてほしい。
 そして、また会えたら、もう一度たくさん走ろう。一緒に。
 何度でもボールを投げるから、君は君の好きなように遊んでいいよ。
 取って来なくてもいい。ボールを忘れて戻ってきてもいい。

 君は本当におばかさんで、自由で、怖がりで、人懐っこくて、可愛い子だから、きっとどこでも幸せになれると思う。

 君が幸せだったかどうかは、わからない。

 でも、私は本当に幸せだった。

 至らない部分もあったと思う。
 不出来な部分もあったと思う。

 君が文句を言えるのなら、言ってほしいくらい。

 茶色交じりの白くて小さなもふもふ。

 垂れ耳のおばかさん。

 そんな君が、今でも大好きだ。



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