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人的資本経営に興味のある皆様へ〜未開拓資本を活用する未来〜

人的資本経営は昨今のパワーワードで多くの方が注目しています。人材が均一な財務会計数値に置き換えられてしまっていた時代において、私も長らく大きな違和感を感じていました。それは、人は均質なモノではないという人権主義者的な側面もあれば、従業員の立場でも自らが企業価値にどう貢献できているかという意識が希薄なことも、違和感の原因だったように思います。


資本であるとはどういうことか?

人が「資本」であるとはどういうことでしょうか。これまでは「資本=お金」でした。お金は大事、無駄にしてはいけない、うまく活用してリターンを上げていかないといけない。お金をそういう希少性のある大事なものとみなしているからこそ「資本」と呼んでいるのだと思います。

昨今、SDGsが注目されるようになり、ステークホルダー経営において、自然資本、社会関係資本も同様です。希少性がある、大事であることが大前提なのだと思います。著書『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』でも触れていますが、人間はビジネスを通じて大事な資本の存在を無視してきました。それが環境破壊を引き起こし、持続可能でない社会を生み出してしまいました。

資本は大事なものである、すなわち毀損してしまうリスクのあるものです。一方で、お金もそうですが、単に費用としてフローしていく性質だけではなく、貯まる、ストックされる、増加させることができる特徴も有しています。人的資本とは人がアセットであること、そして大事に育てることで増減する、積み上げていけるという特性を表していると考えています。

人的資本経営における違和感

当方も人的資本経営の重要性を感じ、日々実際の経営現場にどう活用するか実践的にも頑張っています。また、上場企業などの人的資本開示の事例も増えてくるに従って違和感を感じていることが一つあります。

多くの企業において、人的資本経営の対象は「ほぼ中の人材」、すなわち従業員(社員)であるということです。中にいる人材が満足しているのか、どういう構成なのか、生産性はどうなのか、等々。全て中にいる人材に関するものばかりです。

お金に話を戻してみましょう。ファイナンス経営(戦略)において、みなさんが思い浮かべるものはなんでしょうか?

恐らく多くの方が資金調達を思い浮かべるのではないでしょうか。つまり、今内部にあるアセット(お金)だけでは十分ではないので、会社の外にあるお金をうまく活用する方法を模索するわけです。どこから、どうやって、どんな条件で、いつ、資金を調達し、会社の資本に変えていくか。これを考えることこそがファイナンス経営だと言うわけです。

実際は異なります。ファイナンス経営において大事なことは、1)資金調達に限りません。寧ろ、2)調達した資金をどうやって活用し、ビジネスから生み出す資金をどのように活用していくのか、3)それらの資金をどうやって分配していくのか、4)資本コストを引き下げるためにどのように対話(コミュニケーション)していくのか、この全体がファイナンス経営だと思います。

再度、人的資本経営に話を戻します。目下、人的資本経営で注目を集めているのは、2)内部にいる人材をどう活用するか、3)人材リソースをどう分配していくか、と言うあたりではないでしょうか。それでは片手落ちだと思いませんか?

人的資本経営において重要なもう一つの視点は、社外、すなわち労働市場にどのような人的資本があり、それをどう調達(採用)し活用するのか、また労働市場に対してどのように対話(コミュニケーション)していくのかという観点です。

労働市場には未開拓の人的資本が埋まっている

日本に生産年齢人口が少子化により年々減少していくという社会課題は周知の事実でしょう。日本が直面する最大の社会課題と言って良いと思います。少子化対策のための結婚やパートナーを増やすことは大事ですが、諸外国の傾向を見ても、華々しい成果を上げられるかは疑問があるところです。

その規模は今後20年だけでも1,500万人規模とも言われています。

下記Newspicks記事より抜粋

今、各企業は自社の人的資本の最大化、効率的活用のための施策を色々と考えていると思います。では、誰が、日本全体の人的資本の最大化、効率化のための施策を本気で考えているのでしょうか。結果を出すには、実際のビジネスの現場で付加価値を踏み出すことが必要です。

日本は失業率が非常に低い国です。総務省のデータでは、過去35年間でピーク時でも350万人、足元は150万人の完全失業者数とあります。

諸外国と比較しても圧倒的に低い数字で世界200カ国余りの中で、最も失業率が低い国の一つです。主要国と比較しても低いことが下図でもわかります。

総務省データより

確かにこれをみると、日本は生産年齢人口が年々減少していく一方で、失業率も低く、労働者不足がますます深刻になる。まさにその通りに思います。確かに日本においてはビジネスの現場で叩いている人が97%以上のわけですから、人的資本経営も97%だけ考えていればいいことになりますが、ほんとうにそうでしょうか

そこには大きな落とし穴があります。この完全失業者の定義には全て含まるわけではない「就労困難者」という人たちがいるのです。その数、1,500万人

身体的、精神的な障がいや持病、薬物やアルコールの依存症、介護などを理由としたミッシングワーカー、フリーター、ニート……公益財団法人日本財団の調査では、積み上げ方式でカウントすると、累積1500万人超に上るという試算もあります。

Newspicks記事より抜粋

その多くを占めるのが障害者で936万人とも言われています。

下記Newspicks記事より抜粋

その殆どが働くことができておらず、仮にできていたとしても平均年収443万円に遠く及ばない収入しか得られていないのです。

下記Newspicks記事より抜粋

この辺りの実態は、以下の記事で詳細が解説されているので是非ご覧ください。

今、既に賃金をもらって働いている人的資本を生産性を向上させるなどして、10%改善することも大事な戦略です。ただ、6,000万人に減少する生産年齢人口を考えると、この未開拓の1,500万人の人的資本が事実上ゼロカウントされてしまっている、この人的資本を有効活用することができれば、25%の新たな人的資本が生まれ、日本経済の力になっていくわけです。

未開拓の人的資本の活用には企業側の変革が必要

私の前職、ゴールドマン・サックスは本当に多様な人材が熱心に働く職場でした。一般的な日本企業では雇用してもらえないような、「難点のある優秀人材」が数多く活躍していました。詳細は、興味にある方は検索すれば色々と事例記事が出てくると思います。そういうところが私が好きなところの一つでした。

私が不慣れなロンドンという職場で、日本人一人で働き、西欧東欧北欧からロシア、中東、インド、アフリカ、南米まで多様な国のビジネスに関わって仕事ができてきたことも、企業側の懐の深さ、そこで働く人の意識が大きく影響していると実感しています。

それらの経験からも感じるのは、未開拓の人的資本、外部の人的資本を活用するためには、その会社自身が変革しなければいけないと言うことです。

当方も熱烈に支援している、VALT JAPANというスタートアップがあります。この会社はまだまだ小さく、当方が理想とするようなユースケースをまだ生み出しきれていないのが実態です。なぜ、そうなのか。それは、VALT JAPAN自身がまだまだ進化しなければいけいこと、それに加えて企業側の変革がまだ十分に追いついていないことも課題の一つです。

日本はDX化、クラウド化が遅れてきました。なぜか。世界にはクラウドサービスは溢れていましたし、それを作れる技術も会社も存在していました。なぜ、普及が遅れたか。それは企業側が導入に向けた準備ができていなかったからです。ユーザー側の問題なのです。

当方の著書でも「考える消費者」と言う言葉を使って説明しています。新しい市場、新しい産業を生み出していくには、サービスを提供する企業側の努力に加えて、ユーザー側の意識変革=アップデートが同時に起きる必要があるのです。

VALT JAPANが立ち上げたメディア記事(前後編、特に後編に注目)でも話をしていますが、この市場は皆で立ち上げていく必要がある、そう感じています。

日本の人的資本経営をもう一歩前へ! グローバルに追いつくのではなく、グローバルでも先進的な事例として、新たな人的資本経営の扉を開く。そんなことができたら素晴らしいのではないでしょうか。

新たな人的資本活用のケースを作りませんか?

イメージしているのはこんなことです。おそらくビジネスの現場では圧倒的に人材足りてないと思います。一方で、足元で、Generative AIの導入が急速に進んでいます。

VALT JAPANと企業が一体となって、AIやDX(テクノロジー)の力を使って、未開拓の人的資本(就労困難者)が高い付加価値と生産性が生み出せる、そんな現場を作ってみませんか?

すごく形式的な話ですが、社員数が増えてくると障害者雇用の義務が発生します。ここで言っているのはこういうミニマムの義務の話ではありません。ここで義務化されていることは雇用のみです。もっと人的資本の活用を目指しませんか。雇用するだけではなく、高い生産性が生み出せる、そんな雇用を生み出せれば、2.3%と言わず20%(=すべての就労困難者の雇用)だって夢物語ではないのです。

常時雇用する労働者の総数に対して、2.3%以上の障がい者を雇用することが義務付けられています(障害者雇用促進法43条1項、同法施行令9条)。 端数は切り捨てとなりますので、43.5人以上の従業員を雇用している場合は、1人以上の障がい者を雇用することが必要です。

少し熱くなりすぎたかもしれません(笑)。VALT JAPANを知ってもらうこともそうですが、是非、10名以上の社員を今日している企業であれば、皆に本気で考えてもらいたいテーマだと思い投稿しました。人的資本経営にコミットするなら、内弁慶に止まらず、もっと効果の出るやり方を労働市場全体を見て考えませんか

資金調達戦略で言えば、他の会社が横並びで高いエクイティコストの調達をしている中、圧倒的に資本コストのやすい資金を大量に集めている、そんな企業の方が有利だし、リターンも出るし、スマートですよね?

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