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企業報酬から見る「異次元の少子化対策」

「異次元の少子化対策」が架橋である。先日も下記ニュースでもピックが多くされているが、少子化対策に向けた国民の期待値も相当高いのだと思います。「異次元とは」どういうものかを考えるにあたって、ほんの少しだけ書いてみたいと思います。

今回、児童手当の所得制限が撤廃される方針とのことが報道されました。昨年末に1200万円以上の年収があれば児童手当がなくなる、という「改悪」が実施されたばかりでした。

子育て「支援」ではなく少子化「対策」

当方の認識の結論は、子育ての支援という意味づけではなく、子供を増やすインセンティブを各人に持ってもらうという意味づけだ再認識できたということだと思います。企業でもそうですが、例えば人材戦略における価値の分配の議論は、獲得(人材採用)、インセンティブ(行動の動機付け)、報酬(結果への報い)の3つがあります。意味づけが異なると、適切な水準や分配のトリガー(前提)が異なります。

元々、給与が上がらず物価上昇が続き世帯ごとの余裕が減少していることに対する対応、超富裕層と一般世帯の格差が拡大していることに対する是正の観点で、税制の改革が進んでいたからこそ、富の再分配という意識が強すぎたのでしょう。つまり、報酬の意識が強かった。日本国民として頑張ってきているので、厳しい状況に対する対策として報いなければいけない。

「支援」という言葉を使いすぎることで、各世帯の厳しい状況に対する対策、つまり「報酬」としての富の分配というイメージが前提になってしまいます。

少子化「対策」において意識すべき視点

所得制限が撤廃されたことで、より獲得とインセンティブが意識されたのだと思います。児童手当もしっかりあるので、安心して子供を産んでください(獲得)、そして子育てにしっかりお金を使ってください=子供の成長への投資(インセンティブ)、ということなのかなと思います。

次の議論は、では支援(報酬)ではなく、「獲得」や「インセンティブ」であるとすると、どういう設計や水準が妥当であるのかということが議論されることになります。これこそが「異次元の少子化対策」としての実効性や設計を評価する上で欠かせない視点ということになろうと思います。

支援(報酬)であれば、正直金額は少額であっても意味をなします。逆に急激な金額増加をしてしまうと、「おいおいちょっとまってくれ」ということで逆の意味で不公平が発生してしまいますし、国の場合はバラマキと揶揄される結果に陥ってしまいます。

では、「獲得」や子供の成長や子育てに対する「インセンティブ」と考えればどうでしょうか。夫婦共働きが当たり前になる中で、どれぐらいのインパクトがあれば、それが実現できるでしょうか。

当然ですが、支援ではありませんので、具体策は金額のバラマキに限りません。企業の人材育成プログラムや福利厚生の設計と同様に、単純な給与に現れない施策を含めたパッケージが重要になります。どういう企業であれば、皆期待される働きをしてくれるだろうか、この企業で気持ちよく働き、この企業に残ってくれるだろうか、という問いです。

国民が選択する時代を意識した設計を

今は、言語の問題で縛り付けているため、日本人の大半が海外で働いたり、海外に住む選択肢が取れる人は稀です(※引退世代の一定の富裕層は一時東南アジア東への移住がありましたが、これは各国の所得差と一定の富の蓄積が前提でした)。

ただ、少しつづですが、大学前から海外で教育を受けることは当たり前になり、国内市場が縮小することを前提に海外での職務経験を積む層も、高学歴・高所得層ではどんどん当たり前になってきています。若い世代も日本に依存し続けることのリスクも徐々にですが意識されてきているとすると、もう少しすれば日本で学ぶべきか、働くべきか、住むべきかというのが最もプリミティブな国民一人一人の問いになってくるでしょう。

そうなった時に、当たり前のように日本国という企業が選択されていた時代から、他にも魅力的な企業がいくらでもあるので、自分に合った国を選びますという「選択の時代」がになってしまうとどうでしょう。

一部他国に対して、国策が中途半端で合ったりスピード感を欠いてきたのは、まさにこの点だと思います。日本が終身雇用という形態で「退職や転職という選択肢は与えられていない」という前提で、人的資本を考えていた構造と同じです。

他国は移民を含めて、小国であるほど、いかに自らの国を魅力的にして、残ってもらうか、入ってきてもらうかということを真剣に考えます。まさに、スタートアップ(に限りませんが)が人材獲得のために知恵を絞って、カルチャーやミッション、そして報酬体系について悩み続けている姿と重なります。

「異次元の少子化対策」はどうあるべきか

こういう風に整理した場合、金額感など含めて、元々の児童手当等の水準を一度忘れ去ってしまう必要があると思います。アンラーンしないといけません。

状況認識や意味づけを正しく再設定すること頃から始めるべきです。その目的に見合った設計や水準になっているかが点検されるべきでしょう。そして、「異次元」の施策であればあるほど、大きなリスクをとって望むものでしょうから、その効果に対する目標設定と測定(モニタリング)が極めて重要になります。

企業経営では当たり前のことですが、特に重要なものは「目標設定」だと思います。効果測定は当然なされることは期待されます。人口が増えているか、出生率が上がっているか、どんな指標を見ても一目瞭然だからです。ただ、全体の効果測定だけではなく、どの施策が具体的に効果が高いのか、といった解像度の高い形で測定していうことは極めて重要であることは言うまでもありません。

「目標設定」ですが、これはなかなか設定するのが難しいため、どうしても曖昧になりがちです。ただ、これを曖昧にしてしまうと、そもそも「異次元の少子化対策」の中身を評価することもできませんし、効果は測定できたとしても、必要な目標に対して十分かが検証されない結果となってしまいます。

先日、Yahooニュースでも子供一人1000万円給付というのが話題になっていました。一見すると、無茶苦茶に見える人もいるかもしれませんが、果たしてどうでしょうか。子供を産むつもりがない、結婚するつもりがない人にとって、どれぐらいの水準であれば、行動を変容させることができるでしょうか。

「増やす」と「育てる」のバランスを考える

スタートアップの例を取り上げてみましょう。創業当時のスタートアップにとって大事なのは、人材獲得です。なぜならば、最初は多くの場合、自分一人しか会社に存在しないからです。だからこそ、頑張ってもらうとか、育てるとか、報いるとかそう言う議論の前に、まず仲間になってもらえるかを中心に考えます。仲間になってもらうために十分な形はどう言うものか。だからこそ、創業株の一部を譲渡したり、多くのストックオプションを付与したり、成功した場合には億万長者になれるような内容を準備するわけです。

では、企業が軌道に乗りグロース期に入ってきたらどうでしょうか。創業時に比べて、企業も多少は安定感が出てきていますし、その企業で働く魅力も高まってきています。現金報酬も少しつづ引き上げ、処遇も改善していることが多いでしょう。人材獲得もまだまだ課題ではありますが、創業時よりは一定の人材獲得をする仕組みは構築できていると考えて良いでしょう。そうすると、より成長を実現する可能性を高める、インセンティブの意味づけが重要になってきます。

言い換えれば、獲得した人材に、できる限り頑張ってもらって、能力開花を引き出し、最大の結果を目指すフェーズです。人的投資、人的資本の考えが重要になるわけです。つまり、獲得から「生産性」「効率性」を高めるために人材を「育てる」視点が重要になってきます。フェーズにより目的の重心が変化していくのです。

さて、日本の状況はどうでしょうか。戦後から高度成長期にかけては、人口増加時代でした。だからこそ、獲得の重要性は相対的には高くなく、先ほど申し上げたように、他国という選択肢が実質なく、しかも30年前にはJapan as a No.1と言われるほど、最も有望な国であったため、人材を引き止めたり獲得することの意味づけはほとんどなかったと言えます。

では、今はどうでしょうか。子供は減り、生産人口は減少するばかりです。「より希少」な人材が、より現実的に「選択する」時代なのです。

まだスタートアップの創業期ほど極端な状況ではないのかもしれませんが、今、我々が置かれている状況を正しく認識しなければ、人材獲得戦略は効果が出ません。

よくスタートアップからも、「良い人材が獲得できません」という相談を受けますが、どういう設計や水準にすべきかの議論の前に、自社の状況を正しく理解できているかが極めて重要になります。加えて、それを「運用する仕組み」が存在するかも重要です。仕組みとは成長できる仕組み、活躍できる仕組み、正しく評価される仕組み、等々です。

我々も今の日本の状況を正しく理解し、適切な目標設定を行い、それに効果がある政策になっているのか、そういう視点で「異次元の少子化対策」を議論すべきです。前より良くなったと言うのは、実は意味はあるように見えて、意味はないのです。

それは、スタートアップが「報酬を5%引き上げたけれど、人材獲得の成果に繋がらない」といっている構造と同じです。

長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。いいね、シェア、コメントなど、大変ありがたく存じます。

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