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旨いラーメンを食べ続けるために〜ラーメン屋に見る日本のマクロ経済〜

カバー画像は私のお気に入りのラーメン屋のラーメンの写真です。頻繁に通っているので、ちょっとした違いも気がついてしまいます。二杯のラーメン、実は全く同じラーメンになります。あまりに変わってしまったので、以前撮影した写真を探し出して見比べたものになりますが、皆様違いがわかりますか?

左は9ヶ月前に撮影したものです。ラーメン一杯980円。写真は大盛りなのですが、当時は大盛り無料でした。

右は直近撮影したものです。ラーメン一杯1,080円。大盛りが有料になり、写真の大盛りラーメンは1,230円になります。詳細は忘れましたが数ヶ月ほど前に値上げしています。値上げ直後は見た目にわかるほどの違いはありませんでした。違いは比較的最近のことです。


過去2年のマクロ金融動向

株式市場が変調を見せ始めたのが、2021年末ごろから。ちょうど私もリンクのような記事を書いた頃です。グロースに対して異常なほどのプレミアムが付いていた時代が終わり、効率性、収益性、安定性へと振り戻しがありました。

実際の株価インデックスは一年前の2022年秋頃に底打ちし、再度上昇局面に入りました。

2021年末にかけての株式市場の調整を受けて、2022年初から金利調整の議論が始まり、世界が一気に金利高の流れになってきました。日本では2022年2月ごろから円安が一気に進行し、その後長年のデフレ局面から遂にインフレが始まった、そんな風に世界のマクロ経済に揺り動かされる形で、大きなうねりがやってきました。

コロナの状況変化によるインバウンド復活

コロナ対策の大きな転換期は4月末発表されました。GWから5類で変更になり、円安により2022年10月ごろからジワジワと戻り始めていた外国人観光客が、2023年一気に爆発しました。先月10月では月次で250万人とコロナ前の水準まで回復してきました。

2022年は円安から半年ほどのタイムラグでじわじわ増加へ
2023年になり一気に増加。円安前の150倍の水準まで回復

インフレ、円安により購買力が高まった外国人観光客の増加、ということで飲食店などはコロナ期の厳しい時代(※助成金の話はおいておいて)から、大きく潮目が変わったわけです。これだけ聞けば、飲食店はウハウハ、我が世の春のように思いますが、大きく2つの課題が横たわります。

飲食業界を襲う2つの課題

2つの課題。それは人材不足と原材料高騰です。飲食店の2大コストである人件費と原価が高騰しているわけで、これは飲食店経営においてコスト面では最も苦しい事態です。

人材不足は各種報道の通り深刻で、宿泊業界含め人材がいないため稼働率が確保できないことが大きな課題になっています。しかも、この人材不足は人口減少社会日本において、今後改善する見込みはなく、ファンダメンタルは悪化する一方なわけです。

人材不足はそもそもいない、というのが最大のネックですが、加えて時給換算の人件費も高騰しますし、そもそも獲得コストが上がっているため、採用も含めたトータルの人件費は高騰しています。だからこそタイミーのサービスが大きな力になっているわけです。

とはいえ、ラーメン屋のようにラーメンを作る部分はノウハウもスキルも必要です。また簡単そうに見える仕上げや、最終処理、盛り付けも正直かなりセンスや属人的なスキルの違いがある部分です。遠い昔、レストランのキッチンに立っていたこともある私ですから、その違いはないとは言わせません(笑)

原材料の高騰。これは円安に関わらず、コロナ以降さらに加速しているグローバルの課題です。日本はそれに加え、2022年以降は円安の効果のダブルパンチを食らっています。円安になってから、実際の取引価格に反映される前のタイムラグはあったと思います。2022年以降、じわじわと値上げをする飲食店が増えていたと思いますが、まだお客様の戻りも十分ではなかったこと、また値上げによる客離れを恐れ、恐る恐るの値上げだったと思います。

ただ、2023年以降はもうそうも言っていられなくなり、ここ半年でも大きな値上げに踏み切る飲食店が多数発生していると実感します。

飲食店を悩ます経営課題

ここまではよくメディアでも報道される話で、そうだよねーという話だったかと思います。では、インフレなんだし、飲食店どんどん値上げしていけばいいよねー、と思うかもしれません。実際、海外旅行をしたら円換算でとんでもなく高いランチだった等の投稿はこの1年半ほど投稿を見ない日がないくらい当たり前です。まだまだ日本は安いんだから値上げ余地はいくらでもあると。

単純に考えれば、その通りなのですが、さて冒頭のラーメン屋はどうでしょうか。

ちなみにこのラーメン屋はかなりの人気店です。いつも混み合ってますし、外国人観光客もいらっしゃいます。

であれば、いよいよ値上げ余地があるよねと思うかもしれません。実際、今年冒頭の通り25%程度の値上げを実行しています。それでも客足は見た感じは途絶えるようなことにはなっていません。

その後、写真の変化があったわけです。これもう少し解説しておきますね。変化としては大きく3つあります。

1)チャーシューが質、サイズとも大幅改悪
これが最大のガッカリポイントなわけですが、元々は低温調理でレア、かつ大判のチャーシューで器に横渡るように盛り付けられていました。これが、素材も変わり、調理法も変わり、サイズも小さくなり、もう入っているかわからない、薄く小さなレアでもないチャーシューになってしまいました。原材料も調理コストも全て大幅なコストカットが入ったと思われます。

2)スープの仕上げがイマイチ
アクも少なく透明感のあるサッパリしたスープでしたが、アクにまみれスープにも濁りがありました。聞いてみると、スープの返しも変えたようです。返しは原価低減が理由かはわかりませんが、十分に教育された人材が調理したり、品質のチェックをする体制は劣化したと考えて良いかと思います。人材確保の難しさ、人件費の高騰が背景にあるでしょう。(※ホールの人材はいつも新しい人がいるのは言うまでもありません)

3)盛り付けがイマイチ
ラーメン、麺を綺麗に菜箸を使って盛り付けられるかはポイントだと思いますが、ざっくり盛り付けになってしまっていました。紫玉ねぎもバラバラと浮かぶ感じで、彩りの観点でも大きく見劣りがしてしまいます。これも人材の問題に関係しているのでしょう。

さて、これらの課題、どうすれが乗り越えられるでしょうか。もう少し人件費を上げれば良い、原材料費を上げれば良い、それを価格転嫁して値上げすれば良いと思いますよね。

でも実際はそうはしていません。一度25%の値上げをしています。もしさらに値上げをしたらどうなるでしょう。元々980円だったラーメンが、さらに25%値上げした場合、1,550円程度になります。それでもいいじゃないかと思うわけですが、実際はそうはしないのです。流石に度重なる値上げでは、お客様が離れてしまうと言う判断もあると思います。加えて、1,000円から1,500-2,000円ゾーンになると、全く別の飲食との価格比較感が出てきてしまいます。

人気店だから値上げができるかというと必ずしもそうではない。他の価格帯の飲食店との比較感が今度は論点になってきます。同じラーメン屋との比較であれば、少し高くても食べてくれる人もいるでしょう。

これは人気店の話ですが、中には不人気店もあります。安かろう悪かろうでも、価格でお得感を訴求するお店もあるわけです。そうすると、流石に無尽蔵には値上げができないのだと思います。

だから、人件費はもうどうにもならないので、原価に手を入れるしかなくなる。そうすると、これだけ目立つほどの変化でもやらざるを得ないのだと思います。

旨いラーメンを食べられる日本であり続けるために

美味しいものを届けたいという飲食店にとっては、最も頭の痛い、苦渋の決断なんだと思います。1,500円でもいいから美味しいラーメンを食べたいと思う人にとっては、簡単にはそれが叶わない世界がやってきています。

思い切って、2,000円とかにしても、外国人は来るでしょうし、ラーメンに高いお金を払える客層は一定いるでしょう。それでも利益率が改善するわけでもなく、単純に売上が減って仕舞えば、それこそ人件費を回収することが難しくなります。一定、客層を絞るのであれば、利益率を上げらるかが鍵になりますが、この原価高騰局面ではこれが相当難しいわけです。

飲食店経営は、人気店であっても本当に難しい。今のマクロ経済環境を踏まえると、ミクロの努力だけではどうしようもないのだと感じます。たった一杯のラーメンですが、期待する品質を保つのは簡単ではなくなっています。高くても価格に見合った品質の「旨いラーメン」を食べ続けるためにも、日本の置かれているマクロ経済環境を改善していかないといけないと痛感した次第です。

それは単なる円高誘導とかそう言う話ではありません。産業競争力、各種自給率、金融政策、外貨獲得、色々なマクロ経済活動の総和を持って、ミクロ経済的に成り立つ「価格と品質」の均衡点が決まってしまいます

富裕層向けの超高額商品は、青天井に値上げすれば良いですが、飲食のように日々の生活に関わるような商品・サービスはそう単純ではありません。単純に値上げすればいいじゃないかという楽観論はもうなくて、飲食を含めた日本の品質の良さを日本にいながら実感をつづけるためには、楽観論は捨てて、ちゃんと未来向かってやるべきことをやっていかないのだと思います。

未来の子供達に、我々が感じている日本のよさ、サービス品質の安定、食べ物のおいしさ、いろいろあると思いますが、それらは当たり前のように残していくことは叶わないことを認識すべきだと思いました。

日本がミクロで感張ることに加えて、マクロ的にも世界的に競争力にある状況があったからこそ、実現できている絶妙なバランスなんだと思います。その絶妙なバランスで実現できていることを、当たり前と思うのは大きな誤解ですよー、ということで今日は締めたいと思います。

長文ありがとうございました。

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