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固定資産の減価償却~企業の収益性の判定時の注意点~

企業の決算書を読むうえで必ず知っておかなければならないのが減価償却です。
投資家が企業価値に目を向け始めた近年、キャッシュフローが重要性が叫ばれています。そして減価償却はキャッシュフローを考えるうえでも大事な存在になります。
本日は、減価償却の仕組みを簡単に解説し、企業の決算書を分析する人(経理担当者・投資家)向けに、その企業の収益性を検討するうえで大事になる減価償却費のポイントを解説します。


減価償却とは

減価償却(げんかしょうきゃく、英: depreciation)とは、企業会計における購入費用の認識と計算の方法。長期間にわたって使用される固定資産の取得(設備投資)に要した支出を、その資産が使用できる期間にわたって費用配分する手続きである。英語では、有形固定資産にかかるものを depreciation、無形固定資産にかかるものを amortization という。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

減価償却の仕組みを簡単な例にしてみました。

こんな設備欲しいなーと思いましたが、結局のところ、この設備を500円で買って、5年トータルで1,500円の売上が立ちますので、合計1,000円の儲けになります。
一方で、このキャッシュフロー・利益を5年の各期にばらすと、各期の実際のCashの動きと期間損益(毎期の儲け)には違いがあることがわかります。その違いの要因が減価償却です。

実際のCash In/Outは事実ですが、減価償却費は均等按分されており、ここには「機械は5年均等に価値が減耗していく」という前提になっています。これが本当か否かは実際にはわからなく、もしかしたらはじめの2年で一気に摩耗し、残り3年はゆっくり摩耗していくかもしれません。5年均等に摩耗していくという仮定に基づいて計算しているので、そこには経営者の主張が含まれます。

利益には減価償却という経営者の意見が含まれているため「利益は意見、キャッシュは事実」と言われています。

会社の収益性を見るうえでは減価償却に注意が必要

では、企業の決算書を見るうえで、減価償却の項目で注意すべきポイントは何でしょうか。
以下の2つの表をご覧ください。上の表では、期を追うごとに利益は増えています。これを見てこの会社はどんどん収益性が増していると考えてもいいでしょうか?答えは否です。減価償却費を定率法(償却初期にたくさんの減価が生じる仮定)で計算されているため、初期にたくさんの減価償却費が計算されているのみであり、利益が増えているのは期を追うごとに減価償却費が少なっているだけであり、毎期の資金獲得能力は一定です。減価償却方法に定率法を採用している会社の収益性を利益で測ることは困難です。そのため、償却前利益(EBITDA)であったり営業CFで収益性を測ろうというわけです。日本ではまだまだ定率法を採用する会社が多いため、企業の収益性を検討する際には注意が必要です。

税務の減価償却と会計の減価償却(日本基準・IFRS)

定率法は企業の収益性検討をする上では注意が必要だと書きました。そんな不利な点がある定率法による減価償却がなぜまかり通るのか。定率法には明確な税務上のメリットがあるためです。上の定率法の会社のPLを見ると初期の利益が少ないことがわかりますが、これは初期の税金負担が低いことを表しています(初期の利益が少ないので税金も少ない)。5期合計で考えたら一緒じゃんと思う方はもいるかもしれませんが、初期の税金によるCash流出が少ないと、企業に留保された資金が新たに事業に投下され、さらなる利益・Cashを生むことになりますので、明確に優位です。定率法は税務上の恩典みたいなものなので是非活用したいです。

では会計上はどうか、会計上の話は日本基準とIFRSの2つの会計基準から解説します。日本基準上の減価償却方法は会計方針とされています。一方で、IFRS上の減価償却方法は会計上の見積りとされており、両者の考え方には相違があります。
会計方針とは定額法と定率法のいずれかを選んで毎期継続してねというものです(要するにフリーチョイス)。一方の会計上の見積りでは資産の減価のパターンを調べて、実態に則した減価償却方法を採用してねというものです(フリーチョイスではなく実態に則して1つに決まる)。資産が初期に急激に減価するというのはなかなか説明が難しく(普通は時の経過とともにストレートラインで減価していく)、それゆえIFRS適用企業は定額法を採用しているケースが大半だと思います。税務メリットを取るか、経営管理の高度化をとるか、はたまた日本基準は定率・IFRSは定額と煩雑な二重帳簿を取るかなど、上場企業の経理部門は頭を悩ませます。

減価償却費の加味して簡単に企業価値算定してみよう

もし経理部担当者のあなたが上司の特命を受けて、「A社を買収しようと思うんだけど」と相談されたら?どうするか、また投資家のあなたがA社の株式価値を求めよう(株価との乖離を見よう)とするときにどうするか。めっちゃ簡単な方法を紹介します。実際の買収検討は専門家も関与させてもっとちゃんとやるはずですが、上司に「簡単でいいので、どう思うか感触だけ教えて?」とか言われて1時間くらいで試算するレベルの単純化したものです。ただ、高いのか安いのか感触はつかめるので、知っておくと意外に便利です。

上の例はEBITDAマルチプル法というもので、検討対象企業の事業に類似性のある上場企業の企業価値(EV)とEBITDAの比率を算出し、対象企業のEBITDAに乗じることで簡易的に企業価値を算定する方法です。前のパートで書いた通り、収益性を測るうえで減価償却費の影響を除くため、対象企業も類似上場企業もEBITDAを使用します。その企業のファーストインプレッションはこの方法で得るのが簡単でいいかもしれませんね。

まとめ

減価償却費は利益とキャッシュフローをつなぐものの1つであることがわかりました。他にも運転資本の増減(売掛金や在庫の増減)も利益とキャッシュフローの差になる項目ではありますが、利益に減価償却費を足し戻すことで簡易的にキャッシュフローに近づけることができます。

近年、利益よりもキャッシュフローの重要性がクローズアップされます。投資家が企業価値に目を向け始めていることが大きいと思いますが、本日取り上げた減価償却はキャッシュフローを理解するうえで重要な項目になります。

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