見出し画像

青黒

 ただのゴムのはずなのに、そのmono消しは生暖かくて甘くて僕をどうしようもなくさせた。西陽がそれとなく支配するこの教室で、外からは運動部の声が聞こえて、周りには誰もいなくて、僕はそれを右ポケットに入れて教室を出た。

 盗んだmono消しからは君の匂いがした。間違いなく君の匂いだった。マラソンの時間に君を追い抜いた時の、紛れもなく君のDNAから流れ出る匂いだ。市販の柔軟剤なんかじゃ生み出せない。君だけの匂いだ。僕はそれを鼻につけたり口に含んだりして、右手を動かした。君と一体になれた幸せは単なるオーガズムとは違う、とても黄色いものだった。すぐに射精した。

 目をつぶって彼女を思う。ユニセックスな筆箱にユニセックスなリュック、膝にかかるくらいのスカート丈に膝下のハイソックス、僅かに見える君の素足の一部は白くて、膝小僧が小さくて、つるんとしていて、その感触、手触りを何度もイメージした。

 嫌な噂も思い出す。そして何かに思い当たる。消しゴムのカバーをそっと外すと、知らない男の名前が書いてあった。少なくとも僕の名前ではなかった。僕は窓を開けて怒りを叩きつけるようにそれを投げた。夜だったからどこまで行ったのかはわからなかったが、どこかの一軒家の屋根の上で跳ねる音だけが微かに聞こえた。深夜2時の、真っ暗なはずの空は、そして間違いなく真っ暗であったに違いない空は、僕の記憶の中では限りなく青色だった。星は見えない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?