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みんなのミュシャ/すなわちオンリーワンのミュシャ

お盆休みですね。これと言って予定がなかったので、久しぶりに美術展に行ってきました。みんな大好きアルフォンス・ミュシャの展覧会です。

https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/19_mucha/

没後80周年だそうですが、なんかお題目つけられながら毎年やっている気が……人の多さもやむおえなし、良き展示でした。ただ、モヤッとする部分があったのも正直なところです。

今回の展示の特徴としては、ミュシャ本人の作品にとどまらず、「ミュシャに」影響を与えた作品やモチーフ、「ミュシャが」影響を与えた作品を併設することで、彼の作品の世界観と創作理論の秀逸さをあらためて伝えていることにあると思います。この試みについてはちょっと功罪両方あるわねと思ったのが正直なところ。というわけでこのモヤッとする部分を文章にしてみようと思いました。以下、展覧会のネタバレに相当する記述があるので、気にする方はお引き返しください。

・シンプルで明快な展示順

展示は、ミュシャが一番最初に描いた作品であるという、キリストの磔刑図から始まります。ここから、影響を受けた画家やモノ(七宝焼など)を順に並べ、最も有名な円環モチーフとQ型方式の図像に至り、最後に、その図像に影響を受けた近現代の作家(CDジャケットや少女漫画など)の作品群が展示され、終了となるわけです。シンプルに「ミュシャの誕生」「ミュシャ作品の完成」「その後の影響力」と時系列3セクションにわけて展示が置かれてます。(実際はもう少し細かく5セクション扱いでしたが)明快なのはとてもいいし、各セクションの内容も魅力的でした。特に「誕生」部分は、ミュシャのなかにも他の西洋絵画のご多分に漏れずキリスト教の影響等、普段無教養な私などが意識しないものを丁寧に解説しており、とても興味深かったです。そこから完成された作品群の魅力は言うまでもなく、そこに眼を通したあとに「その後」のミュシャフォロワーたちの作品を見ることで、彼らの内側に潜むミュシャを確かに垣間見ることが出来ました。これもとてもおもしろかったです。……ではこれにて、みんなのミュシャ展、終了です。……うん。うん? 最後、ミュシャ以外の作家の絵で終わるの? マジで?

・副主題はオチ足りうるのか

はい、というわけで展示の最後が尻切れトンボだったので、ちょっとがっかりしたというだけですが、結構大きながっかりだったわけです。展覧会のタイトルからして、主題は明らかに「ミュシャ」本人の作品です。だけど最後のセクションは、ミュシャ本人の作品はほとんどありません。確かに、展覧会のサブタイトルは「ミュシャから漫画へ」とあるわけですけど。けど主役はミュシャでしょ?と首を捻ってしまいました。実際私が行った際には会場は多くの人に溢れていたのですが、最後のセクションだけ明らかに人が少なかったです。まあ、これだけで罪と断じるのは浅慮だと思いますが、それでも「ミュシャの展覧会」のオチ、大トリがミュシャ以外の別人である、というのは割と思い切りのいい決断だなあとは思いました。私個人としては、展覧会が一人の作家のものであるなら、その作家の会心の一撃をオチに持ってきてほしい、美味しいものは最後に食べたい派です。

・つまるところ、ミュシャにはそうそう勝てない

いや、勝ち負けではないのは承知の上なのですが。展示順が今回の展覧会の意図通りであり、今のまま展覧会の「オチ」としての強度を上げるなら、ミュシャよりミュシャらしく、ミュシャ作品を超えるフォロワーの超大作が必要だったんだろうな、と個人的に考えています。ミュシャの技法の美しさはたしかに現代日本の漫画にまで息づき広がっていますが、展示のオチで彼らの作品が本人の作品と比較された時に、そこを超えていくことはない、勝てない、と比較された結果が、あの最後のセクションにおける人の少なさだったのでは、と思わずにはいられないわけです。もしかしたらそれは、展覧会に足を運んだ客よりもミュシャを愛しているであろう、フォロワー作家たち全員をないがしろにする形にすらなっていないか、とまで思ってしまうわけです。

というわけで、今回の展示順の意図はわかりますが、愚直にその意図のまま作品を並べたのはどうだったのか、という疑問がモヤッとポイントでした。ミュシャに並び立つほどの比較作品がなかったならば、ミュシャの作品と並べる形で紹介する等、やり口はもう少しあったのではというのが素人なりの所感です。もちろん、フォロワーとされた人たちの作品郡は、それ単体としてはどれも素晴らしく魅力的です。けれども、ミュシャとの比較で出されてしまうとどうしても作品の意味合いが変質してしまうでしょう。まあ、逆説的にミュシャ本人の作品の力強さを物語っていることにもなるのですが。

・とはいえ、魅力的な展覧会である

散々ネガティブなイメージを書きましたけど、全体としては非常に良かったので皆様夏休みにぜひどうぞ。おすすめできる展覧会です。美術展に親しみのない人でもミュシャはとっつきやすいと思われますので。

余談

私個人がミュシャの絵で想起する漫画といえば、カードキャプターさくらです。直接の影響があるのかは知りませんが、クロウカードの絵や愛蔵版の表紙なんかをみると……どうです?


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