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おのみちのねこのほそみちなんのみち

 

 女二人で尾道へ行った。

「この細道も落ち着くわね。道端に小さな猫の置物がある」

「それ福猫だよ。見かけたら幸福になるらしい」

「そうなんだ、あっちにもいるわ」

「でも薄暗くなってきたしそろそろ……」

「ねえ、福猫をもっと見つけようよ」

「マジで暗くなってきたよ。帰りましょうよ」

「また見つけた。ほらあそこ」

「本当に真っ暗になったよ、誰もいないよ」

「もうちょっとだけ」

「ちょっと置いて行かないで……」

 にゃーん、 

 にぃーん、 

 にょーん……

 暗い中、つんざくような猫の鳴き声がした。遠くでも、すぐ近くでも。私たちはさっと身を寄せ合った。私の腕に道沿いの壁が当たる。次に足元でとん、という音がした。私たちは抱き合ったまま飛び上がる。

 目の前に背の高い猫がいる。暗闇なのにはっきりと見える。その猫は大きな耳が四つあった。目は金色で体毛は銀色で長い。首にはネックレスをしている。呼吸をするごとにタテヨコ大きく息づく。身体周りに長い尻尾がぐるりと輪を描いている。尻尾の先が三つに裂かれていて、怖くなった。猫は私たちに向かって人間の言葉で話しかけた。

「その壁伝いに十歩数えて歩け。そうしたら抜け出せる」

「ここは一体」

「少なくとも人間の来るところではない。去れ」

 はっとすると足元が言えないぐらい私たちはびっしりと猫に囲まれていた。大きな猫、小さな猫。皆私たちを見上げている。急に空気が重くなってきた。足元が痒くなってきたので下を見ると猫の毛が私の身体に生えてきている。友人の顔を見ると猫になりかけている。大変だ。

「帰ろう」

 壁使いに十歩数えて歩くと元の通りに出た。まだ夕暮れだった。観光客が猫の細道を歩いている。私たちは一体どこにいたのだろう。


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