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世界選手権2023参戦記

※読みやすくするために、2023年11月に書いた『最終報告』と『参戦記』を別記事として分けました(2024年5月)。


世界選手権、参戦記

世界選手権のまとめを、なかなか書きはじめることができませんでした。伝えたいことはあるのに、それを文章にできない。いきなりたっぷりと言い訳になりますが、世界選手権についてを言葉にするには、やっぱりひと月くらいの発酵期間が必要だったみたいですね。

出発までの日々

この度の支援活動が発足したきっかけは、事務局からの素敵な投稿がありますので、まずはこちらからどうぞ。

こうしてはじめていただいた支援活動でしたが、実際の運営は順調なものではなかったと思います。
あえて悪い言い方をすれば「選手が大会に行くためのお金を出して下さい、宣伝効果もバックもありません」というのは選手側のエゴでしかありません。それも、地元出身の選手でもありませんから、支援する理由がありませんよね。今だからこそ言えますが、正直、僕も遠征資金を集めていただくことを心苦しく感じていました。
なんとか自力で資金調達できないかと、ハイシーズンのガイド業で季節労働をしたり、協賛企業(スポンサー)集めに奔走しました。それでも、円安と物価高騰で遠征に必要な費用は以前のほぼ倍の額に膨れ上がっていました・・・僕一人だけではどうにもなりませんでした
なんとかご支援でフライトチケット代とボート積載オーバーチャージ分だけでも集まったのが、出発の一ヶ月前あたりだったと記憶しています。すでに支援・応援して下さっている方がいるのに、後戻りはできません。肝心の僕が迷っている場合ではなかったのです。そこから僕も日々の練習と、ご支援集めにシフトしました。フリースタイルカヤックを知らない方にも関心を持ってもらいたくて、いっぱいnote記事を書いたりYouTube動画をアップしたのもこの時期です。

不安のままで出国

とにかく資金が足りません、九州のメイン空港と言えば福岡空港ですが、福岡空港の周りの長期駐車場の相場は約1000円/1日です。ボートを運ぶためには空港まで車で移動するしかありません。そこで、佐賀空港から出発することにしました。佐賀空港は便数が少ないのですが、なんと空港の駐車場が何日間停めても無料です。この節約方法を使わない手はありません。

佐賀空港

佐賀空港⇒羽田空港⇒アトランタ空港、資金の目途もたたないまま見切り出発したわけですが、ここから幸運が重なっていきます。カヤックギアは飛行機に搭載できる荷物の通常サイズをオーバーしています。そこでスポーツエキップメントという扱いでオーバーチャージ(追加料金)を支払ってボート等を載せてもらいます。海外遠征で毎回苦労するのがこの交渉です。地上受付の航空会社スタッフさんがNoと言えば、最悪カヤックが載らない場合だってあるのです。とにかく制限重量オーバーしないようにだけ細心の注意でパッキングを済ませ、カウンターに持ち込みます。コツは日の丸が付いた代表ユニフォームを着て搭乗手続きをすることです、なんとなく「国際大会に行くから、この荷物ぜったいに必要なんです」感が醸し出せます(効果があるかは不明です)。
まず佐賀空港。国内線と国際線では制限重量の上限が異なり、国内線は3kg分減らす必要があります。カウンターで機内持ち込み荷物へ中身を移して調整しました。すると、その様子を見ながら対応して下さった受付スタッフさんが「重さ大丈夫になりましたよ」という感じでスムーズにボートを載せてくれました。
この調子で羽田空港、今度は国際線のスタッフさんです。「中身はサーフボードですね?」「はい(そうですとも、違いますとも言わない)」こういう時は向こうの出方を待ちます。「長さは何インチかわかりますか?」「え・・・インチはわからないです」「あら、私もわからないわ。大丈夫、長い方で入力しておくわね」と、ボートを預かってくれました。なんと、オーバーチャージの請求がありません! 嬉しい♪
今回、予算として航空会社から案内されていたオーバーチャージは個数追加$100×2とサイズオーバー分で追加$175。節約手段として、パドルを先発組に預けて3人まとめて割り勘にしていたので、その個数チャージ分($100の1/3)が$34で済みました。他の荷物は極力減らしてボートの中に入れ、個数追加をなくしました。そして運良くサイズオーバー分の請求がなし。予定よりも計$341の節約です。当時のレートが153円/1$だったので、かなり大きな金額です。また、現地入りしてから書いたnote記事で追加のご支援も増えていましたので、ここで現地の宿泊代までの目途がついたのです。これでどれだけ安心できたことか。
そして、帰りの便では他の選手と荷物まとめでまた協力し、なおかつボートのオーバーチャージ請求が帰路分もなく(幸運すぎる)$375まるまる節約。そのおかげもあって最終的には現地滞在費用を含めた遠征費全額を、いただいたご支援でカバーすることができました!

大会期間

今回の遠征は、当初予定していたよりも現地滞在期間を減らしました。一泊の宿泊費が相当高かったためです。
僕が泊まっていた安宿は、徒歩で川に通っている全選手の中でも一番遠い宿のようでした。宿から重たいボートを担いで歩いていると「マジかよ! 川まで行くのかい、遠いぜメーン」と道端で声をかけられたり(ダウンタウンなのでけっこうビビる)、「どこまでだ? 乗ってきな」と夜に仕事帰りのピックアップトラックに拾われたりします(治安が良いわけではないので、ほんとは乗ったらダメ。乗ったけど)。スーパーマーケットも遠くて、かといってボートをどこかに置いて買い出しもできません(ホームレスが多く他選手のボート盗難がありました)。一旦宿に帰って、また街の中心に向かって歩いて戻ってから買い出しをするという。節約のためにレンタカー、レンタサイクルを借りなかったために、ひどいくらいに歩きました。これまでの国際大会の会場は比較的田舎が多くエリアもこじんまりとしていたし、治安が良かったのですが、今回のコロンバスのような都会の会場は初めてでした。
あと滞在期間が長いと他国の選手とも仲良くなるのですが、今回はすぐに大会期間に入ったのでそういった交流が少なめでした。

公式練習

僕は男女K-1日本選手の中で最後の現地入りになりました。
現地に入ってすぐに大会期間となり、公式練習がはじまりました。公式練習というのは、何ヵ国ごとかにまとめられて一時間の限られた練習時間内でしかフィーチャー(競技で使うスポット)での練習ができなくなる期間です。公式練習は試合形式なので1本45秒しかフィーチャーに乗れません。通常であれば、公式練習以外の時間帯(早朝や夕方)で練習ができたりするのですが、今年は記録的渇水のため公式練習の時間帯にしかダム放水がありませんでした。だいたい一日に3本。5日間で16本×45秒しか練習ができませんでした。
本来、初めてのスポットで練習する時は、まずはそのスポットにたくさん乗ってウェーブやホールの形状に慣れるのが最優先です。その中で、試合に使える持ち技をピックアップしていきます。そうやってある程度のルーティンがかたまった上で公式練習に入るのが理想です。今大会のフィーチャーは慣れればとても良いウェーブのはずですが、クセとして周期で波の形状が常に変化します。いきなり公式練習で乗ろうとしてもエントリーでフラッシュしたり、周期に翻弄されて45秒が終了してしまいます。貴重な一日分の練習がそんな有様で終わっていきます。次の日に向けて練習のビデオチェックをしようにも、撮れた本数が少ない。フィーチャーの対策を見出すための情報が少なすぎるのです。
あっという間に公式練習5日間が過ぎていきました。過去に長期滞在した国際大会であれば、たくさん練習しようとして身体がボロボロになり、そこをメンタルでのりきる感じでした。今大会は身体が疲れないかわりに、あまりにも練習ができなさすぎて先にメンタルがまいりました。あまりの手応えのなさに「もういいか」とあきらめたくなりました・・・。そんな時には、皆様からいただいたご支援でこの地まで来れたことを思い出して、気持ちの糸が切れないように踏ん張りました

公式練習中、お気に入りの一枚!
白い波を背景に、 まるで日の丸を体現しているかのよう

このままでは本番で何ができるかすら検討できません・・・少ない動画を何度も観直し、あとは他の選手たちのプレイを観察して、自分にできるルーティンを模索するしかありません。ちなみに、試合前に組んだルーティンの説明がこちらです。

僕の得意技はバックスタブです。今のコンペシーンでは高得点ではないものの、後ろ向きから打つ技なので70点、エアボーナスが付けば100点となかなかに戦闘力のある技です。短時間で左右を揃えれば、高得点技と同クラスの点数が得られます。高得点技の持ち技の種類が少ない僕にとっては、試合のルーティンで必ず主力として使う技です。この技で何年も代表選考会を戦い抜いてきました。何千回、何万回と練習してきたバックスタブ、身体に染みついているので試合でも安定してメイクできます。再現性が高く(失敗しない)計算できる技、頼れる相棒です。
ところが、5日間の公式練習中で一度もバックスタブを打つことができませんでした。正確には、バックスタブの前準備、良いポジションで後ろ向きになるセットアップが全くできなかったのです。それほどウェーブに慣れる時間が足りませんでした。これはもう試合で使えません。

左ブラント
デカく打てる反面、公式練習ではことごとく着水に失敗

それから、左ブラント。ウェーブの右側のショルダーは落差があって技は出しやすいのですが、ここで打ったブラントで毎回着水を失敗しました。こういった仕上がりのまま、大会当日を迎えました。

開会式、日本選手団

いよいよ予選、本番

予選1本目直後、短時間で水分補給と
チームメイトから客観的な分析を聞く
エアスクリュー
必ず打たなければならない高得点技
この技が予選3本目の明暗をわけた・・・

予選のプレイ内容については詳しい記事をこちらに用意しています。演技の解説に加えて、その時どういう心境でプレイしていたかがわかります。ぜひご一読下さい!

自分の意志で攻める姿勢を貫いた納得感と、少なくとも1本は恥ずかしくない演技ができた安堵で、試合が終わった直後、僕は清々しい気持ちでした
ところが不思議なもので、人間には欲があります。後から試技した選手たちの得点が予想よりも伸びていかないので、「あれ? もしかしたら、2本上手くいっていれば予選を通過できたかも」と、だんだんくやしい気持ちもわいてきます。とはいえ、けっきょく終わってみれば上位選手たちの得点にはとうてい敵いません、完敗でした。40位、予選通過ならず。
こうして、僕の世界選手権2023は幕を閉じました

ありがとうございました

スポンサーさん含む、たくさんの方からのご支援と声援にこの度の世界選手権参戦を支えていただきました。
学生時代の恩師、先輩、同期、後輩。アウトドアスポーツ、パドルスポーツを通じて繋がった日本中の遊び(&仕事)仲間たち。阿蘇エリアに引っ越して、たった一年で迎え入れてくれた地域の方々。この場で全ての方をご紹介して、お礼を伝えることができないのがとても残念ですが、せめて一部ですが紹介した記事をこちらに並べさせて下さい。

最後になりますが、
支援活動の運営にご協力いただきました宮原一番街を中心とする事務局スタッフの皆さんに、心から感謝申し上げます
何か本気でやりたい事がみつかった時に、僕の姿を思い出して下さい。やりたい事をはじめるのに、遅いということは絶対にありません。そして、その気持ちが周りに伝わったら、こんなに素敵な人たちとの繋がりがそこにはあります。僕以外にも、また何か新しいチャレンジへとつながっていくことを期待しています。

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