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知りたくない事(4)

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無事

 全員分のホットドックを作り終え、アルミ箔に包んでBBQグリルの蓋をして火を小さくして保温しておいた。案の定最後に千代が起きてきた。千代が起きてきたと同時に、BBQグリルを完全に密閉して消火をする。蓋付きのグリルは便利だ。
 食べ終わった人から順に片づけをし始めた。俺は何とも言えない疲れがありサボらせてもらおうと思ったがそうはいかない。会計の作業が残っている。全員分で割ってお金を回収した。これですべて完了だ。
 BBQも十分楽しめた。幹事と言うわけではないが食材を用意した側とすると誰もお腹を壊さなかったのが一番良いことだった。これは本当に毎回不安でそのストレスでこっちがお腹痛くなりそうでもなる。

珈琲


 「じゃあ東照宮に行こうか! 朝、そこに来ているキッチンカーのコーヒーがおいしかったから帰りにお店に寄って行こうかなと思ってるんだけどどうかな?」
もちろん皆賛成だった。

「じゃあ、私さっきカード貰ったから場所分かるし先頭走るね」 と井沢さんが先頭を走ろうとした。俺は覚えてるぞ… あの車の後ろだけはだめだ。 カードを奪いとって「井沢さんの車ナビついてないから俺が登録して前行くね。井沢さん一番後ろでカード持って来てよ。はぐれた時何とかなるでしょ」と言い俺が先に行くことにした。
車で10分も走ったら着いた。田舎に有りがちなログハウス風のカフェ。ルノーエクスプレスも止まっている。テラスも有ってそこに7-8人は座れそうで安心だ。
木の建付けの悪くなって重たいドアを開けると
「こんにちはー」と言って千代と並んで入った。

「あ! 来てくれたんだ! さっきの彼女じゃなかったの?」 良くも悪くも田舎だ。都会ではこんなことを言う飲食店は3秒でつぶれるか、俺みたいな男に燃やされると思っている。

「違うよ。直ぐ来ると思うけどこっちが彼女だから」 と笑った。

「人数多いと外のテラスになっちゃうけど大丈夫?後でオーダーお伺いするんで座っててくださーい」
中を見渡すと小さいながらも焙煎機もあり本格的だ。確かにコーヒーも美味しかった。テラス席に座りコーヒーとそれぞれ適当に焼き菓子を頼んだ。
あんまりゆっくりしてると一日終わってしまう様な良い空間だったので早々に東照宮に移動することにした。


東照宮

 車で20分ほどで東照宮に着く。そもそも俺の思い付きで「東照宮に行きたいね」ってところから始まったこの会だったがおまけの様になってしまった。
車には千代と二人だけなので

「大人になってから行ったことないから楽しみだな」と千代に言ったら

「大人になってからも何も初めてだよ。なんか井沢さんと海老原と三人で勝手に盛り上がってて… ホント首都圏で育った人って他の人の事全然考えないよね。まああんたは山梨の田舎だけどさ」

ここで無言の車内になった。
早く着かないかなくらいしか思い浮かばない。
なんとか東照宮に到着した。
 小学校の修学旅行で行った以来で行きたくなったんだけど俺と井沢さんは修学旅行で行ってた。千代は茨城出身で修学旅行は鎌倉、横浜なので行ったことなかったらしい。松橋は日本にいなかったので当然行ったことない。千代も井沢さんも松橋も同じ大学の建築学科だ。だからこそ、東照宮に行こうという話になったんだが……
学生時代から東照宮はジャパニーズポストモダンだと雑談のネタになってはいた。ただ俺と井沢さん、松橋の三人は意匠系(デザインなど)の研究室で千代は生産系(工法など)と大きく趣が違う。割と意匠系ではこのネタは流行っていた。それの確認と言う意味でも見てみたい場所ではあった。

 入口の門から壮大だし、ディテールは時代なんて関係なく盛り込まれている。色もとにかく派手だしポストモダンと言えばポストモダンではある。
ただポストモダンと言うより江戸時代以前の建築の総決算的なデザインではあると認識した。 松橋はずっと日本にいなかったので面白がっていた。松橋の連れてきた友達は小学校の修学旅行で行ったことあった様で「大人になってみると違いますねー」と有りがちな答えだ。
松橋はとにかく頭が切れるので「ベルギーにもフランスにもこれくらいかもうちょい古い建物って結構あって普通過ぎて何も思わないんだけどここはなんか独特の緊張感が有る。ヨーロッパ的にはゴシックみたいな雰囲気なんですかね?」と興味深いことを言っていた。
確かにゴシック的と言えばゴシック的ではあるが成り立ちが違うと言えば違う。でも思想は近いものかもしれないと納得した。

 千代と俺は有り変わらず険悪なままだ。だが、幹事としてこのイベントを粛々と進めることにした。
「ここで解散にしようか? どうせみんな日光インターから入って帰るんで同じ方向だと思うけどそれぞれ適当に帰りましょう。皆さん気を付けて!」
千代に「井沢さんの乗ってても良いんだよ。俺一人でも良いし」と言ったら首を横に振った。
じゃあ帰るとするか。

「なんだよ!なんだよ! わたしと一緒に帰りたくないわけ?」と口を尖らせていた。
不機嫌な人を乗せていくくらいなら一人な方が気楽なことは確かだ。一人だったらノンストップで帰れるというメリットもある。
そんなこと言えるわけもないので

「そんなこともないが不機嫌で無言だったから一緒じゃない方が良いのかなと思ったんだよね。井沢さんとなら家も近いしと思っただけだよ。
そんな心配は必要なかったようだ。

「どうするの?家でおろした方が良い?」

「明日仕事だからね。家のほうが良いな。あのラーメン食べて帰れば良いよ」
俺が食べるものを決められるのも納得いかないし、そこまでにお腹すいてればねとは思ったが口に出さないことした。
どうせ渋滞してるだろうし着くころには腹も減ってるだろう。

 案の定、渋滞していた。SAで食べることになっちゃうのかな?それは避けたいんだが…
日曜日の午後だし多少の渋滞は仕方ない。
こんな時の為に「御用邸の月」と言う仙台銘菓「萩の月」をインスパイアしたお菓子を買っておいたしお茶を余分に買っておいた。
渋滞にはまると何か食べたくなるのは俺だけだろうか・・・
千代に「御用邸の月取ってくれない?」と言うと

「は!?今食べるの? お土産で買って会社に持っていくのかと思ってた。」

「そんなこと言った? 会社にお土産なんてもって行ったことないよ」

「え!? 夏休みや有休使て旅行行ったときとかも買っていかないわけ?」

「買わない。買ってるの見たことある?」

「いつもお菓子買ってんじゃん」

「ああ。全部俺が食べてるよ。そのために買ってるし」

「は!? だからデブるんだよ。ほらデブ食えよ。私ももらうけどね」
と取ってくれた。
俺の名誉の為に言っておくが172cm 67kg で痩せてるとも言えないが31インチのリーバイス501も履けてるし問題ないはずだ。
素直に取ってくれればもっとかわいいのにと思ったが口には出さなかった。

渋滞

 もう、渋滞していても一緒にいられれば楽しいってほどのカップルじゃなくなっていた。

「動かなくなっちゃったね… まだ時間早いのに何で渋滞してんだろうな。ちょっと携帯で調べてみてくれない?」

「事故みたいだよ。どっか入って休もうよ」

「事故なのね。 動かなくなって20分くらい経ったから、あと10分もすれば動き出すよ。トイレ行きたいの」 行きたいって言うなよと心の中では思っていた。渋滞中は素直に本線上の一番左車線で耐えてるのが一番速い。こういう時はサービスエリアも混んでるし渋滞を抜けてから入ったほうがサービスエリアも空いているし効率が良いことが多い。

「トイレはまだ平気だけど全然動かないからさ。」

「渋滞抜けてからどっか入るね」 と言ったものの那須から東京は距離にして150km程度で有れば休みたくないのが本音である。
話題も無くなったのか千代が突然

「わたし昨日井沢と一緒にお風呂入ったんだけどさ井沢全然毛が無いんだよ」
どうやら下の毛の事らしい。案外ない人たくさん居るからそんな驚くことでもなくないか?と思ったがそんなこと言っても何も得ることもないしこの車の中が大変なことになるのは容易に想像できたので驚いたことにしておいた。

「寝る時、ダブルベットで二人だったからいろいろ話したんだけどね…」

「ほう、おっぱいとか触ったりしなかったの?」

「そんなことするわけないよー。彼女、最近松橋君と遊んでるらしいよ。そこで納得したよね」

「何を?」

「毛が無いことだよ。でも全然驚きないね? 二人がデートしてるの知ってた?」

「知らないけど、毛がないことと松橋関係あるの?」

「松橋君、ずっとヨーロッパに居たからヨーロッパでは割と普通って言うじゃない?だからだと思う」

「でも、松橋にいろいろ女の子紹介してたじゃん」

「そうだよ、紹介して結構良い感じになっている相手もいるよ。でもねデートして家とか行ってんだよ。 大学入った時から仲良かったのに全然知らなかったよ。ホント、気持ち悪い。 サイコパスみたいじゃない。 友達の女の子紹介してうまく行きかけてるのにエッチとかしちゃうんだよ。 どう思う?」

「家行ったからって大学生じゃないんだしセックスするわけじゃないでしょ? そう決めるのはどうなのよ?」

「そう言って女の家にのこのこ行くのはあんただけだよ。ホントに何もしないんだよね。 そこが良さなんだけどさぁ…」
墓穴を掘ったようだ。以前、千代も知っている女の子の家に誘われて普通に飲んで手料理振舞われて帰ってきたら 「別れたんじゃないのかよ。別れてもないのに男を女の家に来させるなよ」ってブチ切れて千代のところにメールが来たことがあった。

「言われてみるとそうね。 そう考えると気持ち悪いよね」

「井沢は大学入ってすぐに海老原と付き合って結婚したじゃない? 男と付き合ったのもそれが始めてだったみたいだし、急にモテて頭おかしくなってんだよ。 さすがに海老原君もかわいそうだし、こういう話できるのあんたしかいないから今度言ってあげてよ。」

「ああ、原君ってわかる? スキー部で一緒だったんだけど井沢さんと同じ高校だったやつ」

「わかるわかる。ドンキーでしょ?」

「え!?ドンキーってなに?」

「彼、高校の時にびっくりドンキーでバイトしてたからドンキーって呼ばれてんだよ」
それはどうでもよいんだけど……

「そいつがさ、井沢さん高校の時は牛乳瓶の底みたいな眼鏡してて吹奏楽部で暗い感じで男とか無縁の感じだったって言ってたよ」

「吹奏楽ってなんかかわいい感じじゃん。私は女子高だったからそういうの良く分からないけど」

「共学だと運動部の女の子のほうがモテるよ。文科系の部活はあんまりモテないイメージ。松橋は結婚してるわけじゃないから誰とセックスしたって良いと思うけどさ、井沢さんは離婚してからにしたら良いと思うんだよね。 あとさ、そんなんだったら松橋を色んな人に紹介しなきゃよいのにね。 自分が離婚したときに松橋がフリーのほうが都合良いんじゃないの?」

「え!?あの二人離婚すんの? そんな話聞いた?」

「いや、 ただの俺の勘だけど近いうちに離婚するよ」
ちらっと助手席を見たら千代は涙ぐんでた。

「二人のことだから二人で決めればよいんだけど、そうだとしたら寂しいな。私もバツイチだけどさ…… でも別れないんじゃない? 井沢が松橋に色んな子紹介してるのは好きになると困るから色んな人に紹介して誰か自分の知ってる良い子と付き合ってほしいって思ってるみたいだよ」

ますます気持ち悪いじゃないかよ……
と言いたいところだったけど空気が重すぎるのでやめておいた。

 この状況を何とかしたいと思っているとフロントガラスの左隅に事故車が見えた。ハイエースと軽バンだった。日曜だというのに仕事だったのかもしれないと思うとなんともかわいそうな気持ちになった。
「ほら、あそこ事故車あるからこれで渋滞抜けるね」


今回も読んでいただきありがとうございます。
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通勤時間の電車で書いております!今のところすべてiPhoneで書いているので親指が折れそうなのでサポートしていただくけるとコンパクトなノートパソコンを買って書けるようになります!