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知りたくない事(2)

(1)はこちらからどうぞ

2-3年が経っただろうか……

 その間、変わることもなく過ごしていた。 二人はまだ離婚してない。 俺の勘は当たるのでまだ離婚はしていないが 間違いなく離婚する。

泊りBBQ

 その年の冬前に海老原の声掛けでBBQ をすることになった。
 今回は泊りでやることになった。 主に車を出す俺や海老原が「企画して車出して飲めないって納得いかない」という話になったからだ。
 海老原の得意の人任せが始まり「場所どっかないかな?」ときたか…… うちの実家でもできるぞ。ただ雨が降るとできない。泊りの予定で雨天キャンセルはきついので何処か探すことになった。全く当てがない……
 適当に 「『日光東照宮』とか見たくない?」と言ってみた。
 日光東照宮を見たいのは本当だった。日本のポストモダン建築ともいえる理解不能な様式なんだ。
 海老原も賛成だった。 調べてみたら日光のはずれにBBQテラス付きのコテージを見つけた。食材の持ち込みはもちろん、持ち込みのグリルも使えるので言うことなしだ。焚火もテラスで出来、薪も売っているようだ。紅葉も終わっているのでそんな時期の日光は朝晩は寒いし混雑時期でもない。
 10人くらいは泊まれるようだ。なかなか完璧なロケーションだ。 昼過ぎに現地着にしたら、みんな適当に高速のサービスエリアで食べながら行って着いたら火起こしして早めの夕方から食べ始めたら丁度良いんじゃないかとなった。翌朝はホットドックでもやって日光東照宮見て夕方前に出発できそうだ。我ながらなかなか良いプランだと思う。
 俺たちは、このようなBBQを夏を除いた季節ごとにやっていた。 夏は暑いし子供も多くてうるさい。子供がいない俺らには子供が少ないだろう季節のほうがありがたい。
 個人的には冬が一番都合がよい。肉を全部焼くのは俺の係なので冬だと都合がよい。暖かい時期だとみんな火に集まらないので一人でさみしく焼くことになる。何より、食中毒のリスクも少ないのが良い。 BBQをやるとなると、前の週にコストコで肉の塊を買って家の冷蔵庫に入れておく。解凍してローズマリーなどの香草とセロリや玉ねぎなどの野菜やパイナップルのみじん切りなどに付け込んで持っていく。それを蓋付のBBQグリルでじっくり焼く。ローストビーフのようになってとにかくうまい。大概はメインの塊のほかに違う部位か違う種類の肉を用意する。ラムチョップだったり、スペアリブだったりといろいろだ。

違和感

 千代と仕入れに行こうかと思ったら、その週は珍しく週末なのに仕事な様だ。一人も面白くないしコストコに行く機会がない人にとっては楽しいので井沢さんを誘ってみた。あんなことが有っても大学入った当初からの友達だし憎めないところもある。何より、彼女は肉が好きだから連れて行ったほうが良い。
 井沢さんに電話をした。もちろん海老原も一緒にと言う話をしたが
「朝早く行くなら海老原は起きないよ。コストコ行ってみたかったんだー!」
と嬉しそうなので良かった。ドリカム構成は俺も好きじゃないのでこれで良いだろう。
 時間通りに壊れかけのminiでうちに来た。大学生の頃から乗っている赤かったはずが剥げて一部が薄ピンクなったBMW製になる前イギリス時代のRover miniだ。なんとも似合っている。俺の車はすでに路上に出しておいたので一番奥の僕が普段使っている枠を教え停めてもらい俺の車に乗り換えて出発した。

 何か雰囲気が違うな……

 ちょっと気になりながらも運転してコストコに到着。いつも通り肩ロースの塊を買った。ほかは何にしようかと探していると一羽のチキンが良いんじゃないかと彼女が言い出したのでそれにした。俺牛肉以外にさほどこだわりはない。チキンは井沢さんがダッチオーブンに野菜とかと一緒に入れて何とかすると言ってくれた。少し助かる。

 ただ買い物をしている間ずっと違和感がありすごく気になる……

 買い物を終え帰り道で二人で昼を食べることにした。

 気になってるハンバーガー屋があって行ってみたかった。ただ、駅まで近いとは言え近くに駐車場もコインパーキングもなかった。見まわしたらユニクロが有ってコインパーキング式だった。2000円買えば1時間無料というシステムだ。
「ユニクロに停めて行こうか。なんか買っても良いし何もなければ払っても良いし」
ということでユニクロに停め店の中に入った。厚手の綿100%のTシャツが有ったのでそれを手に取った。1280円と足りない。
 井沢さんが「私もお揃いで同じの買うよ。2枚買えば駐車場代無料になるし。車出してもらったしわたし払うね」
 なんだか気持ち悪さを感じたのだがが美人さんに言われるとあっけに取られてすんなり渡して払ってもらってしまった。

 店を出てハンバーガー屋に向かおうとしたが、ちょっと前にも二人でランチタイム時に会っていたので一緒に食事したときは食欲がなさそうだったので申し訳ない気をしたんだった。どうやら、彼女も覚えていたようで、なにも言わなくても 「今日は元気だから食欲あるよ!」 と言い出した。

 違和感が何かやっと判った。
 あ、今まで知り合ってから一度も感じたことなかった『女』を感じるんだ。
 とうとう、離婚することにしたんだな。

 これに気付いて何か絶望感もあった。バーのマスターに何を言われようと俺の中には、まだピュアで美しい井沢さんがいたんだ。

 良く知っている二人だが二人には二人のことが有るんだろうな。俺の持論として恋人の別れや離婚にどちらが悪いってのはない。もし仮にどちらかが不倫などをしたところで二人だけの世界での話なのでどちらが悪いってことはない。もともと、そういう人なら更生できるって思っているほうが傲慢だと思う。二人が言うまでそおっと生暖かく見ていようと思った。

ハンバーガー

 ハンバーガー屋に入った。アメリカ映画に出てきそうなダイナーをこじんまりさせた様な雰囲気で良い感じだ。若干のチープさは感じるが、アメリカン人から見たら、日本人が感じるアメリカ人の作った和風程度には良く出来ているんじゃないかと思う。そんな俺もヨーロッパには言ったことあるがアメリカには行ったことがないのでこの程度でアメリカを感じられるので雰囲気としては十分じゃないかと思う。
 窓際の席に通された。俺はいつも通りベーコンチーズバーガーにパイナップルトッピング、井沢さんは今月のスペシャルと有ったクリームチーズとチェリーの載ったハンバーガーを頼んでいた。それぞれコーラとジンジャーエールを頼んだ。瓶で提供される。もちろんグラスも持ってきてくれる。この辺はアメリカ風のこだわりなんだろう。15分ほどかかった。真面目に作ればそれくらいは掛かるので良い傾向だ。下からバンズ、タマネギ、パテ、ベーコン、チーズ、サニーレタス、トマトと乗ったタイプだ。シンプルにバター、マスタードとマヨネーズの味付けだ。パテは直火で焼いた感じの香ばしさがある。個人的にはバンズ、レタス、ベーコン、チーズ、タマネギ、トマトのほうがおいしいと思っている。下のバンズにバターとマヨネーズを塗る、その上にレタスの相性が良い。パテ、ベーコン、チーズの並びは当然だし、その上にタマネギ、トマトのほうが相性が良いと思っているからだ。薀蓄はこの辺にしておいて食べよう。
 
 すごくおいしい。ポテトとセットで1000円以下なんてすばらしい!駅から遠いだけでこんなに安いなんてすばらしい。都心部なら1350円は取れそうなクォリティだ。
 
 二人で美味しくいただき、安かったのでデザートにニューヨークチーズケーキも頼んだ、こっちもおいしい。固めのチーズケーキでクリームチーズの塊にブルーベリーソースが掛かっているようで旨い。ところでなんでニューヨークチーズケーキっていうんだろうか? アメリカには行ったことないので全く想像つかない。そういや半年ほど前に井沢さんは海老原とニューヨークに旅行してたので
「この前二人でニューヨーク行ってたよね!? なんでニューヨークチーズケーキっていうの?」
と聞いてみた。 
 「仕事で見てみたいのが有ったから行っただけだよ。全然旅行とかじゃないし。チーズケーキはなんだろうね…… わからないよ。とりあえず名物っぽいから食べてきたけど普通だったよ。サイズは大きかったけど」
 
 まだ離婚すると決まったわけじゃないけど、俺の仲では確信に変わっているので離婚することになっている。そうと決まれば結婚時代の楽しかっただろう思い出を盛り込んで弄りたくなるのは俺の悪い癖だ。一瞬鋭い目で見られた様な気もしたが気にしないことにした。
 
 話はそこそこにしてなるべく早めに肉を冷蔵庫に入れないといけないことを思い出した。クーラーボックスに入っているとはいえちょっと不安だ。もし誰か食中毒にでもなったらと毎回思う。
 「そろそろ、行こうか。肉を冷蔵庫に入れないと。うちでコーヒー淹れるよ」 と言い店を出た。
 日本全国を常に出張しているような友達が神戸帰りにたまたまくれた神戸のお店のコーヒー豆があるんだ。彼が全国いろんな場所で買った豆の中でもトップクラスの店らしい。ケニアのカグモイニという地区の豆の様だ。深入りなんだけどフルーティーさと甘みがあってめちゃくちゃうまい。

築40年超のマンション

 広さにこだわって借りた築40年を超えるが35平米あって8万円台のぼろいマンションに着いた。駐車場はマンションの敷地内でそれを含めて10万円以下という条件で借りた。 駐車場の俺の枠には彼女の車が止まっているが一番端なので縦に二台止めることは短時間で有れば全く問題ない。ましてや彼女の車はminiなので3mくらいしかない俺の車も4m丁度だ。二台合わせても7mなので5mの駐車場の枠から2mしかはみ出さない計算だ。まぁ4mはみ出そうが何も問題はないんだけど……「おお、二台楽々止められるね!」 彼女は驚いたように言った。「じゃあ、また遊びに来ても良い?」 「俺は構わないけど千代に刺されるぞ」と笑いながら答えておいた。「千代ちゃんそんなことしないよー」と言うが……

 意外と面倒くさい女だったのかなと少し不安になった。
 こういう時に人と言うのは意外と刺すものなんだ。痴情のもつれで刺すニュースを見ることが多いが毎回納得してしまう。幸い俺は刺そうという感情に至ったことはない。むしろ、自分の至らなさを反省するだけだ。

 荷物を持ってエントランスを入っていった。部屋は1階の一番奥だ。両手がふさがっているのでジーパンのベルトループに鍵が引っかかっているのを取ってもらい彼女にスチールの扉を開けてもらった。なんとなくカップルっぽい感じもあるがそれは封印しておこう。
 「すぐコーヒー淹れるからその辺に座ってて」と言うとイームズの赤いシェルチェアに座った。ダイニングテーブルにセットしてあるやつだが、他にアームシェルチェアの黄色、フリッツハンセンのセブンスチェアの黒とあるが、よりによって一番俺に近い椅子を選んだ。ただのおしゃれ椅子だと思われがちだがなかなか座りやすい。家で仕事をするときにも使ってる。
 オンキョーの小さなコンポの電源を入れるとj-waveがかかる。基本的にチューニングは変えないし、ここではCDも聞かないのでいつもj-waveだ。このコンポは学生の頃に買ったものだからもう10年物だ。当時流行った185mmの本体にアンプ、チューナー、CDが収まっている。同幅のスピーカーとセットで売っていたが、本体だけ買ってきてBOSEの101を繋いでいる。小さいながらもなかなか良い音がする。
 やかんを火にかけ、買ってきた肉の包装を取りドリップをふき取り新しいキッチンペーパーで包みラップをして冷凍庫に突っ込んだ。こうしておくと冷凍焼けも防げるし解凍時にドリップに浸らないので少しは不味くなるのを抑えられる。豆を3杯分メジャースプーンではかり電動のミルに入れて挽き、サーバーとドリッパーをセットしたころに丁度お湯が沸いた。我ながら美しいタイミングだ。沸いたお湯をやかんからコーヒーポットに移しコーヒーを入れる。3杯分だと4分くらいだろう。二人なのに3杯分淹れるのは少し余ったほうが気軽にお代わりしやすいからだ。カップに移してソファーのある部屋に移動した。

距離感

 カリモクの緑の革のソファーに座ってもらった。俺は同じ革を貼ったオットマンに座っていた。さっきの椅子もそうだが中古品だ。カリモクのソファーはもともと布だったようだが擦り切れていたので安く直してくれるところで張り替えてもらった。
「隣座りなよー。なんか申し訳ないよ」と井沢さんが言ってくれた。二人だとちょっと近いしねと言ったが
「え!?今更?」と言うので、言い合っても仕方ないので大人しく隣に座った。

あまりにも真が持たないのでタバコに火を着けた。冷静になるとタバコなんて大してうまくもない。

「なんか気付いた?」と聞かれたが全く気付いてないことにしておいた。

肉をどう仕込むかの話をして話を逸らした。

それにしても女感がすごい……

 正直なところ、千代が井沢さんの友達でもなければ今すぐにでもセックスをしてしまいたいくらいだった。俺の中にセックスをしない理由は千代に悪いからではなく二人が友達同士だから厄介なことになりそうだという懸念だけだった。もう俺には良心なんて何もない……

 とりあえず席を立ちキッチンに行きコーヒーに合うお菓子を探した。丁度良くロータスのカラメルビスケットが有ったので「コーヒーにはこれだよね。」とテーブルの上に煩雑に並べた。
心の中では帰ってほしくはないが、もう耐えられないので今すぐにでも帰ってほしいのだがキッチンでお菓子を探し始めてしまった。
 
 とりあえずお互いの仕事の話などをした。お互い院卒なので5-6年は働いている。仕事柄どちらも独立を考える時期でもある。俺はあんまり考えてないが、井沢さんは独立して仕事量を減らすというのも視野に入れているらしいが正直内容なんてなんでも良かった。

 お互いのコーヒーも無くなった。
 「冷めてるけど半物ずつくらいならコーヒーあるよ」と言うと
 「明日、お客さんと打ち合わせあるからちょっと仕事するからそろそろ帰るね。」と言われた。

 さみしい気もするが安心した。これ以上は俺は耐えられなかったかもしれない。

 彼女と駐車場に向かい車の入れ替えをし見送った。
 「じゃぁ、来週よろしくね! お肉楽しみにしている!」と楽しそうに帰って行った。
 もう、離婚を決めたからなのかすごく元気だ。もし決めてないのにこんな元気だとある意味怖い。もちろん何事もなく平穏ならそれはそれで良いんだが……

 この件に関しては井沢さんがどうこうと言うこと以上に俺の勘が外れたことになるのは、気持ちが許せないので離婚してほしいと思っている。そう、異常なまでの負けず嫌いなんだ。もちろん自分でも良い性格だとは思っていないがこれはこれで仕方がない。スポーツの面ではこれが良い方に働いて良い結果を出せたと思っている。仕事の面でもそうだ。成功の為には絶対に努力は惜しまない。ただ負けたくないだけなんだ。

 彼女が何事もなく帰り一安心した。やかんを火にかけヒュミドールからペティコロナサイズのアップマン レガリアスを探し出した。昼にはちょうど良い葉巻だ。もう2杯分コーヒーを入れて葉巻に火を着けた。何もかも忘れるような幸せな時間を味わえる。

これで良かったんだと葉巻を吸いながらしみじみ思った。

つづく

今回も読んでいただきありがとうございます。
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通勤時間の電車で書いております!今のところすべてiPhoneで書いているので親指が折れそうなのでサポートしていただくけるとコンパクトなノートパソコンを買って書けるようになります!