知りたくない事(1)

 大学入学など新しい環境に入ると「可愛い子が居ないかな?」とか考えると男は多いと思います。私ももれなくその1人です。皆さんはどうですか?


緊張

 入学式の前にオリエンテーションと言う会が有り、学科全員が集まり入学式から数日の流れなどを説明があった。学生証を配布され初日に通学定期を学割で買える様な気遣いだったと思う。会場は学食だった。学食とは文字通り食事をするスペースで物事の説明には適していないのになぜ学食なのかという疑問があった。入学後に知ることになるが学食が一番新しい建物で冷暖房完備で奇麗だった。教室はお世辞にもきれいとは言えない。暖房はあったが冷房はない劣悪なものだった。そんな理由から入学式前に新入生を幻滅させないという精一杯の気遣いだったのかもしれない。

 緊張しつつ大学に到着した。最寄りの駅からは歩いて15分強だが無料のシャトルバスが出ていた。高校時代は部活もやっていたが一年の浪人生活、大学合格後の堕落した生活の俺には歩くと言う選択肢はなかった。バスに乗ると10分弱で到着した。バスを降りると一番近くの建物が学食だった。近代的な鉄骨造の建物だが4.5m程度の正方形のグリッドで構成されそれぞれに寄棟屋根が架かり軒の低いの日本的な要素を残した近代的なかわいらしい建物だった。

 恐る恐る足を踏み入れようとしたところ後ろから肩を叩かれた。「こんなところでだれ?」と思ったら中学時代の同級生だった。中学卒業後それぞれ違う高校に進んだがお互い浪人をして同じ大学の同じ学科に入ったのだった。当時は新聞の地域版に県内の高校からの合格者が掲載されるという、今では考えられないような個人情報の扱いだった。初めての環境で友達がいるのは安心だ。

 二人で受付を済ますと学生証を受け取り指定された席に着いた。学籍番号順に席が指定されていたので離れ離れになったが仕方ない。周りを見渡してどんな人がいるのか観察をして開始を待った。

一番の美人

 そんな中で背が高い美人がいた。これだけで俺は大学が楽しみになった。ただ、その日は話す機会もなく遠くから見ているだけであった。若干気持ち悪い目線になっていたかもしれない。席も離れていたので仕方なかった。今でこそ、初対面の女性といくらでも話ができるが当時はできなかった。高校も共学、予備校時代も彼女もいたし女の子の友達もいた。

 何はともあれ理系の学科に美人がいるのは良いことだ。「大学生活を楽しまないと」と思いながら履修登録の説明などを聞きその会は終わった。

 残念ながら名前を知ることすらできなかった。

入学式

 残念ながら、まだ名も知らない高身長の美人を見つけることはできなかった。全学科そろっているわけだし理系のみの大学とはいえそれなりの人数がいるので仕方ないことだ。驚いたことに俺の学科は女子が4割くらいいたが他の学科はほとんどいないようだ。これはご愁傷様というしかない事態だ。偏差値60を超えて理系私大では難関といっても良いとは思うが、そんなに頑張ったのに女子がいないとかどうしたらよいのか俺には全く想像できない。

 結果論だがそんな俺も学内で付き合ったのは4年生になってからだった。それまでは予備校時代の友達と合格後に行ったスキー旅行で逆ナンパしてきた女の子やバイトで知り合った子、幼稚園の同級生と付き合っていた。後になってみると学科に女子が居ようか居まいがあんまり関係ないがそこを気にしてしまうのが19歳の青臭さなんだろうな。

井沢さん

 履修登録も終わりサークルや部活の勧誘のシーズンも終わり本格的に授業も始まった。中高と陸上部でそこそこの成績だったが理系で同じような練習を積めるとも思えない。同じような成績を上げることは不可能だと思いほかのスポーツをやることにした。割と得意だったスキー部に入った。レジャースキーだけながら高校時代にSAJ2級に合格していた。夏場も週に2-3回球技やトレーニングなどの練習があるらしく、なにかしら運動はしたかったのでちょうどよいかなと思い入部した。

 スキー部には学科から原が入って来た。彼は中学時代に2級を取り高校に入ってすぐ1級に合格していた。部活終わりに、原が「お前の学科に背が高い女いるだろ?」と聞いてきた。あの美人さんの事かなと「結構美人の子でしょ?なんで?」と聞いてみたら「美人だとは思わないけど、高校時代は牛乳瓶の底みたいな眼鏡かけててあんまりかわいくなかったけど、この前見たら眼鏡やめて少しは可愛くなってたから多分そうだな。高校の先輩なんだよ。彼女は1浪しているから」 なるほど良い情報だ。そこでやっと名前を知った、井沢さんというようだ。

 数日後、専門の授業の時に近くの席に座って声をかけることにした。
「おはよう」
「ぉ おはよう・・・」
「急に声かけてごめんね! スキー部に入って機械科の原が居て同じ高校だって聞いたから」
ちょっと不審がられたが原の名前を出したところ表情が穏やかになった。
「あぁ!コゾウね!」
どうも、小僧寿しでバイトしてたから「コゾウ」と呼ばれてたらしい。
彼女と仲良かった友達が部活が一緒だったから学年が違っても知っていたようだ。とりあえず挨拶をする程度の仲にはなった。まずはスタートラインに立てたような気がする。少しずつ距離を縮めて何とかならないかなと考えた。

敗北

 なかなか思うようには進まなかった。挨拶する程度でどんな人か知ることもなかった。部活も忙しかったしバイトもしていたり、もちろん勉強も楽しくなかなかそんな余裕がないのが現実だった。夏が近づくころになると井沢さんが海老原と良く一緒にいる様になった。海老原も仲良いしナイスガイだが中学から私学で遊びなれてそうな空気が出ている。

 俺と付き合っていて振られたわけでもなければ仲良くなりたいなと思ってた程度なのでそんなに悲しいこともなくちょっと残念だなって気持ちくらいしかなかった。若い時の恋愛なんてこんなものだよ。海老原とは仲も良いので今更、井沢さんとも仲が良くなった。どうやら、井沢さんは高校時代は牛乳瓶の底のような眼鏡をかけててモテなかったので初めて彼氏が出来たようだ。それはそれで良かったんじゃないかとは思う。3年生くらいからはそれぞれ研究室の系統も違いほとんど会わなくなってしまったのだが、驚くことに二人はそのまま別れず卒業して数年経ったころに結婚をしたらしい。

 二人が付き合い始めたころには、心の奥では「いずれ別れるよ。その時は近くにいるんだし俺にもチャンスはあるよ。」とは思っていたことは否定しない。

 完全に敗北だったと言わざるを得ない。俺は海老原に負けたんだ。

海老原

 大学2年生くらいを最後に井沢さんや海老原と学校で会う機会も少なくなってしまった。お互い専攻も違ったし、それと共に会う機会も減ってしまった。学校で会えば近くのドトールでコーヒーを飲みに行ったりというのも当然あった。そんな感じでもあったので結婚式に呼ばれるような間柄でもなかった。彼女たちが結婚したころは、俺は大阪の会社で働いていた。出身地でもないし数年以内に東京に戻れるという約束で入社していたのでいずれ居なくなると思い好き放題遊んでいた時期だ。

 一年後、会社の東京進出が決まり東京支社の部長として無事帰れることになった。勤務地は銀座の裏と言えば聞こえは良いが築地のはずれだった。東京支社と言っても他の部署の営業が数人いるくらいで、僕の部署は僕一人だった。 そんな感じなので営業と称して外出し学生時代の友達の会社を回っていた。もちろん仕事の期待もあったがほとんどお茶をしに回っていたようなもんだった。その中にもちろん、海老原も入っていた。

 とりあえず海老原の携帯に電話をしてみた。

 「おお、私用の携帯にこんな時間に電話が来るからびっくりしたよ。どうしたの?」というから、

 「こんな感じに大阪に行ってたんだけど東京に戻ってきたから挨拶だけさせてよ。」 と伝えせっかくだから夕方から会うことにした。会社の掲示板には、彼の会社名と『直帰』と書き出かけた。式に呼ばれたわけでもないが知っていたし手ぶらで行くわけにもいかないので、コンビニで安い熨斗袋と筆ペンをを買い近くのドトールの喫煙席でコーヒーを飲みながら「御祝い」と書いて1万円を包んで向かった。

 受付で海老原につないでもらい応接室に通された。会うなりお祝儀を渡し

 「お前の早業には参ったが、ずっと付き合って結婚するなんてすごいな」というと

 「たまたまだよ。まだ引っ越したばかりだけど落ち着いたら遊びに来てよ。久しぶりにみんなで遊ぼうよ」と言ってくれた。

 これは楽しみだ!

 もちろん、今更奪い取ってどうにかしようなんて気持ちは更々ない。

 純粋に学生時代の頃の友達と会えるのがうれしかった。

BBQ

 電話が鳴った。海老原と表示されている。

 「家も良いと思ったんだけど思ったより人数多いからBBQとかどうかな? 道具持ってない? なんか場所とかないかな?」

 道具はある。実家の山梨のほうならいくらでも出来る。何なら家の庭でだって出来る。海老原はこのように無責任なのだ。 そういうやつだから後先考えずに案だけ出して実働部隊の外注が頑張って働くような企画に向いているんだろうなと思いながら電話を切り実家に電話をした。布団はないけど部屋はあるので10人くらいなら泊まれると母親はやる気満々だ。そんな内容を海老原に折り返した。

 田舎なんで土地は広いが雨でもBBQができるようなしゃれた屋根はついていない。生憎天気予報は雨だった。 二日前に海老原と相談したら肉とかは買っていたようで無駄になってしまうので彼の家でやることにした。ホットプレートは一台買って2台体制にするようだ。こういうとことは頼れる。11時に二人のマンションで集合になった。地図はメールで送ってくれるそうだ。

 二人のマンションは小田急線の経堂と田園都市線の桜新町のちょうど間くらいの便利な場所に有った。歩くとどちらかも20分強。当時は向ヶ丘遊園に住んでいたので楽に行けた。ちょっと早いかなと思ったけどチャイムを鳴らした。

 奥さんの井沢さんが出てくれた。

 「久しぶりー。入って!! さすが時間通りに来るよね。うちの大学の人みんな時間に来ないからあなただと思ってたよ。海老原は買い物行ってるから待ってて」 新婚の奥さんと二人なんてとちょっとドキドキもするわけもなく、近況の話とか彼女はいないのかとか話しながら真新しいホットプレートや皿を並べるのを手伝っていた。

 「リンちゃん、覚えてる?」 もちろん覚えている。例のスキー部で一緒だった原の同級生だ。割と強烈な性格だった気もする。

 「彼女も彼氏いないんだって。どうかなと思って」 良い印象が無い人が彼氏いなかろうがなんとも思わないのが正直な気持ちだ。そんな俺の気持ちは顔に出ていたようだ…

 「今日、千代ちゃん来るよ。知ってたっけ? 彼女も彼氏いないよ」 同じ学科とは言え200人も居れば当然知らない人も多い。なんか存在は知っている気がするが全然覚えてないな。どうやら俺以外はカップルで来るようだ。ほとんど、皆仲間内で付き合っていたようだ。俺は大学の4年生の頃同じ研究室に入って来た後輩と付き合ってはいたが仲間内で付き合わなかった。特別避けていたわけでもないのでそうなる相手がいなかったんだろう。

 「見ればわかると思うよ。今日呼んであるから話してみて!」  と夫婦そろって適当なことを言っている。井沢さんってこんな適当な人だっけかと思う以上に、「結婚早々マウンティングしてお見合いおばさんになったのかよと」喉元まで出かかったけどやめておいた。 

 海老原も戻って来た。ビールを買ってきてくれたようだ。

 「どうせ千代ちゃんは遅いよ。まだ寝てるだろうし。そろそろ始めよう」 と井沢さんの一声で会は始まることになった。

 海老原が結婚の報告と挨拶を始めた結婚式も身内だけで二次会もやらなかったのでみんなに報告できなかったので、今日の会を設けたようだ。

 「研究室一緒だった人より、なんか自然に集まって友達になった1,2年の頃に仲良かった人と会いたくなるんだよね。」 と言っていた。おおむね同意だ。専攻が一緒だったりすると同じような会社だったりして休みの日に会っても良いことはないだろう。

 「かんぱーい!」

 自己紹介も要らない。みんな知った仲だ。みんな適当に飲み物を取り肉を焼きながら話がはずんでいる。やっぱり楽しいメンバーだ。

千代ちゃん

 家のチャイムが鳴った。井沢さんが

 「遅いよー 早く入って」

 例の千代ちゃんが来たみたいだ。入って来たので挨拶をしたが正直言って全く記憶にない……

 彼女は俺のことを話をしたことはないが知っているようだ。話したことないなら覚えていなくても大した問題ではないが、もしかして気を使ってそう言ってくれているだけかもしれない。

 その会で喫煙者は海老原と俺と千代ちゃんだけだった。海老原は家では吸わないというか井沢さんの前では禁煙したことになっているらしい。表向き喫煙者は二人だけだった。バルコニーに灰皿を用意してくれたので千代ちゃんと俺で一緒になることが多かった。マイノリティが時間を共有することが多いと仲が良くなるのは必然だった。たまに海老原が非喫煙者のふりをして俺に一本くれと言う。バルコニーで一緒に吸いながら 「家で吸うタバコは旨いね」 と言っている。新婚早々苦しんでるな。

 みんな、二人の結婚前から仲良かったので海老原と井沢さんと旧姓で呼ぶのが普通だった。

 昼前から始まった会は暗くなるまで続いた、後半は食べ物もなくなり飲み続けるやつも居れば昼寝を始めるやつも居た。それなりに楽しいがお開きになった。 みんなで手分けをして片づけ、解散となった。ほとんどが田園都市線で帰った。俺は経堂の駅前でラーメンを食べていくことにした。

 「みんな田園都市線なのね。俺小田急だから経堂でラーメン食べて帰るわ」 と言ってみんなと別れた。

 千代ちゃんだけが 「私自転車だし、ラーメン食べて帰る」 と言うので一緒に駅まで歩いて向かった。だいぶぼろい自転車だったが聞いたら高校生の頃から乗っているようだ。茨城県出身で大学入学時は引っ越し便に乗せて実家から川口に運んだが、その後大森、今は桜新町に引っ越したがこっちに来てからは自転車は自分で乗って移動したようだ。こんな話を聞くとロードバイクかと思うだろうが普通のママチャリなのが驚くところだ。荷物が少ないから自転車が有るか無いかでだいぶ引っ越し代が変わるようだ。そんな話をしていると、すぐ着いた。

 ネギ油が入った今時珍しいあっさりの醤油ラーメンだ。縮れ麵なのであっさりしたスープでもよく絡む。カオタンラーメン*に似た感じではある。ラー油に和えた白髪ねぎが山盛りになったネギラーメンが特にうまい。千代ちゃんはネギラーメンがう旨いと言ったのに普通のラーメンを頼んでいた

 ほどなくして、千代ちゃんと付き合うことになった。こんな感じで付き合い始めたので海老原、井沢夫妻とはよく遊んだ。一緒に食事や飲みに行ったりした。お互い大学入学早々からの友達だったので気兼ねなく話もできみんな楽しかった。

 そんな生活も3~4年続いた。俺も珍しく千代とは長く続いている。なんだかんだで海老原夫妻とは月に一度以上は食事に行っている。一見代わり映えなかったが、海老原夫妻と2,3ヶ月会わない時期があった。

 「最近あの二人と会ってないね」 と千代に振ってみたが

 「なんか二人とも忙しそうだよ」 と濁された。あとで知ったのだが井沢さんが入院、手術をしたらしかった。

 後になって千代から聞いたのだが、病気で手術をして子供が産めなくなったということだった。その時「ふーん」って返事をしたら千代がマジ切れしたのは驚いた。俺としては戦前じゃあるまいし子供作るわけに結婚する訳じゃないしたまたま子供が出来た。出来なかったという話なので大して重要な話じゃないと思っていたし、世の中のほとんどの人がそう考えているものだと思ってた。

松橋

 海老原は大人数で集まって遊ぶのが好きでフットサルを企画したりしてくれた。そんな中に、松橋と言う男がが参加したがっていたので呼ぶことにした。松橋は年は俺より4つ下の地元の友達である。元々は近所に住んでいたが彼が中学に上がるくらいの頃に親の転勤でベルギーに行っていた。近所だったので最初は家族ぐるみで手紙を送ったりしていたのだが、途中からはパソコンのメールになり交流は続いていた。 フランスの大学院を卒業して最近帰ってきた。親は山梨の元々の家に住んでいるが、彼は就職活動もしなきゃらないので都内でマンションを借りて一人暮らしをしているようだ。そんな経歴なのでフランス語、英語が堪能でスポーツも万能だ。しかもイケメンである。男としてはいけ好かないが悪い奴ではないので参加してもらうことにした。

 そんな松橋は何度か参加するとともに食事会とかにも来るようになった。どういうわけか井沢さんになついていた。仲が良いというよりもなついているというのが良い表現だった。飼い主の後ろをちょこちょこついていく小型犬みたな感じだ。傍から見ると姉弟のように見えなくもない。井沢さんは海老沢としか付き合ったことないような固い人なので何事もないとは思っている。そのせいで姉弟と見えるのかもしれない。小学校から大学までヨーロッパで育っているので習慣も違うだろうし距離感も違うもんなのかなと見ていた。

 俺、千代、井沢さん、松橋で遊ぶことも増えてきた。何度か4人で食事に行ったりもした。井沢さんと松橋はほとんど酒が飲めないのでもっぱら食事ばかりだ。それはそれで楽しいので良いのだが行くお店が限られてくる。

 そんな日も続くと井沢さんが松橋に女の子をいろいろ紹介し始めた。松橋のことがうっとおしくなったのかな? 誰かと付き合えばもう少し離れてもらえると思っているのかな? と考えると紹介したのは俺だしちょっと申し訳ない気持ちになった。

ステーキ

 ちょっと気になったので、井沢さんと二人で食事に行った。もちろん、大学入学当初の様な気持ちは俺にはない。井沢さんは相変わらず美人であることは変わりないのだが……

 井沢さんは肉好きなので麻布十番にあるステーキハウスにした。シェフが目の前の炭火のオーブンでそれぞれ焼いてくれる。カウンターが8席程度の小さなお店だ。鉄板焼のようにカウンターの前には鉄板がある。何度も行ってる店だが鉄板がある理由が気になってシェフに「なんで鉄板あるの?」って聞いてみたら
「鉄板焼屋みたい伊勢海老や鮑やろうと思って仕入れたこともあるんだけど、みんなステーキしか食べないのよ。ガーリックライス作るくらいだからもっと小さいので良かったけど。これ100万とかするのよ…」って笑ってた。ごついスキンヘッドのおっさんだが話すときにおネエ言葉になるのが面白い。

 確かに1万そこそこでサラダと牛骨で出汁を取ったスープ、ステーキ、ガーリックライス、チーズケーキとコーヒーが出てくる店で追加で伊勢海老や鮑は頼まないだろうなと思った。

 本題に戻ると井沢さんは松橋についてはうっとおしいなんて思ってなく彼氏募集している後輩の女の子がいたから紹介しているだけらしい。一安心だった。それなりに責任は感じてたと伝えると……

 「相変わらず優しいね。良く気付くし。あなたみたいな人と結婚したらよかったな。」

 動揺が顔に出たようだ…

 「子供要らないって言ってたじゃない?私子供作れなくなったじゃない、それで海老原は子供欲しかったみたいなんだよね。そもそも子供欲しいと思ってないから病気のことは気にしてないんだけね。だからあなたみたいな人なら気楽だったかなって思って…」

 「井沢さんが紹介しなければきっと付き合ってなかったの何言ってるの?」 とは言えずに黙った。

 この二人は離婚するんだろうなと分かった。この手の俺の感は当たる。

 二軒目も用意はしていたが気分が悪いので1軒目でお開きにしたとたが一緒に帰ることになるんだった。南北線で溜池山王に行き国会議事堂から千代田線に乗って代々木上原から小田急に乗るのが一番速いが、めんどくさいので大江戸線で新宿まで行き各駅で座って帰ることにした。俺が気分悪かったせいか二人はほとんど無言だった。彼女を経堂で下ろし、そのまま帰った。

 仕方ない、地元のバーで飲み直すか。

 いつものバーに入った、頼まなくてもウォッカトニックが出てくる。俺が一杯目は必ず、それを頼むからだ。葉巻を吸う許可を得て葉巻用の灰皿を出してもらい吸いながら今日の話をした。

 「お前の友達なんで言いづらいけどちょっと下品な人だよね」

 確かにそうだ。俺は全く否定できなかった。

 あのピュアで美しかった井沢さんはどこに行ったのだろうか……

つづく

 

通勤時間の電車で書いております!今のところすべてiPhoneで書いているので親指が折れそうなのでサポートしていただくけるとコンパクトなノートパソコンを買って書けるようになります!